第217話 ちょっとした会議


「ぼ、僕と同じ車体を購入して国に渡す!?へえええええ。カイトさん、そ、それで大丈夫なんですか!?」


 カブは相当ビックリしたようでタブレットの中で目をぐるぐると回している。


「大丈夫というか、それぐらいしか思いつかん。それでな、カブ110を研究サンプルとして国に渡す代わりに堂々と商売出来るように交渉するんだ」


「ははあ……。なるほど!それで国の研究者がそのカブ110を参考にして新たな車を作る――と?」


「渡した後国がどうするのかは俺も知らん。でも、さすがに得体の知れない超高性能な車が国内を自由に走ってたら、国も色んな意味で俺等に干渉せざるを得ないだろうよ」


「ふぅーん……」

 ボルトは腕を組みながら上を向き、何か考えているようだった。


「な、なるほど……じゃあその時どういう交渉をするかが大事なんですね!?」

「そうだ」


 話を聞いていたガスパルがこちらに歩いてきた。


「おうおうカイト!なんでそんなに低姿勢なんだよ!?俺達は普通にちゃんと商売してんじょねーかよ?いくら国とはいえ横槍を入れられる筋合いはねえハズだぜ!?」


 ガスパルの言うことは痛いほど分かる。

 俺も最初はそう考えて知らんぷりしとこうと思っていた時もあった。しかし今はやはり厳しいと感じている。


「ガスパル。確かによ、ちょっと性能がいい車――ぐらいだったら放置してても問題はないだろう。でもカブはそんな程度じゃ済まねえ。この文化レベルから見たら革命的な代物なんだよ」


 しかしガスパルの考えは変わらなかった。


「いや、そうかも知れねえけどよ、それで国が勝手に俺達の商売道具を横取りしていいのか!?っつー話だろ?」


 するとここでボルトが手を上げた。


「あのー、ガスパルさん。僕も社長の方に賛成なんですけどー……」


 ガスパルはムッとした顔でボルトを見た。

「何でだよ!?」


 俺はボルトの意見も聞いてみたくなった。

「ボルトはどんな考えなんだ?」


 ボルトは頭を掻きながら話し始めた。


「いやー……僕ー、多分このままスーパーカブが順調に業績を伸ばして規模が大きくなってきたらー……多分どっかのタイミングで誰かにと思うんすよね」


「狙われる?……なんだそりゃ?同業者のキャットやサガーの連中に何かされるって事か??」


 というガスパルの質問に、ボルトはしっかりとした持論を展開した。


「いやー、誰が?――かまでは予想出来ないっすけど。この会社もキャットやサガーみたいに有名になってくると、いつか強盗に入られたり、配達中にカブを盗まれたり……っていう危ない目に合う可能性はかなり高いと思うんすよねー。何せこんな高性能な車なんでー。だから国には秘密にせず、逆に貴重な技術として国から保護してもらった方が多分賢明じゃないかなーと思うんすけどねー」


 なるほどな。それももっともだ。

 だかやはりガスパルは険しい顔で反論する。


「はっ。強盗なんて俺の目が黒いウチは誰一人として入らせねーよ!自分の会社の商売道具は自分で守るモンだろ!?カイトだってそのために剣やら鉄パイプやら買ったんじゃねーのかよ!?」


 俺は少し熱くなったガスパルを落ち着かせようとを指差した。


「あ、あの……」


 その指の先には、やや顔を強張こわばらせたサラが自室の仕切り板から顔を出していた。


ガスパルおまえはそれでいけるかも知れねえが、そういうのに不向きな人間もいる。サラやウドー、子供のヴェルに何かあってからじゃ遅いだろ?」


 ガスパルは後ろを振り向いてしばらくサラと目を合わせて黙った。


「……」

「……ああー」


 ガスパルはしばらくしてこちらを振り向いて大袈裟なぐらい頭を下げた。



「すまねえ!確かにカイト達の言うことはもっともだ。俺、自分の事しか考えてなかったわ。カブについてはカイトの方針に従う!!すまねえ」


 そんなガスパルを見て、俺とボルトは顔を見合わせて笑った。


「ふっ、はははっ。やっぱお前はハッキリしてるなー」

「うへへっ、いやーホント性格が真っ直ぐっすねー。僕、嘘つく奴は大嫌いなんすけど、ガスパルさんは嫌いになれないっす」

「おうよ!俺はこれからもこんな感じだ。間違ってる事があったら遠慮なく指摘してくれ!」



 ……。



 といった感じでスーパーカブの今後に関する話し合いは終了した。


 そして引き続きサラとボルトは乗車訓練をして、ウドーは俺とカブのチェーン調節やスプロケット交換のやり方を学んだ。



「……っていうか前から思ってたんですけど。カイトさんっては結構持ってるんじゃないですか?僕って車体価格は30万円ぐらいしますよ?」


 俺は少し自重気味に笑って答える。


「ふっ、そりゃそうなるわ。なにせ独身で酒タバコやらん、ギャンブルもしない、車も売っちまったし娘の養育費も払い終えた……マジで金が溜まっていく一方だったぞ?同時に金の使い道もなかったがな、ここに来るまでは」


「なるほど!ははっ、ちょうど良かったんじゃないですか?……あふぅっ!……ああーっ」


 俺がカブのスプロケを外すと、カブは喘ぎ始めた。


「な、なんかカブさんが不思議な声を上げてますけど!?」


 ウドーが不思議そうにつぶやいた。


「コイツこういう性癖なんだ」

「ち、違いますぅー……あふぁっ!!」


 カブの叫びを無視してチェーンとスプロケをみると、やはり結構な砂がついていた。


「チェーンカバーがあってもこれだけ汚れるんだよなぁ」


 日本じゃほとんどチェーン清掃せずに1万キロは走れたのだが、やはり全ての道路がオフロードのここでは厳しそうだ。


「社長、このチェーンはどのようにすれば良いですか?」


「うん、まずチェーンは綺麗に洗う必要はない。てか間違いなくすぐに汚れる。この布で目につくぐらいの砂とかをざっと取って、それからグリスを内側に塗る。コレだけで良い。後は遠心力で全体に行き渡ってくれる」


「分かりました」


「ふあっ……!!ああーっ……!」


 まったくやかましい奴だ。



 そんな感じで整備作業をウドーに教えていると、やがて昼過ぎになりセローに乗ったミルコが帰ってきた。


「カイトさん。ただいまっす!」


「おかえりー!バダガリアイツ元気にしてた?」


「めちゃくちゃ元気でした」


 聞くまでもなかったか。


「イヴも?」


 そう聞くと、ミルコは何か言いたそうな表情でセローからおりた。


「それが……イヴさんは最近家にこもってるみたいです」



 なんだと?

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