第3話 証拠集めするのが先

 流石に5日もするとラインの通知が孝が怒りの文言で埋まるようになってきた。


 昨日久しぶりに会った妹の瞳子が珍しく私に対して機嫌が良くてこっちも姉妹で語らって気分が良かったのに孝のラインのせいで台無しになる。


 流石にブロックはやりすぎだろうなぁ……向こうから見たら帰って来いというのは当然の主張なわけだし。


 多分家事が滞ってイラついているのだろう。孝の家事スキルは正直言って低い。私が専業主婦であるのをいいことご飯の準備からゴミ出しまで100%家事担当は私だった。


 それに私がネコのきょん介の体調不良なんていうネコ嫌いの孝から見たらどうでもいい理由で実家に帰ったのも怒りを招いた原因ではあった。


 だけど親が危篤なんて言ったら流石に旦那もよその目を気にして見舞いなどに来るだろうから仕方ない言い訳だったのだ。


 一度帰らざるをえないだろうか。しかし、あの種付けシタ夫と会いたくもないし口もききたくない。


 一方で私の今後を考えると離婚に向けての準備として不倫相手である☓☓の正体を探らなくてはならないのだ。


 思い起こすとコロナの外出制限が解け、コロナウイルスが第5類になった頃には週1だったジム通いが週3に増え、「営業のために接待が増えた。出張が増えた」と言って午前様になったり外泊が増えたりしていたのだ。


 専業主婦として家に籠っていた私は孝が仕事をしやすいように、そして彼の会社の商品がより売れるようにといろいろと工夫を凝らして夫の役に立ってきたつもりだった。


 もちろん、最終的には2人夫婦の子供を作って幸せな家庭を……というのが私の夢でもあった。


 だから、筋トレして自信をつけていく彼が私好みのぽっちゃりさんでなくなり、筋肉ムキムキになってマチズモ男性優位主義に支配されだんだんと私のことをないがしろにするようになっても笑顔で許してしまっていた。


 彼の本質は優しいままだと思っていたから。




 しかし、それは大きな間違いだった。出張という名の外泊やジム通いという言い訳は不倫のための嘘だった可能性が高い。


 今思えばスポーツジムのシャワー室というのは意外なほどいろいろなシャンプーやリンスを置いているのだなと思って暢気のんきに構えていたのだがあれは不倫相手といろいろと違うホテルを使ったためにしょっちゅう違う香りをさせていたのだと思う。臭いフェチの私の鼻はごまかせない。


 前にも書いた通り途中からは寝室さえも別々になってしまっていたし。


 ふと気付く。そうか、あの旦那の出張の予定が書かれているカレンダーも不倫の証拠になるかもしれない。


 一年間分のカレンダーを一ヵ月ごとにめくって使える卓上カレンダー……あれに旦那がいない日や遅く帰ると言われていた日を印していたのだが、あの出張すると言われていた日と彼の会社の業務日誌と付きあわせれば孝の嘘が白日の下にさらされるのではないだろうか。


 いや、旦那が嘘をついていたという証明にはなっても不倫の証拠というには弱いか……


 やっぱり探偵でも雇うしかないのかなぁ……幸い私にはその程度の余裕はあるし。


 本当にただの専業主婦だったらそんな余裕はなかったかもしれない。旦那の稼ぎだけを当てにしていたらこういう時にも不利になってしまうのだ。

 しかし、本当にどこから手を付けたものか……


 疑って悪いがやはり旦那の出会いの場所としては会社かジムが一番怪しいだろう。


 いや、今の時代出会い系なんて可能性もあるし、今の一般的にマッチョでイケメンと判断される孝なら本当に接待で飲みに行った先のお店で出会った女の人を口説いたって可能性すらあるのか……


 ほんとにまずは家に一度帰ってカレンダーを回収、その後カメラを仕込んで孝が不倫相手の☓☓を連れ込んだところを写真か動画に収める方が現実的かもしれない。


 コロコロッ ダッ タタタタッ パシッ


 10歳のきょん介が珍しくリビングの床に落ちていた丸いものを転がして遊んでいる。


「こら、きょん介ぇ~床に落ちているもので遊んじゃダメにゃん。いったい何が落ちてるにゃん?」


 ん!? これって塩あめ? 塩あめが1つセロハンの包み紙に包まれたまま落ちていた。


 ちなみに私が好きな伯方はかたの塩を使った塩あめだった。


「あ、塩あめじゃん、ラッキー」


 包みを開いて舐める。床でネコがコロコロしていたからって包み紙がついていたから問題ないだろう。


 あ~、塩味が効いてて美味しいなぁ。


「よしよし、よく塩あめを見つけたよ。またあったらちゃんと私に持ってくるんだよ」


 あめを口の中でコロコロしながらきょん介に話しかける。あ~、きょん介が黒猫じゃなくて三毛猫有名な猫ならひょっとしたら犯人のヒントを私に届けてくれるかもしれないのに。


 犯人候補の顔写真を並べてその中からきょん介が選んだ1枚が犯人とか。タコのパウエルくんに出来たんだからきょん介にも出来るかも。


 あ、でも私が知らない女の可能性もあるのか……しょうがない。一回家に帰ることにしよう。


 家に帰る前に家電量販店によってトレイルカメラを購入する。税込で9,805円のものを2台。マイクロSD カードも買ったので全部で2万円を超えた。


 これって慰謝料に上乗せできるのかな? よく分からないけど浮気をしっかりとし立証できるように証拠集めするのが先だろうなぁ。


 めんどくさいからもう探偵に頼じゃっていい? 本当に自分で尾行したり写真撮ったりするサレ妻の復讐マンガとかのヒロインは頑張り屋さんだよ。


 私は宅に2つトレイルカメラを仕掛けるだけで面倒くさいのに。


 ピッピッピッピッ


 マンションのエントランスで自分の部屋の番号を入力して呼び出し。うん、部屋に孝はいないな。


 安心して自分の部屋に潜入しよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る