第221話 メイト村


「いやーカイトさん良かったですねー!イヴさんがそんな活動をしてたなんて……。僕てっきり何か事件でも起こすんじゃないかとハラハラしてましたよ!」


 メイト村へ向かう途中、カブは本当に安堵あんどしたような表情でそんな感想を口にした。


「ふっ、俺も安心したよ。やっぱ環境って大事なんだな。それにしてもイヴがもし本当に店を構えて成功したら夫婦で大金持ちになるな」

「ですねー!」


 それを聞いていたボルトが話に入ってきた。


「えー、でも社長。バダガリさんもそうっすけど社長夫婦もかなりの世帯収入じゃないっすか?セシルさんてギルド長でしょ?相当な給料貰ってると思うっす!へへっ」


 俺はちょっと上を向いて「おー……」とつぶやき、改めて考えた。


「確かに……いくらぐらい貰ってんだろな?あいつ」


 不思議な事に、俺は今までセシルの収入ついてなぜか全く考えた事がなかった。

 まあまた今度聞いてみよう。



 ――ドゥルルルルー。ドゥルルルルー。ガタガタッ。


 などと話しながらメイト村へカブを走らせる俺達。


 メイト村までの道は少々狭い道だったが、荒れてはおらず走りやすい。

 急な上り坂や下り坂もなく、バダガリ農園から4~50分程で俺達は到着した。



「ここがメイト村かー。なんか普通の村だな」

「へー……。規模的には100人いるかどうかって感じっすね」


 畑仕事をしている村人が何人か見えるぐらいで、やはり人は少なそうだ。


 村には2~30件の民家らしき建物が散らばっていて、村の中央には大きく立派な寄合よりあい所みたいなレンガの建物が鎮座ちんざしていた。


 俺達は一旦カブとカブ90から降りて、荷車を押しながら歩く事にした。



「カブはここで待っててくれ。あんまり目立つと面倒だからな」

「了解ですカイトさん!行ってらっしゃい!」


 カブは快く了承して俺達を見送ってくれた。


 俺とボルトは空の軽油タンクを載せた荷車を引いて、歩いて寄合所らしき建物まで歩いていった。

 そしてレンガの建物にたどり着き、一旦荷車を置いた。


 ふう、早速当たってみるか。



 ――コンコン。


「もしもーし、誰かいるかー?」


 俺は正面のドアをノックし返答を待っていたところ、こんな声が返ってきた。



「誰じゃ!?」



 それはかなり老齢のおじいさんの声だった。


 俺は中に誰かがいた事で少し安堵し、率直に目的を伝えた。


「どーもー。ヤマッハから軽油の取引がしたくて来たんだけどもー」



 するとドアが開いた!


「ワシが村長じゃ。軽油だと?お前達はどこの業者だ!?」


 村長を名乗る老人は、いかにも町の長老といった風格だった。

 というか、なにやら憤慨している様子だな……なんでだ?まあとりあえず説明しとこう。


「あ、俺達は『スーパーカブ』って配送業者なんだ。ここに軽油をまとめておろしたくて、その交渉のためにやって来たんだ」


 すると老人は顔を歪ませた。


「スーパーカブゥ?そんな業者聞いた事もないぞ!配送業ならキャットかサガーしかいないハズだ!」


「え!?いや……」


 老人は畳み掛けるようにこう話す。


「そもそも軽油は危険だから配送が禁止されとると聞いている……お前さんらは本当に配送業者か?詐欺師かなんかじゃないのか!?」


 うーん、すげえ怪しまれてんな。

 俺はこの村長の態度に先行きが不安になった。



 すると、ここで黙っていたボルトが半笑いのまま口を開いた。


「あ、あの、村長さん?へっへっ、すいませんがあの、軽油を配送禁止にしてるのってキャットとサガーが勝手に決めてるだけっすよ?別に他の業者もそうしなければならないっていう決まりはないんすよねー」


「あん?何だと?」


 ボルトの軽いノリに若干イラつきながら首をひねる村長。これは嫌な予感がする。


「てか村長さん……。僕らのこと悪徳業者みたいに思ってらっしゃるみたいっすけど。そもそもこんな小さくて辺鄙へんぴな所で詐欺とかしても大して稼げないっすよ!?へっへっ」


「小さくて辺鄙だとおおぉぉ!?貴っ様ーー!メイト村を舐めとんのか!?」


 おいいいい!ボルトお前なんでそんなケンカ腰なんだ!?


 俺は慌ててボルトと村長の間に入った。



「いやっ、あのっ……これぐらいの人口の村が一番過ごしやすい!間違いない!そう言いたいんだ!!」


「むっ」


 村長が俺の顔をにらんだ。俺はご機嫌を取るためにこう続けた。


「ヤマッハやらスズッキーニやらは確かにモノはいっぱいあるし、賑やかではあるけど……その分争いも多いし、精神的もキツくてすり減る。だからこのメイト村みたいな所でゆったりと暮らすのが一番正解だ!マジで」


 すると村長の顔が初めて緩み、何かを思い出すような顔をして語りだした。


「……ふっ。若い奴らはここの良さに気付かんのだ。皆ヤマッハやら栄えた町に行きたがるからのォ。困ったもんよ」


 お、ちょっと機嫌直ったかな?俺は村長に話を合わせつつも商談に持っていこうとした。


「村長。この村もこれから冬で大変なんじゃねーか?」


「おお、そうなんだよ。この村の冬は本当に寒くてなぁ……。雪なんか積もっちまったらもうアレよ、陸の孤島よ!」


「そうか、雪かー――!だったら尚更ウチの軽油が必要じゃねーか!?」


 すると村長は口を歪ませて笑い、皮肉っぽい言葉を返す。


「はっ、商魂たくましいやっちゃなぁ。お前さん」


「はははっ、まあね。でも実際軽油はあった方が良いだろ?」


「そりゃそうに決まっとる!今まではずっと薪を割って必死に火おこしして、飯を作ったり暖を取ったりしとった。軽油があれば布にでも染み込ませりゃすぐに火が付けられるしのォ」



 この時点で俺は確信した。これはイケると。



「村長、ちょっと外に来てもらえねーかな?軽油タンクを見せたいんだ」

「ん……おう。案内せぇ」



 それから俺達三人は外に出て、村長に巨大な軽油タンクを見せた。

 すると村長は驚愕の声を上げるのだった!



「な、なんじゃこれは!?こんなに大きいのか!?」



「ああ、満タンならこの辺りで流通してる軽油缶(約20リットル入り)で20缶は入る」


「ほほおぉぉ……」


 この反応……村長は少なくともとは感じているハズだ。あとは価格の問題か。



 確認すると、軽油一缶を給油所で買うと600ゲイルだ。

 俺達はもちろんそれに送料やらを上乗せした価格でここに卸すワケだが――。その前に一つ聞いておこう。



「なあ村長さん。今までよ……もしここでどうしても軽油が欲しい!って時はどうしてたんだ?やっぱ国に頼むのか?」


 それを聞いた村長は目を見開いて不満を口にした!



「そうなんじゃ!ヤツら足元見よってな、ふざけた価格で売ってきよるんよ……!!」


 ほう。俺は試しに聞いてみた。


「一缶いくらで?」



「なんとな……6000ゲイルや!!」



 じゅ、10倍じゃねーか!!

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