第174話 結婚したのか、俺以外のヤツと


「ここから真っ直ぐ下っていけばすぐに着くよカイト……それにしても速いねカブ!普通なら朝から夕暮れ近くまでかかるのに」


「いやー、これが僕の実力ですよーはは」


 カブはタブレットの中で鼻を伸ばしたような表情を浮かべている。


 しかし俺は一つ気になった。


「なあセシル、今まではどうやって王都に来てたんだ?」


「昔は馬車だったけど今はキャットとかの輸送車に荷物と一緒に運んでもらってるね」

「え!?タダ乗り?」

「まさか、ちゃんと料金は払うよ」


 ……なんかバスみたいだな。


「取り敢えず王都に着いたらどこ行く?お前の用事と、それから婚姻届みたいなのを出すんだろ?……あと銀行口座の開設か」


 俺は聞いてみた。するとセシルはニッと薄く笑った。


「うん、その辺は役場と銀行で出来るから。着いてきてもらえば……」

「おっけー。とりあえず王都まで行くぜ」




 ――ドゥルルルルン!


 王都に近づくにつれ、徐々に人が増えてきた。

 カブ2台でそのまま走っていると目立ちすぎるので、道の脇の草むらの中にカブ2台を停めた。


「行ってらっしゃい皆さん!早く帰ってきて下さいねー!」


 カブがハンカチを振りながら寂しそうな顔をしている。芸の細かいやっちゃな。


 おっと、一応初めての町だし鉄パイプを腰に携えとくか。治安は悪くないようだが用心のためだ。




 役場までの道を歩いていると、ターニャが俺の顔を見上げて聞いてきた。


「おじ、セシルとけっこんしたらどうなるの?」


「んー、特に何かが凄く変わるって訳じゃないけど……お互いにもっと好きになるかもね」


 セシルはちょっと照れくさそうに話した。


「なんかねー、けっこんしたら子供が生まれるって本にかいてあったよー?」


 ギクッ。


 せ、説明しずらいな。

 俺はなんか恥ずかしくなってきた。


「まあ、そ、そのうちな……」

「そう、だね……そのうち出来ると思うよターニャ」


 ターニャは目を輝かせた。


「ターニャかわいがるー!なでなでーしてだっこする!」

「お、おう。偉いぞー!」

「ターニャはいいお姉ちゃんになれそうだね」

「うふふーっ」


 俺達は子供を楽しみにしているターニャになんかホッコリした。

 と思うと同時に、「精力剤とか売ってねーかな?」とか考えた。




 ――!?……ん?


 ここで俺は道を歩きながら、何者かの視線を感じて振り返った。


 ……しかし、特に誰かが見ていたわけでもなく、辺りには通行人が何人かいるだけだった。


「どうかした?カイト」


「いや、……気のせいか」


 さほど気にせず俺達はセシルに付いて歩いていく。




 ――役場に着くと、まず初めに婚姻届を出しにいった。


 するとなんか受付の女が驚いていた。


「えっ……セシルさんって、あのヤマッハギルドのセシルさんですか!?」

「はい」

「あの色んな人に言い寄られてるけど絶対結婚しない人って言われてたセシルさんですか!?」

「……それは知らない」


 いやなんつー失礼な受付だ!俺は憤った。


 受付の女は鳩が豆鉄砲を食ったような顔でしばらく固まっていた。はよ手続きせいや!


「おう、俺達急ぐんでな、早いとこ手続きして欲しいんだが」


「あ、す、すいません……」



 ――それからまもなく手続きが終わった。


「……ではこれで終了です。お二人共、おめでとうございます」


 受付の女は最後にそう言って笑顔を作った。最初以外はまともな対応で安心した。


 それからセシルは他にもいくつかの書類を提出したり逆に貰ったりしていて、俺とターニャはあくびをしながらついていった。


「こういう手続きって面倒くさくて嫌いなんだよなー」

「おじ、ターニャねむい」



 しかしそんな俺達が用を済ませて再び歩き出すと、眠気も吹っ飛ぶようなとんでもない奴と鉢合わせする事になるのだった……!



「セシル!?」



 そこは他とは違い人気のない道だった。

 辺りには俺とセシル、ターニャ、そしてその謎の男だけだ。


 その男はいくつかの装飾品を身につけた身なりの良い男で顔も悪くなかった。

 金持ちか?と思ったが、見た目に反して何やら余裕の無さそうな顔をしている。


 一方名前を呼ばれたセシルの方は恐怖と怯えに満ちた顔だ。こんなセシル初めて見るぞ!?


 セシルは戦々恐々としながらも声を発した。


「メ、メンドーイ様……」


 何だその面倒くさそうな名前は!?


 メンドーイという名の男は悲しみに満ちた表情でセシルを指差した。


「セシルゥゥ……。酷いじゃないかー!?僕が今まで何度も何度もアプローチしてきたというのにッ!!」


「そ、その事は何度もお断り申し上げたハズです!」


「フフフ、君は氷のように冷たい態度と言動を取ってはいるが内心は優しき心の持ち主だ。僕は知ってるよ」

 

「お、中々見る目ある奴じゃねーか?」


 俺はちょっと感心してセシルにそう話した。

 しかしセシルは苦渋に満ちた顔をして言葉に詰まっている。


「だから僕が何度も何度も話しかけたりしていくうちに、いつかきっと振り向いてくれるだろうと思ってずっと君の事をつけ回していたんだ……」


 ス、ストーカーじゃねーか!?


「……なのに君はそんなよくわからない中男男性とッ、け、結婚するなんて……しかも子供までッッ!?」


 いや、俺達の子ではないぞ。



 そのメンドーイは徐々に怒りの表情に変わっていき、恐ろしい行動に出た!



 ――ジャキン!!


 メンドーイは服の袖から鉤爪かぎづめのような武器を出した!!


 ええ!?マジかコイツ。


「ゆ、ゆるさん。僕にこんなみじめな思いをさせた君をもはや許すわけにはいかない!!キミは万死に値するッッ!!」


 しかしメンドーイの動きはのろかった。ガスパルの半分くらいぐらいのスピードだ。


 俺は後ろに鉄パイプを構えて、メンドーイがセシルに接近すると同時に横薙よこなぎを放った。


 ドゴッ!!


「ぐええっ!!」


 腹を強打したメンドーイは倒れ地面にうずくまった。


 俺はうつ伏せのメンドーイの上に馬乗りになって鉤爪を押さえて動きを封じた。


「お前の気持ちはちょっとは分かるんだ、昔学生の頃好きだった奴をチャラ男に取られた時の苦しみは忘れねえ……」


 俺はメンドーイに少し同情する所もあったのだが、セシルの言葉でその気持ちは吹き飛んだ。


「カイト、その人妻子持ちだよ!」


「は!?」


「しかも妻は二人いるの!」


 俺は絶句した。しかしメンドーイは開き直っていた。


「セシル!是非キミを三人目の嫁に――」



 ――ドゴォッ!!



 気付いたら俺はメンドーイにバックドロップをかけていた。


 本人は筋肉バスターをかけられた後みたいな体勢でひっくり返っている。


 反省しとけワレェ!!

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