第288話 そしてキャットへ
「カイトさん。貴重なカブを提供していただいありがとうございます。こちらとしても何かお礼がしたい。荷車を3台送らせていただきます」
俺を含めそれを聞いた皆は驚き、感謝の声を上げた。
「うおおお!ちょうど欲しい所だったぜ!ありがとよピエール院長!!」
「ピエールさんマジ感謝っす!これで戦場物資の輸送も楽になりそうっすね」
「へっへっ。荷車が来たらまたタイヤはめまーす!あざーっす!!」
ピエールは笑顔で続けた。
「またしばらくしたらこちらに荷車を運んできます。その時に戦場輸送のお話もしたいと思います。では失礼しました!」
「ういーー!!私もいくー」
本来は俺とミルコの二人で行ってすぐ帰るつもりだったが、ターニャが突撃してきた。
もぞもぞと荷車に乗り込んでなぜか誇らしげにピエールとチャップスを見回すターニャ。ピエールはターニャに軽く微笑みかけているがチャップスは俺の乗っている緑カブを凝視しっぱなしだ。
ミルコのカブの荷車が空いてるじゃねーか?……と思ったが、ターニャがあいつ等と話すのもいい経験になると思い、何も言わなかった。しかしこれで荷車は150キロ近くになったな。
――ドゥルルルルーーッ!
俺はゆっくりとアクセルを回していく。ミルコも後から付いてくる。
3人乗りの荷車を引いているにも関わらず、新車の緑カブは力強く前進していった。
「おお……!なんと力強い!!」
――ドゥルルーーッ、カシャッ、ドゥルルーーッ、カシャッ。
ピエールは感嘆の声を上げ、チャップスはシフトチェンジに言及してきた。
「今のってギアチェンジかい?カイト」
「そうだ。やっぱ知ってるのか」
「ああ、それにしてもスムーズだな。バラし甲斐があるよ……ふふふ」
「えーーっ!?」
ターニャが突如叫び声を上げた。ん。どうした?
「本当にカブをこわすのー!?」
「……」
めんどくさがって返事をしないチャップスに変わってピエールが答えた。
「お嬢ちゃん。私達はただ壊すのではなく、車体を分解して中身の構造を調べたり、それを元に別の車を作ったりしようとしてるんだよ」
「……ふーん。じゃあおじさんたちもカブを作るのー?」
「ふっ。時間はかかると思うが僕はそのつもりだ」
お!チャップスが初めてターニャを相手に話をしたな。
「おー、すごいすごい。カブ作ってねー!」
「ははっ、俺も面白そうだから期待してるけど、いつになるか分からんぜ?」
なんせ内燃機関が発明されてから今乗ってるこのカブが製造されるまで150年以上かかってるからな。
それから10分ほどで俺達はヤマッハのギルドに到着した。町に入るとやはり注目を浴びまくったがもう慣れてきたな。
ギルドの裏口にカブ2台を停めて、馬車の中にカブを運び入れた。
男4人いればカブ1台ぐらいは抱え上げられるぜ。
「よっ……と。じゃあこれで一旦さよならだな二人共」
「カイト殿。また5~6日経てばハヤブサール城から荷車をお持ちしましょう」
「おう!楽しみにしてるぜ。またな」
「ばいばーい」
「二人共。お元気で!」
別れの挨拶を済ますと、馬車は早々と王都ハヤブサールへと走り出すのだった。
するとそれまで押し黙っていたカブが
「いやーやっと帰りましたねあの二人!まったくゥ!僕はストレスでずっと胃がキリキリしてましたよ!!」
「お前胃ないだろ!?せめてエンジンとかにしろ」
「あはっ。カブはあの二人にがて?」
「はい、天敵です」
ターニャの質問に直球で答えるカブだった。
「でももうアイツ等には緑カブがあるからお前に絡むことはないだろ。安心しとけ」
「そ、そうですね。ホントに良かったですカイトさーん!」
カブは涙を流しながら俺に感謝している。
「何にせよ意思を持ってて自走までできるカブはお前しかいないんだから、そら特別扱いするっちゅう話だ」
「あ、ありがとうございますぅぅ!!」
ここでミルコが思い出したように言った。
「あ、そう言えばカイトさん。キャットのルナさんにもあのベージュのカブを貸し出すんですよね?」
「そうだな、ヤマッハまで来たついでにルナに報告しにいってやるか!」
「はい!じゃあいつものキャットの倉庫に行きましょうか?カイトさん、ターニャちゃんも乗って下さい」
「サンキューミルコ。お言葉に甘えるわ」
というわけで、俺とターニャはカブの荷車に乗り込みキャットまで運転してもらった。
「ええええーーっ!?カブ、もう手に入ったんですか!?」
案の定ルナは驚いていた。
「今ウチの本部に置いてある。いつも俺が乗ってる白いカブの色違いな」
ここで俺は、また燃料やオイルの説明をしなきゃなんねえじゃねーか!と、面倒くささにため息が出てしまったが、こちらにも建物が貸し出されるので楽しみでもある。
「どうする?カブは今日持ってきてもいいか?」
「いいですいいです!早速使いたいので」
猛烈に嬉しそうに返事をするルナ。
ルナが俺達に貸し出すのは今は使ってない建物だから、実質タダでカブを借りれるようなもんだ。笑いが止まらんだろうぜ。
まあ俺達は建物が欲しいし、お互いwin-winってところか。
「分かった。じゃあ交換というか、俺達に貸し出す建物を案内して欲しいんだ」
ルナは「お安い御用です!」と答えてニコッと笑った。
それからキャットの事務所を出た俺達は、停めていたカブの近くで何やら争うような声を耳にするのだった……。
「おい、なんだお前は!?近づくな!!」
「た、頼むよ……アレを見せて!!」
な、なんだなんだ!?
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