第10話 力

 ナイフがニカのほおをかすめた。

 白い肌に鮮血がにじむ。


 ニカの全身に恐怖がはしる。

「そっから出て来い。開けねぇならこっちからいくぞ!」

 民衆たちが武器を振り上げ、扉や鉄格子を力任せに殴りつける。

 ガンガンッ! と鈍い音が響き、鉄格子にゆがみが生じた。

 囚人たちにはなにも身を守るすべがなかった。

 どうして。どうして。

 なんでこんなひどいことをするの?

「やめてーっ!」

 ニカがそう叫んだ瞬間。

 ニカを引きずり出そうとしていた数人の男たちの動きが止まった。

 血を吐き、目を見開いたままその場に倒れこむ。

「しっかりしろ!」

 男たちの仲間が駆けてきて、彼らを助けに入ったが、手遅れだった。

「だから言ったでしょう」

 動揺と混乱でどよめく民衆たちの背後に、神官長がたたずんでいる。

「まだ機は熟していないのですよ。今、事を起こしたところで死体の山が増えるだけなのです。この『死を招き』によって」

「あ……」

 今、このひとたちの命を奪ったのは私?

 これは私のやったことだっていうの?

 これが『死を招き』の力なの!?

「わあああああ……!」

 ニカはその場にくずれ落ち、痛ましい泣き声が絶えることなく響きわたった。

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