第8話 迫る足音

「『死を招き』?」

 ニカが声を上げると、囚人のひとりが手でニカの口をふさいだ。

「その名前を口にしてはダメ。静かにしていれば大丈夫だから」

 囚人たちは民衆たちから見えないよう、ニカを毛布で隠した。

「貴様ら、『死を招き』はどこだ。隠したりしたら、ただじゃおかんぞ」

 目の血走った男たちが数人、彼女たちの部屋の鉄格子に手をかけた。

「さあ、何のことでしょう。存じませんわ」

「ふざけんな!」

 男のひとりが、イライラしたように足を踏み鳴らし、鉄格子のすき間にナイフを差しこんだ。

「いいか? こっからでも、お前たちの息の根はカンタンに止められるんだ。のど元にナイフをぶん投げられたくなかったら、しらを切ってねぇで、正直に白状しろ」

「知らないって言ってるでしょう!」

 すると、瞬時に男が囚人のひとりに向かってナイフを投げた。彼女は間一髪で難を逃れたものの、はらり、と長い髪の毛が切り落とされた。

「コイツのナイフ投げをあなどるなよ。今度は髪の毛だけじゃすまねぇぜ。さぁ、『死を招き』の居場所を教えろ」

 男の仲間がニヤリと笑みを浮かべながら、囚人たちに迫る。

「確かにこの塔にいるんだろ? 白い髪に深緑色の瞳、呪いの存在『死を招き』が!」

 白い髪に深緑色の瞳、呪いの存在『死を招き』――。

 ニカの心臓がドクンと大きく鳴った。

 まさか、まさか。

 このひとたちが探してるのって私なの?

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