第121話 昼飯。そしてドゥカテーへ


 ターニャはしっかり先導するバンを見て、自然に体を傾けカーブを曲がっていく。


「の、乗れてる……すげぇ……」


 ターニャは自転車でバンの後ろについて、庭を3〜4周ぐるっと回った。

 ちゃんと曲がる事も出来てやがる……!も、もしかして才能あるんじゃねーか?(何のかは知らん)


 やがてターニャとバンは俺の近くまで来て、その場に止まった。


「おじ、ミルコ。どおー?乗れたでしょー?」


 俺は素直に凄いと思ってターニャの頭をナデナデした。


「いやー。びっくりしたぞー!お前、運動神経良いんじゃないか?はははー!」


 ターニャは満足そうな顔で、もっと自転車に乗りたそうにしている。


 その時、俺の横にいたミルコがボソッとつぶやいた。


「カイトさん。……俺もその自転車に乗れるようになれと?」

「あ、いや。あれは違う、子供用だ。大人用のはセシルが――」


 そういやさっきからセシルの姿が見えないな。


「ターニャ、セシルは家ん中か?」

「うん、そうだよー」

「あいつ、ちょっとは自転車に乗れるようになってたか?」

「せんぜん乗ってないよーセシル。コケたら痛そうだからって」


 アイツめ、どっちかっていうとターニャよりセシルに先に乗れるようになって欲しいんだが……。



「ちょっとセシルを呼んでくる。ウチの新入社員を紹介しとこう」

 もちろんミルコの事だ。


 俺は玄関からセシルを呼びかけた。


「おーい、セシルどこだー?新人を連れてきたぞー?」


 すると台所の部屋からセシルが顔を出した。


「あ、カイト。お帰りなさい。新人って……?」

「ミルコって奴だ。しっかり仕事してくれそうな若者だぜ」


 俺は玄関から庭を覗くと、ちょうどミルコと目があったので手招きした。


「失礼します!」


 ハキハキとした声で玄関に入ってくるミルコ。そしてすぐにセシルを見て、ポッカリと口を開けた。

 多分セシルの背の高さに驚いたんだろう。180近くあるからな。


「……あ、どうも!ミルコといいます。カイトさんの会社でお世話になります!」


「ミルコ……君ね。話はカイトから聞いてる。よろしくね」


 セシルは落ち着いた口調でミルコに答える。そして思いついたようにこう付け加えた。


「ギルドに登録されてるスーパーカブの社員数の項目、に増やしとくね」


 ミルコは笑顔で答える。


「お願いしまーす!」



 グゥゥゥーッ……。

 ここで俺の腹が鳴った。


「そういや腹減ったな。ミルコもそうか?」

「そっすね……」


 ミルコは俺と同じく腹を押さえている。


 するとセシルの口から嬉しい言葉が飛び出した。


「カイト、ターニャにコンロとかの使い方教わって色んな料理を試してみたんだけど、良かったらミルコ君も一緒にどう?」


 ミルコは許可を得るように俺を振り向く。


「食ってけよ、若けーんだし」

「はい、いただきます!」



 ……という訳でターニャも呼んで、俺達4人は遅めの昼飯にありついた。


 セシルはステーキをメインにサラダ、そしてスープと、この世界でよく見かける定番料理を作ってくれた。


 うめえ!……もう最高としか言いようがない!


 俺やターニャ、そしてミルコはセシルの料理を貪るように食っていた。


 そのとき、セシルが聞いてきた。


「そういえば、この前カイトが言ってた『魔法』について知りたいんだけど……」


 俺はセシルに(ついでにミルコにも)あの木やドゥカテーという異世界の事を全て話した。




「……ホント……なんだよね?」

「気持ちは分かるが全て事実だ」


 俺は真剣な顔をして答えた。

 そして話を聞いていたミルコがそれについて言及してきた。


「いやーでもなんか、バイクのカブ君が意思を持って喋ってる時点で……魔法の存在も無くはないなーと思いましたよ俺は、でも――」


 ん?


「俺、そういう魔法とかに興味が無いんですよねー、カブ君みたいな機械の方に惹かれるんで……」


 ミルコはそういうタイプだろうな。

 そして異世界には行きたくないという意思表示でもある気がした。


「うん、お前は魔法よりとにかくカブに乗れるようになってくれ。自転車は貸すから」


 ミルコの顔が明るくなる。


「分かりましたー!頑張りまーす」



 あらかた食事を終え、台所で皿洗いをしていると。ターニャが、


「……おじ、ケイに会いに行きたい!」


 とつぶやいた。

 それと同時に、俺は土魔法を使うケイの姿が頭に浮かんだ。


 そう、あいつに大量の芋と引き換えに会社の事務所を建ててもらったんだ……。

 の交換なんて一見するととんでもなく不平等な取引だ。

 しかしケイにとっては10秒ほど土の魔法を使うだけだったので、俺にとってもケイにとっても納得のいく取引だったのかもな……と考えた。


「よし、じゃあケイに会いに行くか!改めて家のお礼もしたいしな」


「ういーー!!やったー」


 大喜びのターニャ。しかしセシルは冷静に聞いてくる。


「ねえカイト。さっきの話じゃその木が光ってないとダメなんでしょ?」

「ああそれな、実はカブにあの木を観察してもらって分かったんだ。あれは1日に数十回ぐらいの割合で定期的に光るんだ」


「……へー」


「少なくとも1時間に1回は確実に光る。だから俺達は出発の準備だけして待機する。そんで木が光るまでカブに見張っててもらう。この方法なら確実に次の発光であっちに行くことが出来るんだ」


「へ、へー……でもカイト、怖くないの?その……そっちの世界ってモンスターとかがいるんでしょ??」

「ああ、大丈夫大丈夫!ははははっ」


 モンスターなら俺達が帰ってくる時に毎回破壊しているからな。


 俺が異世界に感じている不満……それはただ一つ。「飯がマズい!」という事だけだ。

 それを除けば俺はカブと一緒にあの世界で無双できるのが最高に気持ち良いのだ!


「あー、俺もまたあっち行きたくなってきたぜ」


 しかしやはりセシルは心配そうな表情を浮かべている。俺はそんなセシルの背中をポンと叩いて安心させようとした。


「心配すんな、あっちの世界じゃ俺は死なん。死ぬならこっちの世界だ」

「いやどっちもダメでしょ!!」


 俺もターニャもミルコも皆笑っていた。セシルはなんともいえないような表情だった。こういうセシルもなんかいいな……。



 ――俺達4人は食器を洗い終え、再び外に出た。


 広めの庭にはカブが木の方向に停めてあり、それと並べてターニャ用とセシル用の自転車があった。


「あ、皆さんおかえりなさーい!さあさあミルコさん、自転車に乗れるよう頑張りましょー自転車にー!」



 コイツは相変わらずだな。俺は笑った。



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