第12話 マヨイガの森の湖面に輝く月

俺は、テーブルチェアを仕舞って背凭れ付きのベンチをポケットから出した。

ミネルヴァと寄り添うように腰を掛ける。

焚き火台を囲むようにテーブルを設置する。

そこに、彼女の飲みかけの缶チューハイとつまみ用に作った煮卵と辛口ビーフジャーキーを置く。

俺は、冷蔵庫の中に入れてあった缶ビールを数缶テーブルに置いて、カシュっと音を立てて缶の栓を開け吞み始めた。


「それは?」

「ビールだよ」

「知ってる…苦いやつだ」

「ああ、ビールは飲んだことあるんだね」

「うん、苦くて無理だったけどね」


ミネルヴァの缶チューハイは、まだ1/3ほどしか飲んではいない。

でも、それなりにちびちび飲んでいるようだ。

まあ、自分のペースで飲めばいいからな。

人のペースに合わせて飲んで悪酔いするよりは。

うん、煮卵美味しい。

夕方のゆで卵から作った物だ。


「ミネルヴァも煮卵とジャーキーも食べてみてね」

「うん、ありがとう」


ビーフジャーキーは、ちょっと高めの良いビーフジャーキーだ。

これは、元々あの日に持っていた物だ。

三袋あるし、無制限だし一生食べていられる。


「明日、ちょっと手伝ってほしいことがあるんだけど」

「うん、もちろん。

私は何をしたらいいの?」

「明日さ、ヌシ釣りをしようと思うんだ。

だから、釣りあげたら倒してほしくて」

「う、うん。それはいいけどどうやって?」


俺は、フォトビューワーを取り出して大型船の写真を見せる。


「これでだよ」

「わぁ、シンスケ。船も持ってるんだね。

船があるなら船旅とかもしてみたいね」

「ああ、それもいいね」


夢が膨らむな。

マヨイガの森の外はどうなっているのだろう。

俺は、パチパチと音を立てる焚き火に新しい薪を追加する。


「あ、そういえば今日の動画上がってたな」

「見たい見たい」


俺は、『アカシック』を取り出す。

ページをめくる。

幾つかページが増えているのに気づいた。

動画でも増やすことは可能なんだな。

それでも、綺麗な物はしっかり撮りたいな。


「わぁ、凄いね。

私が見てた光景がそのまま映ってる」

「熊の顔、こっわ。よく近づけるね」

「戦闘中に怖気付く方が危険だもの」

「まあ、それは確かに。凄い弾幕」

「貫通力を減らしてるから、切れたりはしないけどね。毛皮とか傷付けたら価値下がるから。だから、『ディル』の詠唱なの。

明日は、『アムルス』以外も使うことになるかも」


『アムルス』は、弓の事。

『ディル』は、緩やかの意味のはずだ。

弦を弛めているから刺さらないということかな。

でも、骨折はしそうだ。


「ジャーキーの辛さと塩味が抜群ね。美味しいわ」

「ならよかった。このジャーキーは、無くならないやつだからいつでも食べれるよ」

「非常食が常備されてるのはとてもありがたいよ。もう、シンスケから離れられそうに無いなぁ」

「俺もミネルヴァから離れるなんて無理だよ」


酒を飲んでいるからかいつもは蓋をしている気持ちが溢れてくる。

頭では分かっているのに。


「俺、ミネルヴァの事好きなんだ。一目惚れだったんだ」


言ってしまった。

酒の力で言ってしまうなんて、情けない。

横を向く。

ミネルヴァが、俺の顔を見て目を丸くしていた。

そして、涙が溢れ出す。


「…嬉しい」


小さな声が漏れる。

ドキッと胸を鷲掴みにされた様な痛みが走る。

そして、彼女が抱き着いてきた。


「私も好き。シンスケの事好き。

初めて会った時から好きだったの。

一目惚れだったの」

「俺達、同じ瞬間に恋に落ちたんだな」


空には、燦々と輝く月が出ていた。

湖面に反射して明るい夜だ。

俺達の影が合わさった。

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