第176話 用事は済んだ、帰るかー


 俺は人をかき分けカブ90を見つけると、とりあえずそれに跨って叫んだ。


「おーい、ちょっと皆のいてくれー!これ俺のバイク……車なんだ!!」


 その中の誰かが言った。


「おーやっぱり車なんだ。ほら、言ったとおりだろ?」

「しかし見たこともない素材だ。この車輪の黒いやつとか、この全体を覆っている外装とか……」

「おっちゃん実はここにいるのは皆、車を製造している作業者なんだけども……皆コイツは只もんじゃないって話をしてたんだよ」


 などと辺りがざわついた後、群がっていた人々が次々に質問をぶつけてきた。


「なあアンタ、これはどこのメーカーだ!?」


 HONDAだぜ。と言いたいところだがここの皆さんには上手く説明できん。


「車に関してはウチのスズッキーニが一番技術が進んでるハズなんだけどアンタどこの人だ?うちの国じゃないよな??」


 日本だぜ。と言いたいがやはり説明不可。


「最初2台あったけど1台はなんか『うわーーん』とか言って勝手に動き出してどっか行っちまったんだ!車が喋ったり勝手に動くなんて信じられないよー……!?」


 それは俺も毎日思ってる。


「と、とにかく皆。コイツは俺の大事な車で色々聞かれても俺も分かんねーんだ!勘弁してくれー」


「じゃ、じゃあ動くとこだけでも見たい……動かしてくれよ!」

「エンジンの音も聴きたいぞ」

「そんなちっさいエンジンでどうやって動くんだ!?」


 人々は続けざまに疑問を口にしてきた。ああー、俺が一番起きて欲しくない事態になってしまった。


「ちょっと失礼、皆さん」


 少し離れた所からよく通る声がした。

 さっきのジクサールさんの声だ。やっぱり追ってきたのか。



「……えっ」

「おい、あの方は……!!」

「ジ、ジクサール公!?こ、こんな所に!?」


 するとそれまで騒いでいた人々は一気に膝をついてひれ伏すような姿勢をとった!なんだなんだ!?



 一気に辺りが静まり返ってから、俺の方を向いたジクサールさんが口を開いた。


「……あなたはもしかしたら、国に関する重要な任務を引き受けたりしていませんか?」


「じゅ、重要な任務!?」


 俺は初め、何の事かよく分からなかった。


「ええ、例えば貿とか」



 あ!



 ここで俺は直感的にこう思った。


 この人は俺が貿易輸送の仕事を担う『スーパーカブ』(会社名まで知ってるのかは不明だが)の人間だと勘づいているのでは……?


「あ、そ、その通り!近々出発するぜ……します」


 辺りの人々は多いに驚きながら、俺とジクサール公の顔を交互に見ている。


「あ、あのおっさんは何者だ!?」

「さ、さあ……でもあの口ぶりからしてジクサール様のお知り合いかも知れない。やっべー……」


 人々の憶測が飛び交う中、ジクサール公は学校の先生のように人々に言った。


「皆さんのお察しの通り、彼は国務の関係者です。この場はお引き取り下さい」



 特に大声で命令するようでもなく普通の声でそう言っただけに聞こえたが、人々は深く頭を下げた。


「し、失礼いたしましたっ!」


 そうして皆その場からいなくなった。

 な、なんかこの人すげえな……!


 俺が感心していると、ジクサールさんはさらに深いところまで聞いてきた。


「違ったらすまない、あなたはという会社の方では?」


 うおお……、ビンゴだ。


「そうだぜ、公爵様。俺はカイト、配送会社スーパーカブを作った人間だ。一応社長でもある」


「カイトッ!!」


 ここでセシルが飛んできた!うおっ、お前そんな速く走れたのか!?


「申し訳ありませんジクサール様!無礼な物言いになってしまって……」


 ああそうだ。ついいつもの感じで敬語が抜けるんだよな俺。謝っとこう。


「も、申し訳ない……です」


 俺がそう言って頭を下げるとジクサールさんは笑い出した。


「はっはっはっ。私はそんな細かい事は気にしません。友達感覚で話して下さい」


「え、いいの?」


 器の広い人だ。

 一方セシルは隣でハラハラしている。

 この辺の感覚は現地民と転移者とでは隔たりを感じるなー。


「それより国はあなたに感謝しているんですよ、貿易品を輸送してもらえる事に」


 へー、やっぱりこの人俺のやってる事知ってるんだな。


「次回はレブルの配送ですね」

「はい!完璧にこなしてみせるぜ」

「そちらのセシル氏から聞いているかも知れませんが、荷物がゼファールの時の倍はあるそうです」

「倍!?ま、マジか……」

「ええ、その輸送はこの国にとって大きな意味を持ちます。是非とも仕事の完遂、よろしくお願い致します」


 微笑みながら俺にお願いしてくるジクサール公だった。

 偉ぶらないその態度に俺はますます好感を持った。


「まあ、その辺のお話はセシル氏に聞いていただくとして――」


 お、なんか表情が変わったぞ!?



「おお……この小さな車体にゼファールを往復出来るだけのパワーが秘められているのか、素晴らしい……」


 ジクサール公はカブに歩み寄ってじっくりと眺め、興奮したようにイキイキとした顔を見せた。


 その言葉に気をよくしたカブはニヤニヤしながら話始める。


「いやー。公爵様はお目が高いです!僕はHONDAのスーパーカブと言います!会社名は僕の名前なんですよ、はっはっは!」


 なんか、俺が言うのも何だがマイペースな奴だな。


「喋れるのはキミだけかい?」

「ええ、僕は精霊なので。特殊な個体なんです。カイトさんの為に毎日頑張ってます!」

「本当にコイツには助けられてるんだ」


 などと、俺とカブとジクサール公はしばらく雑談じみた事を話していた。


 ここで俺は思い出した。


「あ、そうだ。銀行口座作るのと、配管も買わなきゃならねえんだった。ジクサールさん、俺らちょっと急ぐわ」


 ジクサールさんはそれを聞いてめっちゃありがたい提案をしてくれた!


「配管……ラッセンの木のことかな?それならウチに余っていたハズだ。詰めるだけ持って行っていいよ」


「マジか!?あんた神だな」


「ありがとうございますー!」


「ここから屋敷への道が繋がっているから案内しよう」



 ジクサール公の至れり尽くせりの対応に俺達は大感謝し、カブとカブ90の荷車に配管用の「ラッセン」の木を積めるだけ積み込んだ。


 そしてそこでジクサール公と別れることになった。




「色々と助かったぜ!ありがとう、ジクサールさん」

 ジクサールは微笑みながら別れの言葉を述べた。


「こちらこそ、スーパーカブの今後の働きに期待しています」


 ――パッパッ!


「頑張りまーす!」


 カブも軽くパッシングして返事をしていた。




 それから俺達は銀行に行き、口座を開設した。


「うおっしやー。コレがスーパーカブの口座だ!」

「会社っぽくなってきましたねカイトさん!」


 カブも喜んでいた。


「ああ、じゃあ帰るかセシル、ターニャ」


「う、うん……」


「ん?どうした?なんか疲れてねーかお前?」

「セシル、だいじょーぶ?」


「ご、ごめん。ちょっと今日神経使いすぎて……帰りは横になっていいかな?」


「ははっなるほどな。寝とけ寝とけ、3時間で家まで運んでやる!」

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