第5話 マヨイガの森でキャンプ
ミネルヴァは、大量の兎を狩って来た。
俺は、簡単な物なら捌けるので解体をしていく。
「『フォレストラビット』の集落を見つけてね。あ、この子の毛皮は取っておいた方がいいよ。尻尾もね」
「売れるってことか」
「うん、ここの子達は毛皮、牙、爪、角何でも素材になるよ。割と高額かも」
「ふむ、やっぱりここ秘境なんだな。
割と高地にあるみたいだし」
「あれ?気づいていたんだ」
「水の沸点が低いし、昼夜問わず涼しい。
まあ、夜は更に寒いが」
俺は、マヨイガの森がカルデラのような所にある気がしている。
兎を捌いていると心臓の辺りに小さな真っ赤な石があるのに気付いた。
「あ、それ魔石だよ。
この子のご飯だから」
「そっか、じゃああげちゃおう...あ、ミネルヴァ。この子に名前をつけてあげようよ」
「あ!そうだった。そうだよね、付けなきゃね」
俺達は、それぞれに悩む。
お互いに兎を捌きながら。
特徴は、青い毛玉と水色の瞳かぁ。
ラテン語で水色も青色も、カエルラ。
うーん、違うなあ。
アクアマリンは、確かラテン語で海の水の事だったな。
海は、マレか…マーレでどうだろうか。
ラテン語では無いがイタリア語の海の意味だし。
「ミネルヴァは、決まった?」
「うーん、ごめんね。私、思いつかないよ。シンスケは?」
「えっ...マーレってどうかなぁ」
「わぁ、可愛い名前。いいと思うよ、じゃあこの子は今日からマーレちゃん」
青い毛玉ことマーレに名前がついた。
どんな成長をするか楽しみだ。
「あ、ミネルヴァ。この辺りに、水場ってあった?」
「ううん、まだ見つけられてないよ」
「そっか、まあ手持ちで飲み水は足りてはいるけど。
汗は流したい気はするよね」
「う、それは確かに」
お風呂かぁ。
あれ?確かこの間通販で…。
俺は、ポケットから2つの物を取り出した。
1つはポータブル浴槽。
もう1つは、銅管をコイル状に成型した熱交換器2個、または3個とそれらを繋ぐ異径ソケットのセットにホースと風呂ポンプを繋いだ物である。
これは、1リットルの鍋に水を張り装置を入れる。コンロに掛ける。
浴槽にも水を張る。
浴槽の水と鍋のお湯が循環するようにしておけば1時間くらいでお風呂に入れる。
「ねぇ、シンスケ。これは?」
「お風呂だよ」
「え!?お風呂」
「日本人はどこでもお風呂に入りたいからこんなものを発明したんだろうね」
「シンスケ。大好き」
そう言って、俺に抱きついてくるミネルヴァ。
柔らかな膨らみが俺の視界を塞ぐ。
心地良いけど、とても困る。
心臓の音が煩い。
「あ、ごめん。シンスケ。感動しすぎちゃった」
ミネルヴァは、俺を離す。
照れ臭そうに、頬を赤らめて笑う彼女。
きっと今の大好きもそういう意味じゃないはずだ。
俺は、そう言い聞かせながらお風呂の準備と料理を進めた。
俺には、戦闘は出来ないが他の事でミネルヴァを助けよう。
「ねぇ、シンスケ。
君の世界のテントって凄いね。
ベッドもあるし、暖房もある。
料理だってそう。コンロが屋外で使える。
この世界には、こんな便利なものは無いよ」
「そっかぁ、俺は地球でも色んな所を写真を撮りながら旅をしたんだ。
アウトドアに凝ったのもその時の影響だよ。
ある時さ、どうしても旅に行けない時期が出来て嫌々写真館で子供や大人の撮影をする様になった。
で、久し振りに旅に出たら『界』を越えてここまで来ちゃったよ」
俺は、元々風景専門の写真家だった。
先の伝染病を機に写真館に就職をした。
人物写真は苦手だった。
人の気持ちという物が写真から読み取れるから。
昔付き合ったことがある子の嫌そうな表情が今でも頭を離れない。
