第13話 マヨイガの森とマーレの変化

翌朝。俺は、ベッドの上で目を覚ました。

ぼんやり、テントの天井を眺めていた。

俺の左腕にしがみついている柔らかな感触を噛み締めていた。

そうして、視線を左に移す。

そこには、水色の2つの丸い瞳が俺を見ていた。

ビクッと肩を震わせ驚く。

瞳の主は、マーレなのだろう事は容易に予想出来た。

ぼやけた視界がはっきりし出す。

そして、見たものは幼児…3歳児くらいの幼女が俺にしがみついて居た。

それが左腕が柔らかった理由だった。

ミネルヴァとは、手を繋いでいただけだった。


「み、ミネルヴァ」

「うにゃあ、なにー」


まだ、眠そうな彼女が答える。

そして、目を擦りながら起き出す。


「もう、シンスケ。朝からダメだよ」


たぶん、ミネルヴァも俺と同じように右肩に感じる感触を俺だと思っているのだろう。

幼女…マーレは俺の左肩とミネルヴァの右肩の間にピッタリくっついている。

仰向けで、顔だけ先程までは俺の顔を覗いていたが、今はミネルヴァの顔を覗き込んでいる。


「水色の目…なんだ、マーレかぁ。むにゃむにゃ」

「…まーま」


ああ、喋れるのか。

ミネルヴァは、ママか。

…俺は?


「ん?誰の声?」


ガバッと起き上がるミネルヴァ。

そして、現状を見てフリーズした。


「まーま。まーま?うー」


ミネルヴァが、反応を示さないからかマーレは俺の方を向く。


「ぱーぱ」

「ああ、俺がパパなのか」


俺は、青い髪をそっと撫でる。

マーレは、前髪パッツンでボーイッシュなショートヘアだった。

やがて、ミネルヴァが戻ってくる。


「はっ、あれ?」

「目覚めた?」

「う、うん…シンスケが女の子の頭撫でてる」

「たぶん、この子マーレだよ」

「え?マーレ?」

「まーま。まーれ」


喋り方は、見た目通りに幼い。

昨晩、マーレは夕飯時には眠ってしまっていた。

俺が渡した魔石を食べたあと寝てしまったんだ。


「確かに、私たちそういう関係にはなったけど…」


ミネルヴァがダメみたいだ。

俺は、一先ずマーレを抱き抱え立ち上がる。

不思議な感触があった。

鳥の羽毛の様な感触だ。

それは、マーレの背中にある小さな翼の感触だった。

翼は、髪の色と同じ青色だった。

マーレは、背中が空いた真っ白なワンピースを着ている。


「マーレ、ご飯作るの手伝ってくれるかな?」

「まーれ、てつだう」


マーレは、そう言うとパタパタと背中の小さな翼を動かし俺の腕を抜けてぎこち無い挙動で飛んでいく。


「マーレは、天使なのか。

確かに、人間と フクロウ《ミネルヴァ》との子供だなぁ」


まあ複雑な気分ではあるが。

酒の力を借りてお互い昨日は最後まで致したから。

そんな翌日に子供が出来たらミネルヴァだってポンコツになるわな。

コウノトリのイタズラも極まると言うかなんというかね。

テントから出た俺とマーレは、背凭れ付きのベンチに腰を下ろした。

彼女は、足をプラプラさせている。


「マーレは、魔石食べるのかな?」

「ぱぱのごはんたべう」

「そっかぁ、じゃあ アルミホイル《これ》でパンを包んでもらおうかな」

「まーれ、おてだい、がんばう」


下火になっていた焚き火台に、薪を入れ火を起こす。

焚き火台の上に覆い被さるようにスタンドを置き網をセットする。

そこに、水を張ったクッカーを置き豆腐とワカメ、冷凍の油揚げ、和風ダシを入れる。

これは、これで終わり。

あー、米が食いたい。

持ってはいるがここで炊くと芯が残るからなぁ。

高地だから、沸点の問題で美味しく炊けないんだよね。


「ぱぱ、できた」

「おお、偉いね。マーレ」


俺は、マーレの頭を撫でる。

出来上がりは、少し巻き方にムラがあるけど彼女の幼い手なら仕方ない。

少し手直しをしながら焚き火台に焚べる。


「まだ手伝ってくれるかな?」

「がんばう」


俺は、ボウルと3個の卵を取り出す。


「マーレ、卵割れるかな?」

「がんばう」


コンコンとボウルの縁に卵をぶつけるマーレ。

うーんうーんと言いながら切れ目から開こうと頑張っている。

やがて、べちゃと音がして放たれる。


「うまく、できない」

「大丈夫だよ、この後混ぜ混ぜするからね」


しょんぼり顔をしていたがぱあっと笑みを浮かべる。

そうしているとミネルヴァがやって来た。


「ごめんね、取り乱しました」

「あ、うん。大丈夫だよ。

タイミング的に仕方ないよ」


そう言うと、真っ赤になって下を向きながらマーレの左隣に座る。

昨晩のミネルヴァは、とても可愛くてとても綺麗だった。

物思いに耽っていると…。


「ぱぱ、できた」

「おお、ありがとう。マーレは偉いね」

「えへへ」


俺は、マーレからボウルを受け取りシュレッドチーズを入れる。

ピザ用のシュレッドチーズで、4種類のナチュラルチーズが混ざった物だ。

チーズを卵液に絡ませるように混ぜて油を引いたスキレットに流し込む。

そこに、ベーコンを数切れ入れてオムレツを作る。

味噌汁も煮えたので味噌を入れて完成にする。


「ミネルヴァ、装ってくれるかなぁ」

「任せて」


俺は、焼きあがったオムレツをお皿に載せて

ナイフを入れて切り分ける。

最後にトマトケチャップとパセリをまぶして完成。


「2人共手伝ってくれてありがとう。

さあ、食べようか」


俺は、グローブをつけて焚き火台の火の中からパンを取り出し、開いていく。

ふっくらと戻っている。


それから、俺達はゆったり朝食を食べるのだった。

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