第284話 戦場輸送ってどうなん?
――ドゥルルルルー。
カブの音は徐々に近づいていく。
「はあっ、はあっ……!ま、待てっ、とまれっ。ターニャ!カブ!」
俺は今運転しているのがターニャなのかカブなのか分からないまま、とりあえず制止を呼びかけてみる。
するとカブの声が聞こえてきた!
「カイトさーん!?なんか今日のターニャちゃんはアクティブですねー!?どうかしたんですか?」
「うん、ちょっとな。ってか一旦止まれカブ!お前が運転してんだろ?」
しかしカブの返事は意外なものだった。
「そう思うでしょう?でも、家を出てから今までずっとターニャちゃん一人で運転してるんですよ!僕もビックリです!!」
え……マジか!?やるなーターニャ。
俺は走りながら斜め後ろからカブ達を見ると、シートには座れないもののステップに立ってしっかりハンドルを握って運転しているターニャが見えた。
うおおー。一人で運転できるなんてやるじゃねーか!……じゃなくて止めねーと。
「おーい!ストップストップ!止まれターニャ」
俺はやっと走ってカブに追いつき追い抜いて前に出た。
ターニャは……力なく口を開けながら、目は
余程ショックだったみたいだな。
俺はカブの前に出て大きく手を振った。
――キキーッ。
「おじ……」
俺はとりあえずさっきのこと以外の話をしようと思った。
「ターニャ。お前いつの間にカブに乗れるようになったんだ!?ビックリだぜ」
ターニャをあやそうと気を使ったのもあるが、これは本心だ。
「……なんかのれた」
そういえばターニャはすでに自転車に乗れるようになっていたからな……それに嫌というほど俺の運転を間近で見てきたから自然と学習したんだろう。
でも、まださっきのことを引きずっていて声に力はない。
「よし、このままちょっと本部まで走ってみっか?俺はこうやって小走りでついて行くからよ。お前はそのままカブに乗って運転してみ」
「……うん」
「ターニャちゃん、僕が補助する必要全然ないぐらい乗れてるので安心しました!じゃあ本部に行きましょう!」
――ドゥルルルルー。ジャリジャリ……。ザザッザッ。
「はぁっ、はあっ、はぁっ!下り坂とはいえ、はあっ、……きっついなこれ。はあっはあっ……」
そうやって俺達は、本部まであと少しというところまで来た。
「おじ、大丈夫!?」
「な、なんとかな……てかターニャ……」
「なにー?」
「お前ちょっと元気になってねーか?」
その時点でターニャはもう普段の状態に戻っているように見えた。
あれだけこの世の終わりみたいな顔してたのに……。
「うん……カブに乗ってたらたのしいから!」
「ははっ。子供は悩みはすぐ消えるていいな」
「本部までもうすぐです!ターニャちゃんの初ツーリングでしたね」
「ういーー!」
――ドゥルルルルー……、カシャッ、ドゥルルン……キキッ!ザザッ。
ターニャは前後ブレーキと共にシフトダウンしてエンブレも効かせてカブを停止させた。完璧だな。
本部の中心部にある中庭みたいなスペースに、ヤマッハ住みのミルコとボルトがもう来ていた。
「あ、カイトさん。おはようございます!あの、早速でアレなんすけど、カイトさんに会いたいって人をお連れしてるんすよ」
「おはよう。へえー。それはまた誰だ?」
俺が聞くと、ボルトが社宅から怪しいことこの上ない二人組を連れてきた。
二人は黒いローブを身に
最初は正直身構えたが、顔に深く被ったローブを外した二人に、俺は一昨日会ったばかりだった。
「ピエールと、チャップス……!?」
その瞬間カブの表情が曇りタブレットの電源が落ちた。カブの天敵だなホントに。
二人はそれぞれ「好奇心」と「狂気」という
「やあカイト。手に入れたカブ見せてよ」とチャップス。
相変わらずマイペースな奴だな。続いてピエールがここに来るまでの経緯を説明した。
「どうもいきなり失礼してます。カイト殿!カブの増台の日は今日でしたよね?早く拝見したくてヤマッハでミルコ氏に会い、ここまで案内してもらいました」
ミルコがちょっと申し訳無さそうな顔で、胸の前で手刀を作っていた。
「すいませんカイトさん……勝手にこの本部の場所を教えてしまって」
「いいよ。気にすんな。ちょうどこの二人に聞きたかったこともあるし。でも二人共あんまり町の人間にはこの本部の場所とかを言わないで欲しいんだ」
「はは、当然じゃないかカイト。貴重なカブの入手先を無関係な人間に教えるわけがない。ピエール院長も同じだよ」
チャップスはいつもの薄ら笑ったような顔で同意した。まあこいつ等はカブを神聖視してるから一応信用はできる。
チラッとターニャを見ると、またちょっと微妙な表情に戻っていた。そうそう、戦争関連の話を聞かねば!
「なあ二人共。カブはこれから持ってくるけどよ、前言ってた戦争関連の物資輸送のことで率直に聞きたい」
ここで俺はターニャを手招きし、真剣な顔を作った。ピエールはそれに合わせるように身構える。
「だいじな話し!」
「そう。大事なことだ。ターニャもよーく聞いとくんだぞ!そんで後でセシルに報告しような」
「ういっ!」
ターニャは敬礼のポーズをとった。かわいいな。
「あのよ、俺達がカブで物資を届けたりする業務ってさ、戦場に出向いたり危険なイメージがちょっとあるんだけどよ。その辺、大丈夫かな?」
ピエールとチャップスはお互い顔を合わせて何かの意思を共有したような仕草を見せた。
「カイト殿。結論を述べると、全く危険なことはないと断言できます」
おっ……!?
「当然じゃないかカイト。貴重なカブなんだ。そんな危険地帯を走らせるわけがない。壊れたら困るし、他国の兵士にでも取られたらもっと最悪だしね」
おおっ……!!
「じゃ、じゃあターニャもついて行っていいの!?」
ちょっと興奮して軽く飛び跳ねながらピエールに問いかけるターニャ。
「うん。子連れでも大丈夫だよ」
俺は安心して笑った。
「はっはっは!そうかそうかー。戦地で敵の攻撃を
「むしろスズッキーニの兵士達も同行するのでそういう意味では逆に安全すぎるぐらいです」
俺はターニャの頭にポンと手を置き、いい笑顔でこう言った。
「よっしゃ!じゃあそういう事でターニャ。帰ってセシルに報告して安心させてやろうぜ」
「ういーー!あんしん!あんぜん!!」
というわけで一旦家に帰ろうとカブをチラッと見ると、カブの隣にはカブ90カスタムでここまで来たらしいセシルの姿があった。
格好からしてそのまま出勤する途中のようだな。ちょうどいい!
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