第六章
第280話 金買取とバイク屋
――ドゥルルルー。
「行ってらっしゃい。セシル」
「うん、行ってきます。カイト、お寿司買ってきてね」
「セシルばいばーい!」
日本への転移当日の朝。俺とターニャ、そしてカブは準備万端でこの日を迎えた。
俺達はカブ90カスタムに乗ってギルドへと出勤していくセシルを玄関から見送ったあと、いよいよ転移の時を迎える。
時刻は朝の8時で、日が登りはじめてきたところだ。
俺は玄関の引き戸を閉めた。
後は俺達を含めた家の内の物質をカブに転移してもらうだけだ。
「じゃあカイトさん!行きますよ」
「おう!」
「うぇーーい!」
――ヒュッ!!
……。
…………。
「お!っと……」
「ハイ。転移完了しました!あ、時間はほとんど変わってませんね!凄いでしょう僕!?」
玄関の引き戸のガラス越しに外を見ると、朝日があっちの世界とほぼ同じように登ってきている。
本当にスズッキーニと時間がピッタリだ。ナイスカブ!
「おじ、今日はどうする?」
俺はターニャを振り向きカブにも聞こえるように予定を説明した。
……。
「なるほど!無駄がないですね!」
「おじ、すごい!」
「任しとけ。よし。まずはレンタカー屋に行くぞ……いや、その前にアマ○ンで買った荷物を家の中に入れとこう」
玄関の引き戸を開けると、俺が以前本部に持ってくると言っていたポータブルバッテリーが置かれていた。置き配にできて助かったぜ。
他にもタイヤやらいろいろ届いているな。よしよし!
「それにしても電波が繋がってて本当に良かったわ。カブのおかげだ。感謝するぜ」
「カブえらい!」
「いえいえ!デュフフッ……」
――さて、そんなわけでやってきたのは、以前も利用したレンタカー屋だ。家の近くにあって助かったぜ。
ちなみにカブは家に置いてきている。理由は前回と同様だ。(141話)
俺はカブが5台積めるだけのデカさのハイエースを選び、チャイルドシートを助手席に付けてターニャを座らせる。
「おじ。これもバイク?」
「これは車だぞ」
「じゃあカブはバイク?」
「そうだな」
「でもみんなカブのこと車って言ってたよ?」
「……あっちの世界にはバイクってものがないからエンジンで動くものはみんな車って呼んでるだけだぞ」
ターニャは手をポンと叩き、嬉しそうに答える。
「うん!……りかいした」
「よろしい」
それからターニャは目を輝かせて聞いてくる。
「ねー、今日はすし食べる?おじ。回るやつ」
「ん、ああ。回転寿司かそうだな、セシルも買って来てくれって言ってたしな。よし、昼飯は回る寿司屋に行くぞ!」
「やったーー!カッパ、ツナ、たまご!!」
「ふっ、経済的な奴め。俺なんか大トロ頼んじゃうぞー」
というわけで、次に俺達が向かったのは貴金属屋である。
「ここか、銭田貴金属……こんな所初めて入るわ」
俺はターニャと手を繋いで店に入った。
「いらっしゃいませ」
メガネをかけた男の店員がカウンターから出てきて挨拶をした。
「あのさ、ここって金を買い取って即日で支払いってできる?」
「はい、可能です。どういった
「インゴットだな……刻印はないけど純度は高いハズだぜ、多分」
俺はそう言いながらカバンの中からジップロックに入れた金塊を取り出す。
もちろんこの前ロザリーに製作してもらったヤツだ。
消しゴムサイズの綺麗に整った形の純金インゴットを見せると、店員が一瞬だけ目を見開いたのを俺は見逃さなかった。
そしてジップロックごと店員に渡すと、店員は手袋をした方の手でインゴットを取り出し、黒い皿のようなものに置いた。
「ちなみにだけども、これを買い取ってもらったら税金ってかかるんだっけ?」
店員はよくある質問だと言わんばかりの余裕ある顔を見せた。
「年間50万円までなら税金はかかりません。それを超えますと譲渡所得税がかかってきます」
知るかそんなもん!……と俺は心の中で思った。
「ぜいきん……」
隣でなんかターニャがつぶやいている。俺は正直ターニャに構う余裕もないぐらい焦っていた。
「そ、それってやっぱり税務署にバレちゃうワケ?」
「バレちゃいますね……金額によりますが私どもの方から書類を提出する場合もありますし」
「わ、分かった。とりあえず査定しといてくれ。俺はちょっとその間いろいろと用事済ませてきたいんだ。今日中に戻るからよ」
「かしこまりました。ではお預かりいたします」
そう言ってターニャを連れて店を出た俺だったが、今の話がしばらく頭を離れなかった。
確定申告とかしたこともねーぞ!?面倒くせえええええ!!
正直な感想はそれだ。
スズッキーニなんて税金とかそもそもあるのかどうかも分かんねえ国だ。そんなガバガバ税金じゃなくこの日本はしっかり金をむしり取ってくる。特に高所得者には厳しく!
聞いた話だが数年間は脱税をあえて放置して2~3年以降にまとめて請求してくるとかいう噂もある……怖すぎんだろ!?
くっそぉ。
放置して刑事罰でも食らった日には家に捜査官が来たりするかもしれん。そうなったら日本に帰ってカブを買うどころじゃなくなる!絶対に目立ったらダメだ!!しかし面倒だぜ……。
――パシッ。
俺が険しい顔でブツブツいいながら駐車場に向かって歩いていたら、ターニャが両手で俺の手を引っ張った。
「おじ!?だいじょうぶ?」
ターニャにしては珍しく心配そうな顔をしていた。
「ターニャ……」
俺はターニャにそんな顔をさせてしまった自分を恥じた。
自分の頬を「パンッ」と叩いて気合を入れ直す!
「すまん。くだらねーことで悩んでたわ!」
よく考えたら、この一件だけ確定申告すればいいだけじゃねーか!
はっ、何のことはねえ。やってやるぜ!
「……おじ。ふっかつした?」
「おう……復活ッ!俺ッ、復活ッ!ははははっ」
「ふっかつ!おじ、ふっかつ!!ういーーっ。あははっ」
などといってふざけて笑いながら、俺達はハイエースでバイク屋に向かった。
――バイク屋『マッドサタン』。
ここが唯一、保険やナンバーの登録要らずでバイクの車体だけ購入できるバイク屋だ。
店内に入ると、カブと同じスーパーカブja44が5台ズラーッと並んでいた!
うおおお。新車でピカピカだな、いいねーいいねー。
「おじ、カブがいっぱい!?」
「アイツと同じ型だからな」
5台全てにリアボックスを付けて、ブロックタイヤに交換してもらっている。あっちの世界で活躍させるにはドノーマルだとやはり厳しいのだ。
「揃えてくれてありがとよ!お値段いくらだ?」
「はい。千円以下切り捨てまして185万円です」
「はいよ。185万円な!意外と安かったな」
などと俺は強がりを言ったが内心穏やかじゃなかった。
ホントにあの金塊買い取ってくれるんだろうな……!?
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