第175話 大変だ!
俺はしばらく地面にひっくり返ったなんとも情けない体制のメンドーイを眺めていた。
恋に敗れた気の毒な奴だと思ったら普通にただのクズ野郎だったぞ……。
ターニャが険しい顔つきでトテトテとこっちへ歩み寄ってきた。
ひっくり返ったメンドーイを顔を横にしながら眺めている。
そしてポケットから何かを取り出した……ん?何すんだ?
「やる!」
などと言って半開きのメンドーイの口にその何かを詰め込んだ!
モゴォッ!?……と苦しそうに
あ、それアレか!ひまわりの種か!!
ターニャはそうやってひまわりの種をあげたとこで、「良いことしたー」といった表情でにこやかに微笑んでいる。
多分ターニャはコイツが悪い奴だと認識しているが、そんな男にも食い物を分け与えたのだ。
その優しさというのは、これがターニャの素養によるものなのか、それとも単なる子供の気まぐれなのかは、俺には判断できない。
ただまあ良い事したら褒めてやるのが
「ターニャ。偉いぞ」
「うん、ターニャえらい!」
「ただな、コイツは悪いやつなんだ」
「やっぱりー」
「あー、やっぱちゃんと分かってるんだな」
「うん」
「だから今からコイツを、えーっと……どうすんだ?」
俺はちょっと離れた所にいるセシルに聞きに行った。
「一応罪人は憲兵に渡すことになってる……すぐそこに駐在所があるから」
憲兵?警察みたいなもんか?
「じゃあコイツ連れて行くわ。セシルはここで待っててくれ。コイツと一緒にいるのはしんどいだろ?」
「うん、ありがとうカイト……」
俺はメンドーイの腕を後ろに縄で縛り、立たせて歩かせた。
ターニャも普通についてきた。
――!?
まただ……。
俺は角を曲がると、また誰かの視線を感じた。
「あれ?コイツじゃないのか?……」
てっきり俺が今捕まえているこのメンドーイという男だと思ったのだが……。
「ぐっ……お、お前っ!後悔するぞ!?」
おっと、なんかそれまで静かに俺の前を歩いていたメンドーイが何か言い出した。ちょっとダメージが回復したようだな。
「俺は名家の出身なんだぞ!憲兵なんぞに捕まえられるものか!例え捕まったとしてもすぐに
「え!?お前やっぱりそういうヤツなの?」
異様に金持ちに見えたけど間違いじゃなかった。そしてやっぱりクズ野郎だった。
「お困りのようですね」
!?
後ろから突如声を掛けられて俺は振り向いた。
それは俺と同じ40代ぐらいのおっさん……いや、おっさんと呼ぶには何となく気品のようなものが感じられる。
背もピンとしていて身なりも派手ではないが庶民のものとは違う気がした。
「また君かい、メンドーイ君」
男は静かにそう話す。
んん?何者だ?とりあえず聞いてみっか。
「あんた、コイツの知り合いかい?」
俺が尋ねると男はニッコリと笑い、
「少しね」
と、答えた。
そのメンドーイに目をやると……え、なんか震え始めたぞ!?
「こ、公爵様!?な、なぜお一人でこのような場所に!?」
公爵様と呼ばれた男は、取り乱すメンドーイを軽く睨むと落ち着いた声で
「私がどこの統治者かご存知ないか?メンドーイ君」
「い、いえ……も、もちろん存じております」
男は薄く微笑んだまま話を続けた。
「君の素行不良は少々目に余る。明日から僻地へ出向してもらう事になった」
「へぇあ!?」
物凄く大袈裟な顔で驚くメンドーイ。
「不満かね?」
男はメンドーイに向かって歩いてくる。
「め、め、
それを聞いた男は微笑みながら俺に言った。
「この者が失礼したね。しかしもう安心して頂きたい。今後はあの女性にも絡むことはないだろう」
男がそういって後ろを向き手を上げると、屈強な男が三人ほど建物の影から出てきた。
そしてメンドーイを挟むような配置で二人の男がついた。
「さあ、行こうかお坊ちゃん」
「ひいいっ……!!」
二人はそのままメンドーイをどこかへ連れ去って行った。
俺は何が何だかよく分からないままだったのでとりあえず聞いた。
「っつーかあんた何者だ?」
男は微笑みながら答える。
「私はこのハヤブサールの領主、ジクサールと申します」
「へー……領主!?それって都道府県知事みたいなもんかい?」
「はて、ちょっとわかりませんね」
笑顔のまま答えるジクサール。
「あ、ごめんごめんジクサールさん。分かるはずねーよな」
どれぐらい偉い人なんかちょっと分かんねーけど、多分あのメンドーイのビビり散らかし方からしてかなりの上位貴族に違いない!
ここは媚びを売った方がいいかも知れんな!
「今日はあのメンドーイがこちらに来るとの話を聞きつけ、配下の者数名とメンドーイを見張っておりました所、今の流れとなりました」
「あ!じゃあ俺が感じてた視線の正体ってジクサールさんの部下か……納得したわ」
「失礼ながら、どちらのご出身ですか?」
えっ!?その質問は困るなー……。
――ドゥルルルルーーン!!ガラガラッ。
……と、思っていたら突如聞き覚えのある走行音と声が聞こえてきた!
「カイトさーん!ヤバいですーー!」
カブだ。目立つから置いてきたのにどうしたんだ!?
よく見たらセシルも荷車に乗っている。
「あ、いたいた。カイトさん!カブ90が取り囲まれてるんです!すぐ戻りましょう!!」
それを聞いて俺は大いに慌てた。
「マジか!?分かった戻るぞ!!」
ここでカブを見たジクサールは恐らく初めて素の顔を見せた。
「おおお、なんだこの車は!?」
「せ、説明してる時間がねえ。すまねーなジクサールさん!!もう行くわ」
「ええっ!?ジ、ジクサール公爵様!!??うそっ!!」
セシルにしては物凄く甲高く驚きの声を上げた。そんな凄い人だったのか?まあいいや、後だ後!
「乗れ!ターニャ!」
「はーい」
俺はカブに、ターニャはセシルと一緒に荷車に乗り込む!
――カシャ。ドゥルルルン!!
俺はカブのギアを1速に入れて素早く発進した。
「追うぞ」
そんな声が聞こえた気がしたがとにかく早くカブ90の元へ向かわねば!!
カブを飛ばしカブ90を停めていた場所に着くと、本当に様々な人がカブを取り囲んでいた!
俺はカブを降りるとその中心部へと駆けていく。
「うおおおお!カブは無事か!?」
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