第34話 新しい世界へ

「……こんなことになるなんて聞いてませんでしたけど」

 ムスッと口をとがらせるニカに、

「だから言ったじゃないか。機が熟すればすべて分かると」

 いたずらっぽくアインは笑い、うきうきとニカの背中に乗った。

「若い女の背中に嬉々としてまたがるなんて、アンタも悪趣味ね」

 軽べつのまなざしを浮かべるアズーラ。

「ま……待て。エリス!」

 窮地に陥った神官長が、渾身の力で白銀の杖を振りかざす。

 だが、ニカの身体は稲光を瞬時にはね返し、その衝撃で、東の窓がこっぱみじんになった。

 こなごなになったガラスが、朝の光を受けて、宝石のように輝く。

「新しい人生にふさわしい幕開けだ」

 アインが機嫌よく口笛を吹いた。

 白き龍となったニカの身体はふわりと宙に浮き、こなごなになった窓からするりと外に出た。

 十七歳おめでとう。

 新しい世界へようこそ。

 ニカを祝福するように、朝日がニカに向かって微笑みかける。

 うわぁ、まぶしい。

 朝ってこんなにまぶしいのね。

 外の世界が、こんなにキラキラした光に満ちあふれていたなんて知らなかった。

 それに、空。

 お父さんたちやお母さんたちから話には聞いていたけど、青空ってこんなにキレイだったのね……。

「お前の名前はニカだよ。私の国で『翼』をあらわす言葉だ」

 身寄りのない私に、与えてくれた名前。

 みんな。もう会えないかもしれないけど、私、名前にふさわしい翼を持てた。

 まだ、うまく飛べないけど、ようやくこの世界に羽ばたくことができたよ。

 今まで育ててくれてほんとうにありがとう。

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