第222話 この村長……


 村長は首をひねりながらぼやくように話した。


「国の輸送部隊は何でも大げさに届けに来るからのぉ、馬を使って大人数でゴツい奴らばっかり揃えて。なんか盗賊の襲撃に備えるため……とか抜かしとったが」


 それを聞いた俺は現代でいうガス欠でロードサービスを使ったような状態を想像し、それとなく村長にほのめかした。


「もしかしたらでそれだけの高価格になってるのかもな。ほら、ここってヤマッハから結構遠いだろ?その距離を少なくない人数使って届けるわけだから……」



「んな事はこちらの知ったこっちゃねえー!!一缶6000ゲイルとかとにかく高すぎるんじゃー!!」



 村長は口を大きく開けて叫んだ。


 俺は村長の挙動に少しギョッとしたが、同時に心の中で「これはチャンス!」という感覚も湧き上がってきた。

 俺はボルトと顔を見合わせ、お互いが含み笑いをしている事を確認した。



「あっ、その通りっす村長!確かに高すぎるっすよねー……」


 ボルトがやはりニヤつきながら相槌あいずちを打つ。


「だろぉ?」


 と村長もボルトに向けて苦笑いする。

 そしてこの絶好の機会に、こちらの販売価格について俺は声を大にして発表した。



「そこで村長!いい知らせだぜ。俺達ならその3分の1以下の価格……具体的に言うと一缶1800ゲイルで販売できる!もちろん送料も全部込みでだ!!」



「お……ぉおおっ!?」


 驚きの声を上げる村長……しかしここからはちょっと駆け引き要素が出てくるかもしれん。俺は息を飲んだ。



「う……ぅうーーん……」


 やはりというべきか、神妙な顔つきで唸る村長。そしてチラチラこっちを見ている。


「もう……もーちょっと……安かったら即購入するんだがなぁー。ぅうーーん……」



 ……俺はこの場合にどうするかはもう決めていたので、その通りに実行した。


「村長。悪いが俺達は価格の交渉をするつもりは一切ないんだ」


「え……そ……そう、なんか」


 苦笑いしてこちらを見る村長。俺は真顔で村長の目を見ながら説明した。


「俺達は他の村にも同じように交渉に行くつもりだけど、売り値は全部ヤマッハからの距離に応じたものにしてあるから今更変更はしないんだ」


 隣でボルトが空気を読んでウンウンうなずきながら「そーなんすよねー」などと相槌あいずちを打っている。


 そして俺は続けた。


「だからこの価格が無理だというのなら、俺達は他の村を当たる。無理矢理買えとは言えねえしな。なあボルト?」

「そっすねー。やー、ホントにこれでもできる限り頑張ってるんでー。なんとかお願いできないっすかね?村長さん」



「……」


 腕を組みながら考え込む村長。

 俺は流石にすぐには判断できないのだろうと思い、荷車に手を掛けて村長に告げた。



「もし村人たちの判断が必要ってんなら、俺達はまた来るけ――」



「買うぞ!!!!」



 俺の言葉を遮るように、村長の大きな声が響いた!


「お前さん達……スーパーカブから軽油を買う。決定じゃ!」



 おおっ!!


 俺とボルトは笑顔で喜んだ。


 素直に嬉しかったのに加え、この価格なら買ってくれる――というのが分かり他所よそでも通用するという自信もついた。ようし!


「じゃあ村長。明日でいいかい?軽油20缶分で36000ゲイルな」

「うむ用意しておこう」



 ここで俺は思い出した。このスーパーカブの銀行口座を作っていたことを。


「あ、口座振替でいいか村長?」


「なにーっ!?」


 するとそれまで何かニヤついたような笑いを浮かべていた村長はもの凄い勢いで反対してきた!


「わ、わしゃ口座なんぞ持っとらんわ!現金じゃ現金!!」


 なんだか必死に拒否してくるな。何だ何だ??



 すると隣のボルトがいつものニヤニヤ顔をさらに濃くしたような顔をしながら村長に質問した。


「あれー?確か町や村には必ず一つは銀行口座が用意されてるのが普通なんすけどねー?村長さん。基本的に村長であるあなたが通帳を管理しているハズですよね?」


「や、やかましいわ。色々あるんじゃ!こっちはお前さん等の提示した金額を払うと言っとるんじゃぞ!文句あるなら買ってやらんぞー!!」


「あ、いや。現金で大丈夫だ村長」


 俺は取引が無くなるのを危惧きぐして、現金取引を承認した。


 一方、ボルトは納得いかなそうな表情で首を傾げていた。




 ――ドゥルルルー。


 俺とボルトがメイト村を後にしたその帰り道。



「なあボルト。あの村長、怪しいけど何考えてると思う?」


 俺は何となく予想はついていたが、ボルトの意見が知りたかったので尋ねてみた。


 ボルトにしては珍しく真顔でこう答えた。


「いやー。それはもうっしょ!僕らから買った軽油を村人に割高で売りつけて差額を着服するつもりっすよ!口座振替を嫌がって現金にこだわってたのもそのせいっす!!」


 珍しくボルトがいきどおっている。


「怒ってるのかボルト?」


 俺にそう言われたボルトは、ハッとしたようにいつものニヤけ顔を貼り付けた。

 しかしややぎこちなくも見える。



「いやー、へっへっ……。僕ねー、ああいうのなんかスッゲー気になるんすよねー。だって、折角僕らが安く軽油を卸してるのに、あの村長が値段を釣り上げたら得するのは村長だけで村人は高く軽油を買わされる訳じゃないっすか!?まあいくらで売る気か分かんないし、そもそも着服するかどうかもまだ分かんないっすけどー」


 まあな。だが――。


「……しかし販売した後の事は俺達の業務外だ。俺達が村長の方針に口出せるってモンでもねーだろ?村の事なんだから」


「はあ……」


 ボルトはなんかションボリした顔付きだった。意外と正義感が強いのか?新聞記者をやってたってのもうなずけるな。


 ……でもまあ不正行為が嫌いって気持ちは分かる。俺的にも村人には卸値おろしね(一缶1800ゲイル)で買ってもらいたいし。



 そこにカブも参戦してきた。


「カイトさん、ボルトさん。僕も嫌ですよそんなの!村長さんが着服したりしたら……それじゃ僕等の販売価格に対するがんばりが村人に評価されないって事じゃないですか!?」


 んー、まあ確かになー。企業努力が村人に伝わらないって意味では……ん!?



「おい。良いこと思いついた!明日またメイト村へ行くんだが。カブ、お前にを取り付けるぞ!!」


「えっ!?」

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