第278話 そういうことか


 事務所の隣には馬が二頭繋がれていて、隣には馬車が停められていた。

 あの二人、アレで来たのか。しかしここキャットに一体何しに来たんだ?



「皆さん。あの二人は危険です!気をつけてください!!」


 ……と、一度車体の一部を切り取られそうになったことを思い出したらしいカブは、全員に警告を発する。


「き、危険って?」


 ちょっと警戒しながら聞いてくるミルコ。


「カブにとって危険って意味な」

「あー」


 ミルコは納得したようだ。


 王城の技術開発院の人間であるピエールとチャップス。カブの車体構造に関してこの世界で最も興味関心の強い二人だ。


 カブから見たらストーカーみたいなもんだから、怖がるのも理解はできる。



 でもちょうどいいぜ。あの噂の真相に近づけるかも知れねえ。とりあえず話を聞きに行こう。


「ちょっとここからは俺が話を聞いてくるわ。あの二人のこと知ってんの俺ぐらいだからな」


 ミルコ達は頷いた。


「チャップスさんは知ってますけど、ピエールって人は確かに知らないっすね、俺」

「俺も」

「あ、僕もっす」


「ターニャは知ってるー!おじといっしょに行く!」


 ターニャがやる気満々な表情で参戦してきた。まあいい勉強になるかもな。来い来い。



 というわけで事務所の入り口から声をかてけ中に入っていく。




「おおーっす!」


 俺は自分でも不思議なくらいフランクに、まるで実家に帰った時のように声を掛けていた。


「カイトさん!?」


 真っ先にルナが反応する。


「おお、これはこれはカイト殿。いい所に来られましたな」


 次にいつもの作業着姿のピエールが、最後にチャップスが直球で聞いてきた。


「あれ?カイト。君がいるってことはカブで来たんだね?カブ見せてよ」


「相変わらずだなチャップスお前は……カブはいずれ何台か手に入るんだから待っとけ」


「ひゅーーっ!」


 チャップスは両手を真上に上げて喜びを表現している。


「チャップス、へんたい……でもうれしそう」


 ターニャが忌憚きたんない感想を述べ、メモっている。

 おっと、俺もここに用事があった事を思い出した。


「俺もピエールとチャップスには聞きたいことがあってな。その前にルナ、俺達の似顔絵を渡しとくから、ヤマッハでカブを警備するときの参考にしてくれ」


 そう話して似顔絵を渡すと、ルナは感心したようにつぶやいた。


「わー。ビックリですカイトさん。ウチの従業員達もカイトさん達全員の顔を知らないので、もしカブが盗まれた場合乗っている人間が窃盗犯かどうか分からないし、どうしたものかと頭を抱えてたんですよ」


「たった今、サガーの奴とそれに近い状況になったわ。だからサガーの社長に似顔絵師を紹介してもらってアドレス新聞社で印刷してもらって、今ここに来たわけだ」


「すごく助かりますカイトさん。これ、ウチでも印刷して皆に配りますね!」


 ルナは印刷された似顔絵を受け取り、欲しかった物が手に入った安心感からか自然と笑みが溢れていた。



 それはそうと本題に入りたい。


 俺は3人にカブの軍事利用の話を聞いてみると、ピエールから意外な答えが返ってきた。



「ああ、それはですね。紛争地帯に食料等の物資を送るという意味ですよ」



 緊張の面持ちでいた俺は拍子抜けした。


「あ、ああ……なんだ。そういうこと!?」


「ええ。それと、紛争地帯とうちの国につながる道にある関所を強化して要塞化しようという話があります。そこで必要なのが大量の岩です!」


 ああ、なんか予想がついたわ。


「で、その石を運ぶのにカブがいるってわけだな?」


 ピエールは笑って答えた。


「その通りです。まあ軍事利用と言えなくもないですが……ちょっと言い方が物騒ですね。こちらとしても心外ですよ」



 俺は安心し、続けて二人がこのキャットに来た理由を聞いた。


「二人(ピエールとチャップス)はなんでここキャットに?」


 ルナを含めた3人は同時に顔を合わせ、そしてルナが説明した。


「カイトさん、ほら。以前ウチの使っていない倉庫を貸し出す代わりに、カブを1台貸してほしいって話をしましたよね?」


「ああ」


 次にルナは少し含みのある表情で俺を見つめた。


「私、誰にも話してないんですけど……なぜかこちらのお二人にはその事が伝わっていたみたいです。不思議ですよね?」



 ……。



 …………あ。



 俺はルナのセリフを聞いて思い出した。


 その話、セシルに話したわ。



 そう、セシルに話すということは手紙で国にも伝わるってことだ。



 いやでも、別に秘密にしないといけないってワケでもないハズだが……。


「あ、もしかして黙ってた方が良かった?」


「……そうですね」


 ルナは、少し恨めしげな顔をしている。それによって大体の話が読めてしまった。


 俺は単刀直入に三人に聞いた。



「カブを国に引き渡せって話か?」



 ルナは頷き、ピエールは説明した。


「私個人や技術開発院がカブを欲しているのはカイトさんもご存知でしょう?」


「ああ、嫌と言うほどな」


「しかし今は個人的感情よりも、企業の利益よりも優先すべき事態が起きている。国全体の治安に関する問題です」


「それってだから戦争だろ?」


「はい。そんな折、こちらのキャットさんがカブを入手するかもしれないという話を聞いて、こうして二人で交渉こうしょうに来たのです」


「交渉……ですか。私には強制にしか感じられませんが?」


 ルナは渋い顔でため息混じりに愚痴をこぼす。



 ピエールはルナの方を向いて強めの言葉でした。


「国の治安より企業の利益を優先する……キャットの営業部長のあなたがそんな判断を下すとは我々は思っていません。当然カブはこちらに譲っていただけると思っています」


 ルナは渋い顔をしてうつむいた。


 いやー、どう見てもこれはルナも折れざるを得ないだろう。

 それにピエール達の話が事実ならたしかにキャットに貸し出してる場合じゃねーかもな。



 ……よし。


 俺は結論を出した。



「その物資の輸送、ウチがやろうか?」



 ピエールは目を見開いた!


「ほ、本当ですか!?」


「ああ、カブだけ貸しても運転に慣れてない人間が乗って大量の物資やら重たい石材やらの輸送なんて厳しいと思うしな。その点俺達スーパーカブ油送は隣国のゼファールやレブルに貿易品を輸送した実績がある」


 やや狼狽うろたえつつ、ピエールは質問した。


「し、しかし……そちらの仕事は大丈夫なのですか!?」


 俺は笑って答えた。



「しばらく休業だ。ピエールの言うように国の治安維持の方が大事だし、俺達ならそれができると思う。あと……あれだ、報酬ももらえる気がするし……」


 俺は最後の方は小声でボソッと言ったが、ピエールからは笑顔と共に力強い声が飛んできた!


「もちろん無報酬な訳がありません!それどころかうまくいけば表彰されますよ!」


 よっしゃー!!やったるぜ。



 ……あれ?チャップスも喜びそうに見えたのに微妙な反応を見せている。どうした?

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