第281話 金の買取価格は?
お金の心配はあったが、なんとか無事にハイエースにカブ5台を積み込み終えた俺とターニャはそのまま回転寿司屋に向かった。
「うまうま……!」
ターニャは相変わらずの食欲を発揮し、忙しく口をモゴモゴさせている。微笑ましいな。
俺も一月ぶりの寿司を堪能し満足行くまで食いまくった。うめぇ〜。
最後にセシルのための持ち帰り用の寿司を買って店を出る。
再びハイエースに乗り込み、俺は金買取についての期待をにじませた。
「さーて、あとは銭田貴金属に戻って日本円をゲットだぜ!大金になってればいいなー」
「にほんえん?」
「ああ、こっちの世界のお金な」
「スズッキーニは『ゲイル』だった……」
「お!そうそう。だからいくらスズッキーニでゲイルを稼いでもこっちじゃ使えないからカブを買ったりできないワケだ。だからそのための――?」
俺は質問するようにターニャに問いかけた。
ターニャは人差し指を口にあてて答えた。
「……
「正解!今からその
「うんっ。かんきん!かんきん!」
……というわけで俺達は再び貴金属屋にやってきた。
「あ、お待ちしておりました山村様。査定の方終了しております……」
「おお、済んでたか。いくらになった?」
男の店員は少し目を見開いてこう言った。
「ゴホン、え、えー、お値段ですが。買取手数料20%を引きまして……お支払金額311万8140円となりました」
うおおおおおおおおおおおお!!??
その瞬間俺は雷に打たれたような、今まで味わったことのないような高揚感に包まれた!!
「さ、311万……マジで!?」
俺は、冗談ですとか後から言われないだろうかと本気で心配したが、店員の出してきた伝票にはしっかりとその金額が明記されていた!
「ゆ、夢じゃねえよな……」
俺の口元は緩みっぱなしだ。すると店員まで少し興奮気味に聞いてきた。
「成分表もお渡し致しますが、お買い取りさせていただきましたインゴットの99.99%以上が金でした!ですので24金に相当しましてこのお値段となりました」
ターニャも俺が嬉しそうにしている様子を見て、よく分からないながらもつられて笑っている。
いやー本当に嬉しい!!
「現金かお振込かどちらにいたしましょう?」
「あ、振り込みで頼む」
「承知しました。およそ一週間程度で振り込まれると思います。お振り込みの際、手数料はお客様のご負担となりますのでご了承お願いいたします」
うん、全く問題ない!
俺は羽が生えて今にも空に舞い上がれそうな気持ちで口座番号を書いた。
今回はこれだけだが、インゴットはいくらでもロザリーに作ってもらえる。
その為の
終始ニヤつきながら俺はターニャと店を後にした。
「いやーしかし300万オーバーとは上出来だったぜ!ふはははは。またスズッキーニに帰ったらロザリーにお礼言いに行こう」
「300万……円!カブが1台30万円だから10台かえるね。おじ」
「おおー。えらいぞ、ちゃんと計算できてるじゃねーか!まあ他にもリアボックスやブロックタイヤの代金にそれらの取り付け工賃、それから販売手数料とかもかかるから、実際支払う額はもうちょっと上がるけどな」
「こうちん……てすうりょう。なるほど!」
ターニャはこうして俺と共にいろんなことを吸収していて感心する。子供は柔軟だな、ははは。
――ブロロロロロ……。
そして俺達は自宅に帰ってきた。
「お帰りなさいカイトさん、ターニャちゃん!うわーっ……僕がこんなにたくさん!!」
自分と同じ型式のバイクを見てカブは歓喜の言葉を述べる。
「おうっ。スーパーカブも手に入ったし
俺はハイエースからラダーレールを伸ばしてカブ5台を下ろした。
車体重量が100キロぐらいしかないからかなり余裕をもって下ろす事ができた。
次に今度は玄関に向かってレールを伸ばしてカブを1台ずつ家の中に収納していく。
「……うん。まあこんなもんかな」
カブは家の通路に並べられた新車5台を眺めてウットリしていた。
「いやー素晴らしい眺めですよねー!彼らなら僕のようによく働いてくれるでしょう!」
「はっはっは。その通りだ!……ま、お前みたいに自走はできねえけどな」
一方ターニャは今納車されたばかりのカブのステップに乗ったりリアボックスに入ってみたりといろいろ試している。
「ターニャこれ、自分でのれるよー」
「ふふ、そうだろ?おまけに俺もウドーも……あとミルコもメンテナンスができるし、どっかの部品が故障してもカブ同士で部品交換もできるんだ。いい買いもんだったぜ」
俺は2回目の日本転移が一通り満足のいくものだったことに安堵し、最後に一つケジメを付けておこうと考えた。
その前にターニャを納得させないとな。
「ターニャ」
俺は真剣な表情でターニャを見つめた。ターニャも、これは何かある……と察知したように真剣な顔つきになる。
「俺な、これからちょっと用事でカブと出かけなきゃいけねーんだ。夜までには帰るから一人でお留守番できるか?」
それを聞いたターニャは顔を歪めた。
「えー!?ターニャも行く!おじ、なんで一人でいくのー!?一人はいやっ」
そうなるかぁ。
考えてみればロービム村でターニャを拾ってから、ターニャは今までほとんど誰かと一緒に過ごしていたな。一人になることなんてあっただろうか?
……しかし今から向かう先には絶対連れていけねえんだ。
俺はターニャを抱きしめて、なだめるように話した。
「お前は本来こっちの世界に居るはずのない人間だ。お前のことが世間にバレたら俺はエライことになる。あっちの世界に帰れなくなるかもしれん」
「ぅうーー……」
ターニャはまだ納得いってないような顔だった。うーむどうすっかな……。
ここで俺は一か八か迷案を思いつく。
「そうだ!ちゃんと一人でお留守番してたら、こっちの世界の変わった芋(みたいな食い物)を買ってきてやるぞ。栗って言うんだけどな」
「……くり?」
ターニャは目を丸くしてしばらく沈黙した後、こう
「くりおいしい?」
「ああ。煮て食っても、ご飯に入れて食ってもうまいぞ!芋に近いけど一味違うんだ!」
ターニャはしばらく考え、口を結んでなんとも言えない渋い表情で答えた。
「ん……分かった。くりにきたいする。待っとく」
「えらいぞ。じゃあちょっと留守番頼むわな!」
俺はターニャの頭をポンポンと叩いてカブと外に出た。
外から玄関を眺めると、ターニャが少しだけ泣きそうな顔をしていた。
「おじ、早くかえってきてね!!」
「もちろんだ」
そう答えて俺は久々のヘルメットに違和感を覚えつつもカブと家を出た。
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