太陽にほえるキャバ嬢


 ドレスが血で染まっていると思ったら赤ワインだった。

 ナナミさんはシンクで手を洗っている。


「どうしたのそれ」

「やばいですよね。五卓です。客が会計でごねだして黒服に掴みかかったんですよ。ひじがグラスに当たってこうです」

「ドレス台無しだね」

「あのクソやろう! ボトルでぶん殴ってやろうかと思いましたよお」


 泣きまねをされたのでよしよしと頭を撫でてやる。早く元気になって欲しかった。ドレスを汚されると後にも響くし、結構きついのだ。


 ナナミさんは大量のおしぼりを抱えて更衣室に消えた。入れ替わりでマイさんが入ってくる。


「ナナミはなんで胸から血を流してるの?」


 やっぱそう見えるよね。


「赤ワインです。クソ客です」

「可哀想に。あれ落ちないよ」

「白とかならまだマシでしたかね」

「あたしなら水でも喧嘩だわ」


 煙草を吸っていると着替えを済ませたナナミさんが戻ってきた。


「ナナミ大変だったね。って、なんだ。そっちの方が似合ってんじゃん。そんなの持ってたんだ」

「そうですか? ネットで買ったんですけどなんか太って見える気がして、一回着たきりお店に置きっぱなしで」

「私もいいと思うよ。むしろ腰が細く見える。もっと着た方がいいよ」

「そうかな、えーそうかな? ありがとうございます。呼ばれてるんで行きますね」


 赤く染まったおしぼりをカゴに放り込むとナナミさんは背筋を伸ばしてフロアに出て行った。


「ナナミはいい子だね」

「はい。尊いって感じです」


 おやじくさいと笑われた。


 キャバ嬢は戦士だ。時に血を吹く胸を押さえて戦う。私達は傷付いた仲間を決して置いて行きはしない。共に朝日を見るために。


 ~♪



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