第218話 初めての営業に行く


 こもってる?あのイヴが?


 ちょっと気になった俺はミルコに詳しい話を聞くことにした。


「それは、どんな風にだ?バダガリの前にも一切姿を現さないとかか?」


「一応飯は一緒に食べてるみたいです。でもその後またすぐ自室に籠っちゃうみたいっすね」


「……何かしてんのかな?」


「さあー。俺もバダガリさんに聞いてみたんすけど、あの人にもよく分からないみたいで……なんか聞いてもはぐらかされるみたいっす」


 何だそりゃ!?


 俺はイヴの笑顔を頭に思い浮かべ、急に心配になってきた。


「バダガリさんが嫌いになったとか……」


 とミルコ。しかしその想像を俺は否定した。


「いや、バダガリアイツは頭のおかしな奴ではあるが悪い奴じゃあない。むしろかなりいい奴だぞ?イヴの尻に敷かれてるぐらいだし。バダガリは多分原因じゃねえと思うわ」

「そ、そうっすかー」



 うーむ、元々情緒不安定ぎみな奴だっただけに本当に心配だ。よし!


「今度バダガリ農園行ってみっか!」


 そう決めた俺にすぐ、カブが釘を刺すように言った。


「あれ?カイトさん、確かセシルさんとの約束でバダガリ農園には行かないって言ってませんでした?」


 ギクッ!


 俺はその時セシルの悲しそうな顔を思い出し頭を抱えた。

 そうなんだよなー。この前はイヴの香水か何かの匂いで勘づかれた。つまり会ったら絶対にバレるという事だ。


「ちょ、ちょっとセシルに断り入れとくわ。夜に」


「いやー多分セシルさん悲しみますよー?」


「わ、分かっとるわい!だから説明すんだよ!!」


 カブとの会話で事の流れを察したミルコは笑顔で茶化してきた。


「あれ?カイトさん、もしかして不倫チャレンジでもする気ですか?」

「ばっ、馬鹿野郎!!俺はセシル一筋だっつーの!……ただ、イヴはちょっと放っとけねえというか……」

「はははっ。カイトさんもあんまり器用な方じゃないっすねー」


 ミルコに笑われながら、本当にそうだなと思った。俺は嘘が苦手だ。



 それから俺は頭の中でセシルに説明する手順を組み立てていた。……よし、コレでいこう!!



 ――ドゥルルルルー。


「おっ!なんか分かってきたーっ」


 振り向くと、カブ90デラックスを普通に乗りこなしつつあるボルトがその自信を口にしていた。


「おうボルト。大分上手くなったな」


「社長!ははっ。なんかコツ掴んだっす!多分もう普通に乗るだけなら大丈夫じゃないっすかー?」


 ――ガチャガチャッ。


 そう話しながらギアをNニュートラルに戻すボルト。


 そうか、サラもボルトも思ってたより大分早くカブに乗れるようになったな……ん!?



 ここで俺はとある考えが浮かんだ。


「そういえば……確かバダガリ農園からさらに先に進んだ所に村があったような気がするな」


 そう、その村とは軽油のおまとめ販売の販売予定先でもあった。


 よし、ついでにこっちも行っちまうか。なんでもついでだ!





 ――その日の夜。


 俺はセシルが帰ってくるまでに夕食の用意をして、風呂を沸かし、洗濯物を取り入れ、部屋の掃除まで終わらせた。


 当然ながらセシルは驚いていた。


「ど、どうしたのカイト!?」

「いやよ、日頃お世話になってるからな。今日ぐらいはゆっくりしてくれと思ってよ」


 セシルは俺の態度にちょっと不思議そうに首を傾げていたが、やがて笑顔を浮かべて口を開いた。


「あ、ありがとう。でも、カイト。これって何か私に頼み事がある……っていう風に感じるんだけと気のせいかな?」


「うっ!……ま、まあその……そうなんだ」


「正直だね。何?」


「後で話すわ」



 ……という感じで夜はふけ、ターニャは真っ先にスヤスヤと眠り、俺はセシルの部屋に入っていった。



「実はよ、バダガリ農園に行くつもりなんだ」


 率直にそう言うと、セシルは眉をひそめた。


「は?」


「いや、分かる。確かに約束が違うってのは分かる。でもどうしても行きてえんだ」


「……それは仕事として?」


「いや、どっちかっていうと私的な事だ。仕事で行くならここまで大袈裟に頼んだりしねえ。アイツ……イヴの奴がちょっと心配でな……」


「バカじゃないの!?」


「……」


 俺は何も言い返せずに黙った。


「不器用すぎるよカイト」


 少し笑いながらそう話すセシル。そしてそのまま続けた。


「前も言ったでしょ?私はカイトを信じてるって。それに私、旦那の事を必要以上に縛るような事はしたくないし……」


 この時、改めて俺はセシルが好きなんだなと思った。


 俺はセシルの頭に手を回し、ゆっくり撫でた。

 セシルも俺に身を寄せてお互いに体を密着させる。


 そこからは、いつものように二人で体を求め合った。




 ……翌日、俺達は再び本部に集った。


「カイトさん。今日の予定は?」

 ミルコが聞いてくる。


「今日はミルコ、お前はウドーにガソリン精製のやり方を実践して教えてやってくれ。俺とボルトはバダガリ農園と、その先のメイト村まで行ってくるつもりだ」


 それを聞いたボルトが嬉しそうに万歳した。



「うへへっ!社長。マジっすか!?僕、初営業っすね?いやー楽しみだなー」


 カブに乗れるようになって初めて遠出できると知って本当に嬉しそうなボルトだった。


「ついでにバダガリ農園でバダガリと顔合わせて、それからイヴの事も聞いて、そんでメイト村まで行く!」


「はーい!お供しまーす!!」


 まるで無邪気な子供のようだ。ボルトってこういう面もあるんだな。



「俺達はどうする?サラももう普通に乗れるぜ?」


 ガスパルがサラを引き連れて聞いてくる。


「んー、そうだな……」


 ガスパル達の予定は特に決めてなかった。あ!


「じゃあ子供二人の見守りを頼むわ。良い遊び相手になってくれや」

 ガスパルとサラは笑顔で答えた。

「おう!任しとけ」

「はい」


 ターニャとヴェルは二人で手を上げていた。


「だんごつくろー!どろだんごー!!」

「よっしゃ!バカでけえヤツ作るぞ!」

「ういーー!」

「うぇーーい!」



 じゃ、役割も決まったし。行くかボルト!

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