第32話 覚醒

 全身幸せに満ちあふれたニカが、目を開けると。

 あれ?

 なにかがおかしい。

 先ほどまで広かった部屋が、やけに狭く感じる。

 自分よりかなり背の高いアインが、なぜか小さく見える。

 先ほどまであれほど厳格で、恐ろしいまでの威圧感を放っていた神官長も、まるで子どものようだ。

 ニカを見つめて、あんぐりと口を開けている。

「あ……ああ。これが、伝説の――」

 伝説の?

 きょとんとしたニカが、窓に目をやると、そこには巨大な龍の姿が。

「きゃあっ!」

 その姿に驚いてニカが後ずさると、なぜか、龍も同じようにニカから離れた。

 ズゥン! と地響きがする。

 な……なにこれ?

 ニカは、落ち着いて窓に映る龍の姿を見つめた。

 全身を包む白い鱗に、大きな翼。紫色のたてがみ、それに深緑色の瞳――。

 どうしてだろう。この龍、私に似てる。

 ふと下を向くと、小さいはずのニカの手に、巨大で鋭いかぎ爪が生えていた。

 まさか……これは。

 ニカの背中に冷や汗がはしる。

「おはよう、ニカ」

 アインが愛おしそうにニカを見上げる。

「いや、今からはちがうな。この世界にようこそ。神獣エリス」

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