第14話 マヨイガの森で湖のヌシ釣り
マーレは、食後のデザート感覚でマヨイガベアーの魔石をバリバリっと音を立てて食べていた。
俺は、コーヒー豆をミルに入れゴリゴリっと手挽きしている。
ミネルヴァは、ウェストポーチから何かを取り出し調整をしている。
「ミネルヴァ、それなに?」
「これ?これは魔法の媒体で増幅器かな。
私が使えるのは、風の魔法だけだからそれを補う為の武器なの」
彼女が持っていたのは、中央の柄を中心に緩やかな弧を描くようなとんがり…鏃のような物が両端に付いていた。
その中央には、エメラルドの様な翠の石が埋め込まれている。
弦の無い弓の様にも見えるが極々小さな玩具の弓のサイズ感だ。
柄も片手の掌に収まる程だし、鏃もそこまでのサイズ感は無い。
全長で10cmにも満たないだろう。
「剣にもなるし、弓にもなるし。
威力も段違いに上がるよ」
「魔法使いの杖みたいな物?」
「うん、そんな感じ」
ミネルヴァは、ゆっくり魔力を循環させて行く。
それは、翠色に染まっていく。
彼女は、立ち上がる。
そして、左手で持ち右手を添える。
「Arcus《アルクス》・Stricta《ストリクタ》・Ventus《ウェントス》」
詠唱をすると空中に翠色の文字が浮かび上がり、杖へと吸収されていく。
それと共に、杖から翠色の光が伸び、長弓の様な物が出来上がる。
ミネルヴァの髪が、バサバサと大きく揺れる。
あたかも弓から風が吹き荒れている様に。
「Sagitta《サギッタ》・Unus《ウーヌス》・Ventus《ウェントス》」
ミネルヴァは、右手を引いて右胸の前で手を構える。
すると、左手から真っ直ぐに翠色の大きな光が伸びる。
それと共に右手に上下から細い弦のような物が伸びている。
これは、風の弓矢なのだろう。
「Sagitta《サギッタ》・Acutum《アクトゥム》・Ferrum《フェルム》」
鏃が鋭くなっていく。
鋭利で、突き刺さるような形状だ。
「Sagitta《サギッタ》・Gerunt-it《ジェラントイット》」
それと共に、鏃を中心に風が渦巻いていく。
風が吹き荒れる。
あたかも、そこに台風が存在するかのように。
ミネルヴァは、左手を上空に向ける。
「Emit《エミット》」
上空へ向けて風の矢が吹き荒れていく。
風は、雲を切り裂いていた。
「えっと、ミネルヴァ。今撃って大丈夫なの?」
「え?大丈夫だよ。これくらいならすぐできるから」
「そうなんだ…凄い威力なんだけど」
「ふふ、最大火力はもっと凄いよ。
これでだいぶ抑えてるから」
ミネルヴァの戦闘能力が高いことは分かった。
これなら、ヤバそうなものを釣り上げても大丈夫だろう。
たぶん。
「じゃあ、ぼちぼちやろうか」
「うん、でも餌は?」
「昨日のマヨイガベアーを使おうと思うんだ」
「あ、それで取っておいたんだね」
俺は、湖に近付く。
靴は、昨日と同じで長靴を履く。
湖へポケット中から船を取り出す。
大きな波が立つ。
だが、テントまでは届いてはいない。
湖に、全長20mの船舶が浮かんでいる。
船舶には、クレーンが付いている。
大型船と言っていたのは、この船の事だが実際は大型ではない。
大型は、3000トン以上の船舶の事で、中型が20トンから3000トン未満の事。
これは、一応小型船舶になる。
俺は、船に乗り込んで錨を下ろす。
そして、タラップを下ろす。
「さて、準備をしようか」
俺は、クレーンの先端にマヨイガベアーを括りつける。
そうしていると、ミネルヴァとマーレが船へと上がってきた。
「ぱぱ、おふね」
「うん、そうだね
「シンスケの船凄いね」
「一応、移動用にもう一隻あるんだよ。
こっちは、沖釣り用なんだ。
このクレーンも網釣り用なんだよ」
これは、漁師のお爺さんから貰ったものだ。
お爺さんの遺品になった。
この船を受け取った翌年にお爺さんは亡くなったから。
持ってこれてよかったよ。
大事に使うからね、お爺さん。
「準備はどうかな?」
「大丈夫だよ」
「だいじょうう」
マーレは、大丈夫だろうか。
最悪空を飛べるか。
「マーレ、危なくなったら空を飛ぶんよ」
「あい、ぱぱ」
俺は、返事を聞くとクレーンを操作していく。
ゆっくり、マヨイガベアーを湖に下ろしていく。
それから、クレーンの鎖が下がりきるのを待った。
◇
一時間ほど待ちとなった。
そして、その時は唐突にやってきた。
船体が揺れる。
「Arcus《アルクス》・Stricta《ストリクタ》・Ventus《ウェントス》」
ミネルヴァが、詠唱を始めていく。
俺は、それと共にクレーンを巻き上げる。
先刻と同じように、翠色の長弓を作り出す。
ミネルヴァの髪が、バサバサと大きく揺れていく。
「Sagitta《サギッタ》・Unus《ウーヌス》・Ventus《ウェントス》」
ミネルヴァは、右手を引いて右胸の前で手を構える弦を引く。
そして、風の矢を番える。
「Sagitta《サギッタ》・Acutum《アクトゥム》・Ferrum《フェルム》」
風の矢の鏃が鋭くなっていく。
「Sagitta《サギッタ》・Gerunt-it《ジェラントイット》」
それと共に、鏃を中心に風が渦巻いていく。
風が吹き荒れる。
それと共に、船体は左右に小刻みに揺れ動く。
やがて…湖面に大きな蛇のような影が浮かび上がった。
「Emit《エミット》!!」
ミネルヴァが、浮かび上がった瞬間に大きな蛇の頭を吹き飛ばした。
つよっ。流石過ぎる。
やっぱり、あの魔法極悪な威力だったんだな。
湖面に、大きな蛇が横たわる様に浮かんだ。
俺は、一眼レフを広角レンズにして写真を撮る。
全体像は、収めることは出来そうにない。
全長は、この船の4~5倍はありそうだから。
「えっと、確か…あ、レイクサーペントだったと思う」
そう、ミネルヴァが言った。
レイクサーペント…シーサーペントの親戚かなんかかな。
あっけないヌシ釣りになった。
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Arcus《アルクス》・Stricta《ストリクタ》・Ventus《ウェントス》
風の強弓よ
Sagitta《サギッタ》・Unus《ウーヌス》・Ventus《ウェントス》
風の矢を番う
Sagitta《サギッタ》・Acutum《アクトゥム》・Ferrum《フェルム》
鏃は鋭き刃で
Sagitta《サギッタ》・Gerunt-it《ジェラントイット》
穿つ鏃を
Emit《エミット》!!
解き放つ
こんなイメージです。
ミネルヴァの杖…儀式杖(最初はアゾットにするつもりでしたが別物に)
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