第286話 カブの取り扱い説明
「カイトさん。その残ったベージュカブはどうします?」
「おうミルコ、これはキャットのルナに貸し出す。んで、俺達もヤマッハに本社を持つぞ」
ミルコは思い出したようにポンと手を叩いた。
「ああ。前言ってた話っすね!?」
「そう、ルナに本部を借りたらヤマッハ内で軽油の巡回販売をやるつもりだ」
ここで珍しくガスパルが指摘した。
「ん?ヤマッハ内は協定で商売禁止だったんじゃねーかカイト?」
「ヤマッハ内の配送でも軽油なら大丈夫だ。あくまでそれ以外の荷物がダメなだけであって」
「そういえば、サガーとキャットの大手2社はなんで軽油の配送を禁止してるんすかね?」
俺はセシルかイングリットから聞いた気がする話を思い出しながら喋った。
「大分前に聞いた話だけどよ、王都ハヤブサールからヤマッハまで大型車で輸送中に、車の荷台から配達中の軽油が漏れ出したらしくてな」
「げっ……」
「いつの間にか荷台の木の部分に染み込んでエンジン熱で引火して貴重な大型車が全損しちまったって話だったわ。かといって町中で人力車で巡回販売しようにも液体で重いし坂も登れねえってことで撤退したらしい」
「ははぁ……なるほど。でもカブ君ならその辺の問題は全部心配いらないっすね!」
「そうでしょうミルコさん!?……あ」
カブの奴がまた不意に声を上げ、まずいと思ってすぐ黙った。アイツめ……。
「ん?今聞き慣れない誰かの声がしたような……」
「あ、き、聞き間違いじゃね?ピエール」
ピエールは軽く頭を
そんなカブに夢中なコイツ等に緑カブを提供したはいいものの、燃料がガソリンってこととオイル交換もセットで教えとかないとダメだな。
「おーいウドー!ちょっとこの二人に一応ガソリンの作り方教えといてくれー。あとオイル交換のことも」
「あ、分かりました。蒸留装置を取ってきます」
ピエールとチャップスは興奮しながらウチの整備担当のウドーの説明を聞いていた。
……。
…………。
「なるほどぉ!今まで軽油を作るための副産物としか考えていなかったガソリンがカブの燃料の元になると!!ははぁー……帰ったらすぐに研究者たちに知らせて作らせよう!」
ピエールはウドーの説明に感心しきりだった。
チャップスもオイルについての意見を述べる。
「このエンジンオイルがギアやピストン部分を循環している原理はスズッキーニの大型車達と同じだな。ウチの国の鉱物油でもいけそうだね」
「大丈夫だと思います。大体2000~3000キロがオイル交換の目安です。知っておられると思いますが、オイルを交換しないままだとエンジンが壊れますのでご注意を」
「うん。それはしっかりやるよ」
おお……。いつもは変態的な二人が今日はやけにまともに見えるな。俺はちょっと感心してしまった。
ここで俺は思い出した。以前チャップスがバッテリーについて言及していたことを。
俺はシートの真下のカバーをコンコンと叩き、二人に説明した。
「あとな、このカブのこの部分には、この前チャップスが話してた雷のエネルギーが凝縮されてる『箱』みてえのがあるんだ。バッテリーっていう名前のな」
チャップスはニヤッと不敵な笑みを浮かべてこう言った。
「それも研究させてもらうよカイト」
「うん。それはいいんだが。一つだけ注意点がある」
「なんだい?」
俺は地面に木の枝で図を書いて説明を始めた。
「このバッテリーってのは+極と-極があってな。その+と-の間に、動かしたい装置を銅線で繋ぐことによって初めて電気が流れて装置が動作するんだ。例えば……こういった電球やLEDだったり、セルモーターだったり、ホーンだったり、様々だ」
「ほう、なるほど。じゃあ車体に付いているボタンのようなものはその銅線を繋げたり切ったりする接点(スイッチ)ってわけかい?」
チャップスは飲み込みが早かった。
「お!そうそう。で、一番メインとなる電源スイッチってのがこれだ!」
俺はカブのキーを二人の前に差し出して、しっかり見えるようにキーシリンダーに突っ込んで時計回りに回した。
――カチッ。ピーーーッ……。
「おお……」
二人は同時に声を上げた。俺は説明を続ける。
「ほら、今こうやってヘッドランプのポジションランプがついたり、メーター内に照明が点いたりしただろ?」
「たしかに……」
チャップスとピエールは頷く。
「で、この状態でハンドル右側のこのスタータースイッチを押すと……」
――ギャギャギャッ!ドゥルルルルン……。
俺が何百回と聞いたいつものエンジン音が辺りに響き渡った。
腕を組んで今の動作原理を想像しているらしいチャップス。
ピエールの方は実際に車体のエンジンを覗いたり触ったりして見て理解しようとしている。
「今のは電気のエネルギーでエンジンに点火したのかい?」
チャップスの質問に俺は大真面目に詳細に答えた。
「まあ大雑把言えはそうだが、厳密には電気をスターターモーターに送ってモーターを回転させてその回転力がクランクシャフトに伝わってエンジンのピストンを動かし、フライホイールを回転させオルタネーターで発電されたわずかな電気がプラグを点火させてエンジンのシリンダー内に爆発を起こしてエンジンが断続的に回転し始めるんだ」
チャップスは、
「ははは。意味がわからないよカイト?」
と笑う。
周りを見ると、ミルコやガスパル、ボルトも皆ちょっと苦笑していた。あ、ああ。ちょっとマニアックすぎたか。
「すまんすまん。えーっと何だっけ……あ、そうそう。気を付けて欲しいことだ」
「それは何だい?カイト」
「そのバッテリーに繋ぐモノによってはめちゃくちゃ電気をつかっちまうんだ。例えばさっきのセルモーターなんかがソレだ。ずっとこのスタータースイッチを押してモーター回してたらすぐにバッテリー
「……なるほど。バッテリーから流れるエネルギー量は繋げるモノによって変わるわけだ」
「そう。で、一番やっちゃマズいのが
「……また知らない単語が出てきましたな、カイト殿」
ピエールは意味不明過ぎてお手上げといった顔だ。
うーん、確かに理解しろと言っても無理だろうな。よし、ちょっと実演してやるか!
俺は不敵にニヤリと笑った。
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