第287話 送ってくわ


 少しいたずら心が芽生えるの覚えつつ、俺は+ドライバーを持ち出した。


 そして慣れた手つきでシート下の小さい外装パーツを外し、奥を指差した。



「あれがバッテリーな」



 少し奥まったところにまるで隠れるかのように設置されているバッテリー。その+極には赤いカバーがかけられていた。



「この赤い+極と緑の-極を、銅線とかの電気を通す線で結ぶとどうなると思う?」


 皆は興味深そうな顔でバッテリーを眺めて首をひねっていた。


「ミルコはどう思う?」


 指をさされてミルコは苦笑いした。


「え……うーん。間に電球とか繋いでるワケじゃないから何も起きないんじゃないっすか?……いや、どうだろ?分かんないっす」


「ガスパルはどうだ?」


「い、いやー分かんねえ……ただ、なんかカイトの雰囲気からしてやべー事が起きるんじゃねーかな?」


 ふふ、いい線いってるぜ。


 ここで、普段あまり表情が変わらないウドーが含み笑いをしているのに気がついた。

 俺はすぐさま笑顔で話を振ってみた。


「あー!ウドーお前、さては何か知ってるな?」

「はは、実は私一度整備中にやってしまったことがあるので……何となく分かります」

「はっはっ、そうか」


「ターニャはどうだ?」


 最後にどんな答えが返ってくるのか全く予想がつかない奴に聞いてみる。


 ターニャは人差し指を頬に当て、斜め上を向いて答えた。



「うーんとねー……死ぬ!」



「ぎゃはははははは!!」

「あっはははっ!」


 笑顔で過激なこと言うターニャに、ガスパルやミルコ達が大笑いしている。

 俺は苦笑いでターニャに突っ込んだ。


「おいっ!笑顔でなんちゅうこと言うんだお前は!?……ってか12V位じゃ死なんぞ俺はー。ふははははっ」

「おじは死なないよー?死ぬのはそっちの線」

「あ、これか……よーし。じゃあ実際やってみよう」


 俺は手に持っていた細い銅線を見て、じゃあ早速……と、銅線の片一方を赤いカバーを外した+極に接触させた。


 皆、真剣な顔でどうなるのかを見物している。


 そして銅線のもう片一方を-極に接触させると――――!!



 ――パチッ!!!!



 バッテリーの電極と銅線から火花が飛び散った!


 同時に銅線を巻いたビニールの被覆ひふくからは焦げ臭い匂いと、それが溶けたときに発生した白い煙が舞い上がっていた。



「熱っっっっ!!」


 俺はやや油断していたせいか銅線を持っていた手をバッと振って銅線を落としてしまった。


「だ、大丈夫っすかカイトさん!?」

「心配すんなミルコ。大したことねえ」

「おじ!死なないで!」

「だからなんでそんな物騒なんだお前!?」



 ミルコは腕を組みながら苦笑いしていた。


「俺の予想外れたっすね。いやー……」


 ガスパルが少し勝ち誇ったようにミルコに言う。


「明らかに何か起こるような素振りだったじゃねーかカイトがよ?」


「まあ、そうっすけど……ただの箱みたいにしか見えなかったからビックリっす。でもこれがチャップスさんの言ってた雷のエネルギーなんすね。はぁー……」


「かみなり!?ゴロゴローのやつ!」


 ターニャがなぜか嬉しそうに万歳している。


「……」


 ピエールとチャップスは今起きた現象を自分の頭で理解しようとしているのか黙ったままだった。


 俺の方からも説明しておこう。


「ふふ、今のはこのバッテリーの中の電気エネルギーが一瞬にして熱エネルギーと光エネルギーに変わった結果だ。何でこんな一気に電気が流れたかっていうと、この銅線は電気をめちゃくちゃ流しやすい物質だからなんだ!」


 ここでチャップスが口を挟む。


「なるほど、じゃあカブの中の色々な装置にはその電気エネルギーを制御しながらランプを点けたりといった装置ごとの役割を果たせる仕組みがあると?」


 おお、理解が早いな。感心するぜ。


「うん。その通り!今みたいな短絡ショート状態はめちゃくちゃ電気エネルギーを使うから、そのままだとバッテリーはすぐ干あがっちまう。あと、さっきも言ったけど、っていう、電気が流れすぎると切断される特殊な銅線がカブの中にはいくつかあってな。それを跨いでバッテリーの+と-を繋げてしまうとヒューズが飛んで断線状態になって電気が通らなくなる!そうなるとまた別のヒューズを差し替えるしかなくなる」


「……たしかに」


「たがら電気系統をいじる時にはがあって……こうやってバッテリーの-側を外しておくんだ。そうすれば基本的に電気は流れないから短絡ショートにならない」



 ……。



 というふうに、俺は一通り電気関係の知識をピエールとチャップスに教えた。



「いやー、本日はいろいろとありがとうございましたカイト殿!このカブは大切に研究させていただきますよ」


 俺は感謝してくるピエールに笑顔を返した。


「早速城に持って帰ってバラそうよ!」


 チャップスは相変わらずだった。ん?ここで俺は思った。



「なあ、二人共カブ乗れたっけ!?乗ったことあったか?どうやってハヤブサール城まで帰るんだよ!?」



「……乗れませんね、乗ったこともないですね」

「うん、ないね。僕は乗ることには興味ないし」



「……」


 ピエールとチャップスはしばらく顔を合わせていた。


「ピエール院長。カブに乗れるようになってよ?」

「いやいやチャップス。私は運動神経はあまり良くないんだ。君の方が若いし君が乗れるようになるべきだろう」

「僕興味ないことには一切やる気起きないんだよねえ」

「こ、困るじゃないか!もし慣れない私が乗って帰って転んで壊しでもしたらどうする!?」

「壊したら僕はあなたを恨む!」

「だから君が乗れるようになれと言ってるんだ!」



 ……お前ら笑いでも取りにきてんのか?


「二人共ジクサール城からヤマッハまでは馬車かなんかで来たんだよな?」


「そうです」


「じゃあヤマッハまでは俺がこの緑カブに荷車つけて二人を運んでやる。ヤマッハからハヤブサール城まではカブを馬車に乗せて帰ってくれよ?」


「ありがとうございますカイト殿!」


 ピエールは俺に感謝してくるが、やはり少なくともどっちかには乗れるようになっておいて欲しいところだ。

 ここでミルコがありがたいことを申し出てくれた。


「あ、じゃあ俺、カイトさんのカブで一緒に行くっすわ。帰りの足ないでしょ?俺も久しぶりにカブ君に乗ってみたいんで!」


「お、そうだな。ちょうど荷車付けてるし……ミルコ頼むわ」


 といった感じでミルコも一緒に行くことになった。




 ――ギャッ!ドゥルルルーン!


 緑カブのエンジンは一瞬でかかった。さすが新車だ。

 例の二人は緑カブに繋いだ荷車に乗っている。


「ほんじゃちょっとヤマッハに行ってすぐ戻ってくるな」


「行ってらっしゃい!」



 と、ここでピエールから嬉しい発言が飛び出すのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る