終話 甘く薫る風
姉妹は、子供に、
「あたし達は二人とも、
と言い聞かせて、二人の
* * *
(───
今年も、
風に優しく搖れるさまは、繊細な白い刺繍が萌ゆる緑の上で波打つようで、目を奪われる。
松の木が立派な広々とした庭を、夕陽が茜色に染める、夕暮れ。
年端のいかぬ
五歳になった
何かあったのだろう。
億野麻呂は藪を分け入り、気軽な笑顔を作り、愛する息子が腰掛ける石のとなりに、腰を降ろした。
「どうした?」
億野麻呂は穏やかに訊く。
普段から優しい気質の
「父上。……
母刀自は普通一人だ。
だって、
と言った。
「うーん、そうかあ。」
(そうきたか……。)
億野麻呂は腕を組み上をむいて、うーん、と思案した。
それは、
「そうだなあ。たしかに
億野麻呂は考えながら話を続ける。
最近、思うことがある。
「父は思うんだ、
二人とも、オレの
だからこんなにも、オレは二人が愛おしい。
心から、恋うているんだ。
……父は、おかしいか?
「わかんない。でも、
と言った。億野麻呂は明るい、暗さの一つもない笑みを浮かべ、隣に座った
「それで良いんじゃないか。大好きってハッキリわかってる。それが大事なことなんだ。
大好きなものは、守れ。
どんな困難からも、たとえ
「はい。」
「そうそう、だからと言って、父のように、
「え───! なんだかずるい……。」
「ははは! そうだな、父はずるい。幸せで、ずるいと思うぞ。素敵な妻が二人もいるんだからな……。」
億野麻呂は、ああ、幸せだな、と思う。
億野麻呂の父も、このように、息子に遠慮なく、妻の自慢をする
億野麻呂は、自分も、その自慢話をできる立場を手に入れたのである。
幸せだ……。
妻たちにも。
他の三人の子供たちにも。
屋敷のなかから、貝あわせで遊んでいるのであろう、
「ほら、オレが一番!」
という得意げな声と、まだ幼い二人の娘、
「あ〜、またとられた〜。」
「とられたー、うえ───ん。」
という悔しそうな声がする。ほほ、という麗しい
「ほほ……、泣かないのよ。
と慰める声と、
「さ、貝あわせは終わりにして、団子を皆でいただきましょう!」
という明るい声がする。そのうち、
「
「誰ぞ、
と妻たちが
億野麻呂が首をひねって、松の木に隠れた屋敷の方を見ると、押し上げ
もう、あたりは薄暗くなりはじめている。
億野麻呂は、
「さあ、団子を食べにいこう。」
と腰掛けた石から立ち上がる。
ふと、
───完───
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