第277話 戦争にカブを使う!?


 国がカブを軍事利用しようとしている!?


 ……。



 そんな話聞いたこともねーぞ??


「ちょっ……ジェームズさんよ。それどこの情報だ!?俺、初耳だぜ?」


 ジェームズは斜め上を向いて困ったような顔を浮かべて思い出そうとしている。


「ちょっとその話、俺達も気になるっす。ジェームズさん、ぜひ聞かせて下さい」

「俺も気になるぜ!国が俺達の商売道具で戦争とか本気かよ?ってかそんな台数ねえだろ!?」


 ミルコとガスパルも前のめりになってジェームズに迫ってきた。



「え……それってー、やっぱりニシナリアの紛争が絡んでるんすかね?」


 ボルトも参加してきた。それにジェームズは驚きの表情で聞いてきた。


「うおっ。おまっ。よう見たらボルトやないか!気付かんかったわ……え、お前もスーパーカブ油送の社員になったんか!?」


 ニヘッと笑いながら答える。


「そっすそっす!へへっ。いつぞやはお世話になりましたー局長。それよりその紛争のこと聞きたいっす」


 ボルトも顔は笑っているが目が真剣だった。



「ふんそう、こわそう」


 ターニャが韻を踏んでつぶやく。それもちゃんとメモを取りながら。

 子供なりに紛争という言葉の響きと、皆の真剣な雰囲気に危険な何かを感じたんだろうな。



「いやー、ちょっとワシも噂で聞いただけやからよう分からんのよホンマ。嘘か真かも、出どころも分からへん。カイト社長なら知ってる思たんやけどなー」


 ジェームズは首を捻りながらそう話す。



「今んとこ俺は国に対してはスーパーカブを1台貸出するってだけで、どう使うかまでは知らねーし、そんな簡単に増台できるもんでもないぞ?」



 ――パッ!


 俺は一瞬だけタブレットにカブの表情が映ったのを見逃さなかった。


 あれは明らかに怒っている顔だ……。まあ気持ちは分かる。



 しかし誰もそれについて詳しく知らねえってんなら、この場で悩んでいてもしゃーないか。


「まあ、それについては誰も分かんねーみたいだから保留しとこう。ジェームズさん。取材はこんなもんでいいか?新聞楽しみにしてるぜ」


「うんっ。今日はありがとうカイト社長っ!実際記事になるのは明後日やけどまた読んでや!今は全世帯に配達されてるハズやから」


「俺、朝から新聞配ってっからサラと一緒に真っ先に読めちゃうぜー!ははっ」


 ガスパルが嬉しそうに言った。

 皆も「ちょっと楽しみ」という感じの笑顔を浮かべている。



「おっと、もうそろそろ俺達の似顔絵の集合版。印刷できたんじゃねーかな?」


「カイトさん。早速それ受け取ってサガーとキャットに持っていきましょう。国の戦争の話も何か聞けるかも知れないっすよ?」


 ミルコが真剣な顔をして言った。


「そうだな。ルナやワグナスにもこの話聞いてみるか。よっしゃ、行動開始だ!」


「おう!」


「ういーー!!」




 ――ドゥルルルン!パルルルッ。


 俺達は印刷された似顔絵のコピーを受け取って、早速サガーの本社に向かった。



「ムキーーッ!!ひどい話ですよ、なんですか軍事利用って!?」


 その道中、案の定カブは怒っていた。


「ほら、僕ってこう……平和の象徴じゃないですか!」


「お前はいつから鳩になったんだ?」



 そんなカブとのアホな会話にミルコが入ってきた。


「でもカイトさん。カブ君って戦争でどんな使われ方をするんでしょうね?カスタムして大砲でも付けるんすかね?」


「んー、まあ単純に物資を運んだりするのに使うぐらいしか……あとは戦場で馬の代わりに乗ったり……とか?」


「僕は馬じゃないですー!馬より頑丈な自信はありますけど……それより単純に怖いので戦いたくないですー!!」


「相変わらずバイクのくせに人間みたいな奴だな」



 するとボルトがやや控えめにコメントしてきた。


「あのぅー僕思うんすけど、カブ君を使うかどうかはさておき、国が戦争の準備を始めてるっていうの、本当ならかなり怖いと思うんすよ」


 確かにな。


 ボルトのいつもの笑顔も影を潜めている。緊張感をもっている事がうかがえるな。


 ここで俺は一つ気になった。


「っていうか、そういう話こそ真っ先に新聞に載るはずだろ?局長のジェームズもウチの国が戦争に備えてるなんて話はしてこなかったし……ガスパルは新聞屋でなんか聞いてねーか?」


 ガスパルは苦笑いしながら答えた。


「いやー俺、ウチの会社に関する記事以外興味ねえから読んでねーわ。でも朝会うキャットの奴らも新聞読んでる奴いたけど、戦争が起こるかも――なんて話、誰もしてなかったぜ?」


 俺はそれを聞いて、俺達が今するべき事を述べた。


「まあ、国が秘密裏に動いてるのかもしれんし、そもそも噂の真偽も不明だ。今は情報を集めつつ会社の業務はしっかりやろう。皆それでいいな?」


「了解!噂なんて気にしてもしゃーないっすよね」

「つうじょうぎょうむ!」


「そうですねカイトさん!僕らは僕らの仕事をしましょう!」





 そんな感じで俺達は再びサガーの事務所に戻り、似顔絵のコピー紙をワグナスに渡した。


「おお。これはいい。全員の顔と名前が一目瞭然だねえ!」


「だろ?サガーの全員に回しといてくれやワグナスさん。あと、話変わるけどさ……ウチの国ってどっかの国と戦争始めたりしないよな?」


「戦争……!?まさか、いやー少なくとも私は聞いたことないね。どこか遠い国の話じゃないかな?」


「分かった。ありがとう」



 ――ドゥルルルルー。


 お次はキャットだ。

 俺達はキャットの倉庫のあるデカい敷地にたどり着く。

 ルナがいれば手っ取り早いんだがな……。


「あ!いた」


 敷地内にカブを停車させ、事務所の中を覗くと、何度も見たその姿が目についた。ルナだ!



 ……しかし、そこにはもう二人、これまた知っている人物が同席していた。



「ピエールとチャップス……」



 俺はそう呟いてカブを見てみると――うん。



 やっぱりな。その表情は見事に青ざめていた。

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