第4話 マヨイガの森の図鑑進捗報酬
「Arcus《アルクス》・Mitis《ミーティス》・Ventus《ウェントス》」
ミネルヴァが、弓を射るように左腕を突き出し右腕を引く。
彼女の構える先には、青い毛皮の狼がいる。
俺は、その様子を撮影していた。
「Emit《エミット》行っけー」
その声と共に、俺はカシャカシャカシャカシャと連続シャッターで撮影する。
ちょうど拓けた空き地のようなところだったから陽光が差し込みシャッター速度優先に出来た。
レンズは広角にして、三脚を使用。
レリーズ…リモートスイッチを押し込み、極力手ブレを起こさないように気をつける。
ミネルヴァの右手から翠色の矢が放たれ、狼を強襲する。
狼は、衝撃で吹き飛ばされやがて動かなくなった。
「シンスケ、やったよ」
「お疲れ様、カッコよかったよ」
「え、そう?照れるなぁ」
ミネルヴァは、照れくさそうにはにかむ。
可愛い。
会って数分しか経っていないのに、とても愛らしい所がある。
少女の様でいて、女性の様な曖昧さが彼女にはある。
「ねぇねぇ、シンスケ。今の写真見せて」
「いいよ、『アカシック』『アペータ』」
俺は、右手を差し出し『アカシック』を取り出す。
なんと、俺も魔法が使えるようになった。
使えるのは、『アカシック』を右手から取り出す『アペータ』と仕舞う『クラウディール』だけだ。
「ママったら、私にも『アカシック』の写本貸し出してくれたらいいのに」
ミネルヴァは、そう呟いた。
そう、彼女は『アカシック』を渡されていない。
だから、俺が見せない限り閲覧できないのだ。
「わぁ、凄い。こんなふうに映るんだ」
『アカシック』には、先程撮った『フォレストウルフ』の写真が並べられていた。
ミネルヴァが使った『風の矢』の軌道がよく見れるし、そこから生じた風が彼女の髪を靡かせる躍動感を感じさせる。
『凄いわ、僕こんな絵初めて見たよ。
ミネルヴァも可愛く映っていて嬉しいわ。
今回の撮影ポイントは、これをあげるわ』
メーティスからのコメントも書かれている。
メッセージに触れるとそこからポフッと音がして青い毛玉が出現した。
『アカシック』が急に重くなる。
「あら、可愛い」
そう言うと、ミネルヴァは毛玉を抱き抱えた。
大きさとしては、片手の掌に収まるくらいの丸っこい毛玉だ。
「なに?これ」
「そうよね、シンスケは知らないわよね。
この世界の人じゃないんだから。
この子は、モンスターの赤ちゃんよ。
まだ、何になる変わらない子。
毛があるから獣になるのは確定かな」
モンスターの子供か。
成長して行くのか。
俺は、一眼レフのレンズを広角からマクロに換装してその子を撮影する。
すると、シャッター音で気づいたのか俺の方を向く。
水色の小さな双眸が俺を見つめる。
俺は、再びシャッターを切った。
「ね、可愛でしょ」
「ああ、可愛いね。水色の瞳がプリティだ」
「え、この子水色の瞳なんだ。
珍しい…ねえねえ、シンスケ。
この子の事、2人で頑張って育てていこうね」
「ああ、そうだな。俺達が、この子の親代わりだな」
俺が、そう言うとミネルヴァは頬を赤く染めた。
言った後で、俺自身もとんでもないことを言ったことに気付いた。
「もぅ、シンスケたら…」
その反応を見るに、メーティスに言われて嫌々来ている訳では無いと理解出来る。
俺自身もミネルヴァのことが気になっているし。
一目惚れと言うやつかもしれない。
彼女の金髪が風に靡く度にドキドキする。
「シンスケ、今日はここを拠点にしましょう」
「分かったよ、じゃあ設営するね」
俺は、『アカシック』のポケットからウッド調のテーブルチェアを取り出し、『アカシック』を置く。
『アカシック』のポケットから、大き目なテントを取り出して設営を始めた。
メーティスが、地球から俺の私物を全て『アカシック』のポケットに詰めてくれたおかげで自宅に収集していたアウトドアグッズや写真機材が全て入っている。
驚いたのは、車やバイクまで入っている事だ。
森から出たら使うのもありかもしれない。
「じゃあ、私は狩りをしてくるわね」
「気をつけてね」
「はぁい、行ってきます」
俺は、『アカシック』のポケットからバスケットを取り出し布地を詰める。
そこへ、モンスターの赤ちゃんを寝かせる。
コテっと倒れ込み眠ってしまう。
あー、名前が無いと不便だな。
後で、ミネルヴァと相談して付けよう。
俺は、テントの中の内装をして行く。
アウトドア用品屋で見つけた折り畳み式のベッドを2つ設置して、テント上部の穴を通して薪ストーブを設置する。
昨日は、夜寒かったからこれがないと辛い。
外には、獣避けに焚き火台を設置して焚き火をする。
後は、バーベキューコンロを設置して炭で火をおこしておこう。
ただ待っているのも暇だからコーヒーを入れよう。
焚き火台にケトルを設置。
ペットボトル水をケトルに入れる。
なんか、このペットボトル水容量減らないようだ。
俺の持ち物全てに無制限の加護が付いているようだ。
有難い。
調味料も使い放題だから、ミネルヴァに美味しい料理を作ってあげれる。
ポケットの中に、冷蔵庫もあったからもしかすると中身も来ているかもしれない。
独り身が長い俺は、料理も趣味だった。
おっと、お湯が湧いたようだ。
沸点が低い様だな。
マヨイガの森は、少し標高が高い場所にあるのかもしれない。
俺は、カップにインスタントコーヒーのフィルターをセットしてコーヒーを淹れる。
一応、ミネルヴァの分も用意しておこう。
テーブルチェアに、腰を掛けながら俺は冷蔵庫の中身をチェックする。
うん、出掛ける前の日に買い込んでしまった食材が全部入っている。
これなら、色々作れるかも。
冷凍にも保存していた物も入ってる。
俺は、ミネルヴァを待ちながら料理をすることにした。
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