個人的には人物撮影だけはしないようにしていた。
そう、今日までは。
俺は、ミネルヴァを撮りたくなった無性に。
「私は、シンスケとこうしているの好きだよ。あんまり、人が多い所は苦手だから自然の中に入れると落ち着くの」
「そっか、まあ当面は街に行く気は無いし気侭に撮影旅行を楽しもう」
「あ、ねぇシンスケ…私にも撮らせて貰えない?」
「いいよ、じゃあ明日撮り方を教えてあげるよ」
「ホント、ありがとう」
ミネルヴァは、嬉しそうに笑う。
この笑顔が見たいと思えてしまう。
俺は、やはり彼女に恋をしているのかも。
スキレットに、作っていたアヒージョが馨しい匂いを上げる。
具材は、冷蔵庫に入れていたベーコンとウィンナーで作ったウィンナーのベーコン巻、1口大の兎肉と肉々しいアヒージョだ。
まあ、アヒージョは、ニンニクで香りをつけたオリーブオイルを使い、具材を煮込んで作る料理の総称だからこんな組み合わせでもアヒージョはアヒージョだ。
それに、アルミホイルで包み焚き火台にくべておいた冷凍ロールパンを食卓に並べる。
マーレには、兎と狼から取れた魔石をバスケットに並べておいた。
兎肉の残りは、『アカシック』のポケットに仕舞った。
捌いた時の血の匂いは、ミネルヴァが風の魔法で消し去ってくれた。
魔法凄い。
血の匂いで獣が集まったら困るから。
俺は、アヒージョをコンパクトデジカメで撮影する。
それは、夕日に照らされている。
テーブルチェアの上には、ランタンを2つ置いてあるから光源は充分だ。
「いただきます」
そう言って、ミネルヴァがフォーク片手にアヒージョの兎肉を刺した。
「慌てると火傷するよ。綺麗な手に傷がついちゃうよ」
「き、綺麗...」
彼女は、硬直していた。
人の事をウブだなんだと言っていたのにミネルヴァも大差ないと思っている。
多分あの時は、茶化したかっただけなんだろう。
それから、彼女はゆっくり食べていく。
「美味しい。調味料があるって凄い」
「うん、調味料なしじゃただ焼いてるだけだからね」
「えっと、この世界だと茹でるか焼くしかないし、味も素朴だよ。
シンスケの腕前なら長蛇の列のお店ができるくらい」
「あー、街行きたくないな。自然最高」
俺の中では、アウトドア旅がメインになっている。
欲しいものは、野菜くらいなんだよなぁ。
冷蔵庫の中にも野菜がないんだ。
日持ちしないから買ってなかった。
キムチとかならあるから最悪野菜もあるにはあるが。
「ねぇ、シンスケ。お風呂ってどうやって入ればいいかな?」
「ああ、パーテーションでも付けるね」
俺は、浴槽を中心にパーテーションで取り囲む。
それから、ご飯を済ませそれぞれに風呂を済ませるとテントの中のベッドへと向かった。
薪ストーブは、ミネルヴァがお風呂に入っている間に着けている。
テント内が暖かい。
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すっかり快適アウトドア旅になりました。
お風呂ですが『てんぐの小風呂』さんを参考にさせて頂きました。
まだまだ、マヨイガの森の話は続きます。
シンスケの車の話やバイクの話はまだまだ先になります。
冷蔵庫は、電気が使えないので大きなクーラーボックスです。
でも、『アカシック』のポケットは時間停止機能付きのアイテムボックスです。
冷蔵庫の中身や地球の物は全て無制限使用可能です。
ただし、これで商売とかはしません。
シンスケ達が、街に行くことは当面ありません。
次回、マヨイガの森でキャンプの夜
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