第3話 罪人の塔

『死を招き』は、町のはずれにある罪人の塔に幽閉された。

 外に出さないように、町の人々を危険から守るために。

 赤子とはいえ、『呪いの子』。

 いかなる不幸をもたらすか、どんな災いを呼び寄せるか分からない。

 被害を少しでも防ぐために。

 そのときがきたら、いち早く処刑できるように。

 窓のない、頑丈なぶ厚い壁に取り囲まれた牢獄が彼女の住みかだった。

 世話は囚人の手によっておこなわれた。

 ここに収容される者は、みなディンの教えに反する者。

 殺人、窃盗などの犯罪者はもちろんだが、本来ディン教徒ではないゼアの外から来た人々も、ディン教の改宗を拒否した場合、罪人としてこの塔に収容されるのだ。

 非ディン教徒の人々は、長年この塔に拘留されて、ふるさとに帰れる者はいなかった。

 絶望の底に沈む彼らを救ったのは『呪いの子』だった。

 彼らは、みなこの子を愛した。

 なにが『死を招き』なものか。この子は我々の希望だ。

 なにもない、今が朝なのか夜なのかも分からない。

 時の止まったようなこの場所にあらわれた、きらめく命だ。

「お前の名前はニカだよ。私の国で『翼』をあらわす言葉だ」

 囚人のひとりが、そう言って彼女を抱き上げた。

 その日から『死を招き』は、ニカとなった。


 あちこちにクモの巣が張っている狭い部屋にひとり。

 幼いニカの頭髪はいつもほこりをかぶっていた。

「ニカ、昼ごはんだよ」

 囚人のひとりが、食事の入った皿を持ってきた。

 わずかなパンに、ほとんど具のないうすいスープ。

 粗末な食事だが、ニカはわき目もふらずに食べた。

「私の分もあげようね」

「ぼくの分もやろう」

 囚人たちはしばしばニカに自分たちの食事を分け与えた。

 もちろん、その分ひもじい思いはしたが、ニカが毎日少しずつ成長していく姿を見るのがとてもうれしかった。

「ありがとう、お父さんたち。お母さんたち」

 ニカにとって、男の囚人はお父さん、女の囚人はお母さんだった。

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