第23話 血
アインはまったく表情を変えずに、血まみれの神官たちのもとへ向かった。
「おい、この塔のなかで窓のある場所はあるか。答えたら命だけは助けてやる」
アインは息もたえだえの神官たちに声をかけてまわる。
しかし、誰からも返答はない。すでに手遅れか。
「じーさんよ。全員は殺るなと言ったろう」
眉をひそめるアインに、
「ひさびさに活きのいい心臓が喰いたかったんじゃ」
と、エンデは犬のようにじゃれついた。
「……上」
倒れている神官たちのひとりがピクリと動いた。
「なんだ?」
「最上階の……礼拝堂に」
神官は息も絶え絶えにそうつぶやく。
「なるほど。礼拝堂なら光の差しこむ窓があるか」
アインは、自分の傷口から流れる血を指でぬぐうと、神官の口に差し入れた。
「オレの血を飲めば、今じーさんから受けた傷はそのうちふさがる。ただし呪われるから、いつまでも人間ではいられなくなるかもしれんがな」
「また、そうやってよけいなことを。楽にしてやったほうがよっぽど幸せでしょうに」
口から鮮血をしたたらせながら、エンデがアインを見上げた。
「オレは自分の望みを叶えにきただけだ。犠牲者が増えることは望んでない」
そう言うと、アインはふたたびニカを抱き上げた。
ニカの着ている簡素な白いワンピースに、アインの血が染みこむ。
「服を汚してしまってすまない」
「……あなたは、悪いひとなの? それとも――」
アズーラの香りによって夢うつつになりながらも、ニカは、はっきりとアインを見すえてたずねた。
アインは、
「お前の思うほうでいい」
と、小さく笑ったあと、塔の最上階に向かって走り出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます