第30話 機は熟した

「ほざけ! そんな薄汚い風体のお前に今さらなにができる? もはや従えている魔物すら呼び寄せることができぬだろうに」

 神官長が、ふたたび白銀の杖をアインに向ける。

 ここでどんなに抗ったところで、何度も何度も雷のえじきになるだけだ。

「そうだな。今のオレは、アンタには勝てん。だがな」

 アインは、ガラス窓に視線を投げた。

 かすかではあるが、外から光が差しこんでいる。

 夜明けだ。朝日が顔を出したのだ。

 アインが安堵のため息をつく。

「機は熟した」

 アインは渾身の力をこめて、ニカの腕を取る。

「逃がすか!」

 ニカを止めようとする神官長。

 だが、神官長の前にエンデが飛びかかる。

 エンデは神官長の顔をひっかくと、アインの足元に舞い降りた。

「焦げた匂いもなかなかそそりますな、ぼっちゃん」

 目を輝かせながらアインを見上げるエンデ。

「ひとをバーベキュー扱いするんじゃない」

 喰えるものなら喰ってみろ。


 神官長は、片目を負傷し、フラフラとおぼついた足取りながらも、

「外には出さん。このときを、この朝を十七年間待ち望んでいたのだ」

 と、しつこくふたりの行く手をはばもうとする。

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