第279話 大胆な結論
「チャップスは嬉しくねーのか?」
俺がそう聞くとチャップスは口を歪ませ、初めて見るような奇妙な顔を見せた。
「僕はカブが欲しいんだよね。自由に弄っていいカブが。別に戦争がどうとか興味ない」
「おい!そういうことを言うんじゃない」
あけすけ過ぎてピエールに突っ込まれるチャップス。倫理観の無さは相変わらずだな。
そう思っているとチャップスは驚くような発言をした。
「僕はこっちに来てカイトに王城の技術開発院に紹介されてからいろんな技術を吸収しまくったんだけど。カブの車体にはそれらでは説明できない謎のエネルギーがおそらく存在する。それを早く確かめたくてね。ウズウズしているんだ」
俺は「おっ」と興味を惹かれた。ちょっと聞いてみよう!
「チャップスよ。それってどんなもんだと思う?」
チャップスの答えは俺の予想とまさに一致した!
「んー、雷の魔法みたいなー」
それを聞いてルナは失笑に近い笑いを
「ま、魔法ですかー?あははっ。技術者らしくもないですね」
しかし俺の方は思わずニヤーッとしてしまった。
電気のことになると俺はテンションが上がるのだ!
この世界にも車があるがディーゼルエンジンなのでプラグもないしバッテリーもあるかどうか分からない。
そもそも電気というエネルギーが技術として存在しているかどうかも不明だった。
だからそこに切り込んだチャップスに、俺はなんともいえない好感を抱いてしまったのだ。
「面白い発想だがチャップス、雷をどう使うんだ?」
そう聞いたのは俺ではなくピエールだった。
ピエールが知らないってことはこの世界、電池などの電気エネルギーの実用化はまだのようだ。
「上手く制御できれば……おそらく大きな技術進歩の足がかりになる。そのためにはカブの実物を見るのが一番早い。だから僕は早くカブが欲しい」
チャップスはそう言って俺をじっと見つめた。
なんだろう。普段は感情がこもっているのかどうかも分からないチャップスのその言葉に、俺は今たしかに熱を感じている。
気に入ったぜ。お前。
「チャップス。お前もニシナリアの物資の輸送に協力しろ!」
チャップスは首を傾げて不可解そうな顔をした。
「前にも言ったように、僕はカブに乗るのにはそんなに興味ないんだけど」
当然そういうと思っていた俺は、笑顔のまま付け加える。
「だろうな。でも乗った方がよく分かることもあるぞ。それでよ、協力してくれたらカブを丸々1台王城にくれてやるよ!」
「……!?」
「なっ……!?」
「ええっ!?」
チャップスを含めた三人は驚愕の表情を浮かべている。自分でも思い切った事を言ったなと思ったぐらいだ。
「これはまだ予定なんだが、近々カブが5台ぐらい入手できるハズなんだ。そのうちの1台を引き渡してやる。お前に可能性を感じたから言ってんだぜチャップス?」
チャップスはハッキリとニヤリと笑って答えた。
「ふーん。じゃあ乗るよ。カブに」
ふはははは!いいぞー!
「よっしゃ。じゃあ決まりだ!カブが手に入る日はセシルからの手紙でお知らせするからな!」
ピエールは俺に頭を下げてきた。
「感謝しますカイト殿!」
「任しとけ!」
しかしこの場に1人だけ納得いかない人物がいた。
もちろんルナである。
「カイトさん、ちょっと……」
ルナは小さな子供がそうするように俺の服の袖を引っ張り、文句を言った。
「随分楽しそうに交渉してらっしゃいますねカイトさん。元々カブの交渉権はウチが先に持っていたハズなんですけど?」
野球のドラフト会議みたいだな。
ルナは笑ってはいるものの眉間に少しシワを寄せている。あ、うん……言いたいことは分かる分かる。
「安心しろ!そっちにもカブを貸してやる」
「ほ、本当ですか!?ありがとうございますカイトさん」
「あ!ガソリンの……燃料の作り方も教えとかねーとな」
それを聞いたピエールが反応した。
「やはり、カブの燃料は軽油じゃなかったのですか!」
「ああ、カブはそもそもディーゼルエンジンじゃなくてガソリンエンジンだから軽油入れても多分動かねえし最悪故障する。だから給油所で軽油とガソリンの混油を買ってきてそれを分流しなきゃならねえ。その際注意して欲しいんだが、ガソリンは蒸発しやすくて密閉空間で空気と混ざって存在してると、ほんの小さな火花でも大爆発するから絶対換気のいい場所でやらねーとダメだ!!それだけはマジで注意してくれ。っていうかまず俺達が教えるわ……ってゆーか教えさせてくれ!」
ガソリンの取り扱いに関しては真剣に忠告せざるを得ない。
「は、はあ……カイトさんがおっしゃるならそうなんでしょうね」
俺のあまりに真剣な気迫に押され気味のルナだった。
「爆発か!面白いね」
チャップスがまた恐ろしいことを……。
「おい。お前が言うとシャレにならん!やめとけチャップス!」
「彼の行動は私が責任をもって監督するつもりですのでご安心をカイト殿」
「おう、頼むわピエール……コイツは面白いと思ったら善悪の区別なくやっちまう奴だから怖えんだよな」
……といった感じで話し合いはまとまり、俺達はキャットの事務所から出てきた。
そしてピエールとチャップスは馬車に乗って王城に帰り、ルナは「楽しみに待ってます」と告げて事務所に戻っていった。
「カイトさん!ど、どうでした!?」
真っ先に聞いてきたのはミルコだった。
――ドゥルルン。
「僕、気になりますー!」
次にカブが自走してきた。コイツに話したらショック受けるんじゃねーかな?
……。
…………。
「ええーーっ!?」
俺は全てを話し、皆は驚きの声を上げる。
「ぼ、僕
カブは半狂乱になりながら、目をぐるぐる回す動画をタブレットに展開させる。
「落ち着けカブ。アイツはあくまで車としての機能やら構造に興味があるだけで、お前という個体に特別興味があるわけじゃねーからな」
「皆、俺がいろいろ勝手に決めちまって悪いな。カブを貸したり国にあげたり……だが事態が戦争だけに今はこうするのがいいと思ったんだ」
――すると、皆はいい感じの笑顔でこう答えてくれた。
「何言ってるんすかカイトさん。僕らもそれが一番だと思ってます。戦争が起こる前に要塞を強化するのも、物資を支援して民衆を助けるのも大正解っすよ!」
「そうだぜ!カイトの判断なら俺達はついていくだけだぜ」
「うっすうっす。へっへっ」
「ぶっしの輸送!がんばろーおじ」
皆の声援を受けて安心した俺は薄く微笑み、脳内で今後の計画を練るのだった。
――そしていよいよ、2回目となる日本帰還の日がやってきた。
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