第2話 『死を招き』

 ところが。

 十七年前の八月。満月の夜。

「それ」はあらわれた。

 町の教会の前に置き去りにされていた。

 泣きじゃくる、あどけない女の赤子。

 いかにも弱々しく、はかない命。

 けれども、その姿に誰もが戦慄した。

 純白に紫の筋が入った頭髪に、深緑色の瞳。

 言い伝えと思われていた存在が、確かにこの世に生を受けたのだ。

『死を招き』だ……!

 ディン教会の神官たちは、すぐさまその子に清めの儀式をほどこした。

 だが、忌まわしき呪いは解けなかった。

 災いの根源。今すぐに消してしまいたい。

 人々は言いようのない恐怖と不安にかられた。

 しかし、すぐに『死を招き』を葬ることはできなかった。

 ディンの教えにより、呪いの子を退治するには、手順を踏む必要があった。

 赤子のときに殺すと、飢饉をまねく。

 子どものころに殺すと、町じゅうの人間が末代までたたられる。

 彼女の存在はおぞましいが、飢えや病気で死なせてはならない。

 災いを恐れるあまり、やみくもにその命を奪おうとしてはならない。

 あせると、かえってその呪いはふくれあがり、われわれディン教徒を深く苦しめることになるだろう。

 そのときを待つのだ。機が熟すのをしんぼう強く待つのだ。

 エル・ディンとアヌーク・ディンの降誕年まで。

 すなわち『死を招き』が十七歳を迎える年に、彼女を討つのだ。

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