第7話 ダエモン達:2
リョウは促されるままに声をかけてきた人物の所に歩いて行った。近くで見ると立派な髭も、髪の毛も完全に白髪になっている小柄のおじいちゃんだった。顔には深い
「私の名はグラハム・シュナウゼン、ダンガス皇国フルンゼ大学で天文学を教えている。いや、昨日まで教えていた、と言うべきかな。いきなりで申し訳ないが、君はダンガス皇国を知っているかね?」
「俺はトウドウ・リョウ、ここではリオと呼ばれることになったらしい。ダンガス皇国は聞いたことありません」
答えながらリョウはグラハムと名乗るおじいちゃんの横に座って壁にもたれかかった。やっと足を伸ばせる。さっきぶつけた小指が痛かったが座った瞬間にどっと疲れが押し寄せてきて、あまり気にならなかった。
「そうか、やはりか。君は見たところ、ヤマタイ国かマール連合出身の様だから本来は間違いなく知っているはずだ。我々はもう100年近くも戦争を続けている間柄なのだから。ダンガス皇国を知らない。その理由は一つ。何だと思うね?」
妙に嬉々として語りかけてくるグラハムが口にした地名、ヤマタイ国。卑弥呼の時代に存在したと言われる日本の国。今時それで日本の事を呼ぶやつはいないだろうし、他のマールやらダンガスやらは聞きなれない。目を閉じてゆっくりしたい衝動と戦いながらリョウは考えた。世界中の国々を知っている訳ではないが100年も戦争を続けている国なんてそうそう無い。知らないのは純粋に地球上に存在しないからではないのか?
「ヤマタイ国には聞き覚えがあるが、他は確かに知りません。ここは異世界だと言われました。俺の世界には存在しない国だから聞いたことがないのでしょう」
「そうとも!その通りだ!」
興奮した様子でグラハムが身を乗り出す。
「もっと言うと、ここにいる誰も世界を圧巻している我が国を知らないのだ!そして大学で天文学を教えていた私も同様に誰の出身地を聞いても初耳なのだよ!これがどう言う事か、分かるかね?」
大学の教授か、なるほど、いちいち質問を投げかけるのは癖なのかな。リョウ自身は大学に行っていないのでどんな感じなのかを知らないが、半円の講義室で目をキラキラさせ、学生に質問を投げて正解されると大喜びで飛び跳ねるグラハムの姿を想像して思わず笑みがこぼれる。
「さぁ?全員違う世界から来ているからとかですか?」
とりあえず思い付いたままにリョウが答えると、グラハムが嬉しそうに頷きながらその通りだと答える。この状況でも元気な人だとリョウは思った。天文学を教えていたと言っていたが、イメージと違うな。もっと、こう、埃を被った、空しか見ていない浮世離れした人が就く職業だと思っていたが、こういう教授がいるなら大学も捨てたものじゃないな。自分も行っておけば良かったかも。チクリと後悔の念が胸を刺したが、そんな場合じゃないとリョウはそれを振り払う。この状況について自分より知っていそうなグラハムに話を聞く絶好のチャンスだ。
「それが分かるとどうなるんです?正直、俺は今でもピンと来ない。異世界だと言われ、ダエモンだと言われ、課題の達成具合を知りたいから色々教えろと言われたのに、いきなり、もう分かっているから良いと言われ。散々殴られた挙句に牢屋の中だ」
右腕で弧を描くようにリョウは部屋の中を指した。
「ここにいる全員が異世界から召喚された、だって?いったい何のために?これから俺たちはどうなると言うんです?」
横でうんうんと頷きながら聞いていたグラハムが咳払いをして右人差し指で天井を指した。
「そう、そこだよ。リオ君、と言ったかね?これから我々がどうなるのかは分からないが、何のために召喚されたのかについては答えられると思う。いや、答えの半分は君が既に述べているのだよ。課題の達成具合を計る為、だ。では、その課題とは何だったのか?これは我々の共通点を突き詰めればおのずと見えてくるはずである」
一度言葉を切ったグラハムは目の前にいるのが学生ではないと思い出したのか、急に赤面したように見えた。気が付くとさっき声をかけた女性がもう一人の若い女性と一緒にリョウ達のそばに寄っている。いや、その二人以外にも10代に見える男の子と30歳くらいに見える、がっしりとした体格の男もいつの間にか近くに来ていた。部屋にはもう一人男がいるが、少し離れたところで寝転がったまま動こうとしない。皆グラハムの話が聞きたいのだろう。少しでも答えがあるなら自分も聞きたい、リョウはグラハムに続きを促した。
いつの間にか聴衆が増えた事に気が付いたグラハムは胸を張ると、立ち上がってから手を後ろに組んで、その場で行ったり来たりし始めた。
「異世界への召喚が事実だと仮定しよう。我々も全員が異なる世界からとある目的で召喚されたと仮定しよう。異なる性別や年齢、育ちや人生経験を持つ者同士、質問しただけで推し量れる共通点とは何か?これが肝心だと思う」
「じいさん、前置きは良い。本当にここが単に別の惑星じゃなくて、異世界だという仮定を今だけ認めてやるから、さっさと我々が何のために集められたのかを話すんだ」
声の方を見ると、さっき近づいてきたがっしりとした男が腕組みをし、「仕方なく茶番に付き合ってやっている」とでも言いたげな表情でグラハムの返事を待っている。
「中尉、物事には順序がある。だが、丁度良い。我々の輪に加わったばかりのリオ君にも私に聞かせてくれた自己紹介をしてくれないかね?他の皆は私が紹介するが、君の経歴は一度で覚えるのが大変なのだよ」
横やりを入れられてもグラハムは動じることなく、立ち止まって真っすぐに男を指さしながら言った。
「ふん。俺はゾング惑星連合宇宙軍、第12特務連隊『アナグマ』所属のダリアン・フォーク中尉だ。見たところお前はジパングの人間だろ?異世界がどうとか、そんな話を俺は信じない。技術レベルからここは開拓レベル3の惑星だと丸わかりだ。先日の戦闘でケール人が奪取した、辺境にごまんとある惑星の一つよ。名は言えないが、俺はある惑星での任務中に捕まって、意識が無い間に護送され、先住民たちと同じ部屋に放り込まれている。新たな取り調べ方の一つだな。それで説明がつく状況だ」
フォーク中尉と名乗った男は腕組みをしたまま、リョウの方は見ずにぶっきらぼうに答えた。リョウ自身はテレビのドッキリ説にしがみついていたが、この男はどうやら戦争の真っただ中にある、SF感が満載の世界から召喚されたのか。特務連隊なら任務も特殊だろう。いびつな方法で知っている情報を引き出そうとしている連中に捕まった。そう考えるのも頷けるが、逆にリョウの中の異世界説は力を増す事になった。エキストラにしては迫真の演技過ぎると、そう思ったからである。
「ありがとう、フォーク中尉。聞いての通り、彼は軍人だ。宇宙軍など想像もつかないがね。人類が大海原のように天空を翔るようになっても戦争が無くならないのは心が痛む。さて、あそこで寝ている御仁は私と話をしてくれなったし」
グラハムは壁横の男に向かって手を振った。
「アニータが面倒を見ているフィフィも今一つ当てはまらないが」
グラハムは順番に金髪の女性とその横の若い女性を指さしてから続ける。
「君の答え次第で確信の持てる仮説がある。君の職業は何かね?」
グラハムが今度は自分を指さしながら問いかけるとリョウはハッとなった。確かに。職業なら共通点があるかも知れない。と言っても、自分は軍人と何の関係もない職業なのだが、果たしてどんな仮説なのか聞くのが楽しみになってきた。
「俺は郵便局員。手紙の配達をしていた」
答えた途端にグラハムが髭を揺らしながら両手で大きく拍手した。
「それだ!これで間違いない。アニータは夫と本屋を営んでいる。そこの少年ケステスは新聞配達。私は学生に教えており、フォーク中尉は特務連隊で、人に言えない任務についていた。例えば、諜報活動のような。もう分かるね?」
リョウは学生じゃないのだから、質問形式はやめて欲しいと思ったが、なるほど。一応の納得はできる。情報だ。情報を伝える事を生業にしていたと言える人間が集められているのだ。
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