第119話 人間関係


 ――ドゥルルルーン


 俺達はまたバダガリ農園に向けて山道を走っている。


 後ろの荷車では、座ったミルコが段ボール箱を興味深そうに眺めている姿が見える。


「ミルコ、一応周りの景色を見て記憶しといてくれ。まあほぼ一本道だけどな」

「あ、す、すいません!つい段ボールに夢中になってました……」


 俺は運転しながらミルコにとある事を聞いてみた。


「なあミルコ」

「はい、何すか?」


「俺は経験ないんだけどよ、盗賊とかに襲われることってあったりする?」


「ほぼ無いと思いますよ。少なくともこのスズッキーニではね……」


 なるほど、やっぱりこの国は比較的平和らしいな。


「でも他所の国、……例えばゼファールとかだと普通に襲われたりするみたいっす。いやー怖いっすねー!」


 俺はちょっと考えてミルコにゼファールに行ったことを話した。



「え……!?カイトさん。そ、そんな貿易みたいな仕事してたんすか!?すっげー!!」

「ま、まあな」


 ミルコの大げさな称賛に俺はちょっと照れつつも誇らしくなった。


「あそこは確かに緊張感がハンパなかったな。俺もターニャもカブも全員無事に帰れたのは運が良かっただけかもな。……と思ってよ、今度を買いに行くんだ」


「剣、……といえばカターナっすよ。俺もめっちゃ行きたいっす!」

「一緒に行くか?」

「も、もちろん行くに決まってますよ!!」


 ミルコはちょっと慌てて同行の意を示した。それにしてもコイツ、俺と趣味よく合うなー。


「よっしゃー。また行くときは言うわ」

「はい!是非」

「なんか楽しそうですねカイトさん!」

 最後にカブが感想を述べた。


 まあ趣味の合うモン同士だとこんな風になるわな。

 それにしてもいい感じの仕事仲間が出来て良かった。日本に帰ったら絶対カブとセロー買って帰るぞ!



 ――さて、またしばらく走ると広大なバダガリ農園が見えてきた。そういえばイヴとバダガリはどうなってるかな?


「お。ここですかー!バダガリ農園、やっぱりとんでもなく広いっすねー」


 俺はカブを停めて、ミルコを野菜置き場まで案内した。


「おうミルコ、ここだ。ここの物置小屋みたいな所にいつも注文された野菜が置いてあるんだ。こんな風に」


「……おお、ホントだ!じゃあ早速あの段ボールに詰めて荷車に乗せていきます!」


「動きが早えーな!詰める順は分かるか?」


 ミルコはちょっと考えて、

「まあ南瓜かぼちゃとか硬い芋類から荷車に積むのがいいでしょうね」


 さすがだ、分かってるなー。

 俺はもう何も言わずとも上手くやってくれるミルコに安心感を持つのだった。



「あ、カイトさん!?」



 そこにひょっこり顔を出したのは、あのイヴだった!


 相変わらずの美少女っぷりでドキッとしちまうな。

 おっと、ミルコのこと紹介し――。


「どうも!初めまして。ミルコといいます。カイトさんの会社で雇ってもらう事になりました。そのうち定期便でここにも来る事になると思うのでよろしくお願いします!」


 俺がわざわざ紹介するまでもなく、ミルコは爽やかな笑顔でイヴに話しかけた。

 相手がイヴみたいな可愛い女子でも全く動じないな。もっとドギマギしてくれ方がおもしれーのに……。

 俺はそんなワガママな感想を胸に抱いた。


 イヴの方はミルコの事をしばらく無表情で眺めたあと、笑顔でミルコに返した。


「こちらこそよろしくお願いしますね。へえー、新人さんが入ったんだぁ……カイトさんの会社も大きくなってるんですね!でも私、もっとカイトさんに会いたいです」


「あ、ああ。まだまだ俺はここ来るぞ」


 そう言うとイヴの顔がパァッと明るくなった。


「よかったー!」


 そう言って俺に抱きついてくる。


 俺は密着したイヴのいい感じの大きさの胸に興奮しつつも、バダガリに見られたら気まずじゃねーか!……と思うのだった。


「あ、そういえばイヴ。その後バダガリとはどうだ?」


「彼とは上手くやれてます!カイトさんに言われた通り、あの人がおかしな事したら軽く叩いてます!」


 イヴはニッと笑った。それは今まで見せた事のないような表情だった。

 何となく前より逞しくなったような気がするなー。と俺は少し安心するのだった。



「うおおおおお!」


 ――ザザザーッ!!


「あ、バダガリだ」


 どこか遠くから聞こえてくるあの雄叫び一発で分かった。



 そのバダガリは物置小屋の入口より背が高いため、頭を横に曲げて小屋の外からこちらを覗いている。いや……不気味なんだが?


「もう!カイトさんと新人さんが見えてるのよ。早く挨拶して!」


 熟年夫婦のようにイヴに服を引っ張られて中に入ってくるバダガリ。


 ミルコは目を輝かせ、早速挨拶した。


「こんにちは!スーパーカブに新しく入社したミルコと言います。よろしくお願いします。バダガリさん!!」


「うおっ?お、……おお!お前っ、新入りか!?……って事はカイトさんの部下だな!おうっ、よろしくなミルコ!!」


 バダガリはミルコに手を伸ばし、ミルコもそれに応えガッシリと握手した。

 バダガリの手はミルコの手が子供に見えるほどにバカでかい……。


「こちらこそよろしくお願いします。バダガリさんの事は噂でも聞いてました!大農場を規格外のやり方で経営していると……」


 俺は横から冗談めいた言葉でからかうように付け加えた。


「規格外というか頭おかしい奴って認識だったよなぁミルコ?」


「えっ!?……いやっ、その……はは」


「オイオイひでーな!それじゃ俺がただの狂った奴みてーじゃねーか!?」


「ふっ、褒め言葉だ、喜んどけ。それより俺はお前がイヴと上手くいってそうで良かったわ」


「いやー、俺も女が苦手だったのが嘘みたいにイヴにはベッタリ出来るようになったんだよ。カイトさんのおかげだ。ありがとう!」


 バダガリはイヴの肩を持って引き寄せた。

 イヴもバダガリの大きな胴に手を回して幸せそうに微笑んでいる。


「ほんじゃ、俺達は農作業に戻るわ。また宜しく頼むな、カイトさん。……とミルコ」

「カイトさん、ミルコさん。また会いましょうね!」


 その時、俺は定期便の量の変更の事を思い出した。


「あ!肝心な事を言い忘れてた。今度から野菜の量を2倍用意しててくれ。それと今まで3日に1回だったのが6日に1回になる予定だ」


「えー、……マジかよ!?寂しくなるなー。もっと来てくれても良いんだぜ?」


 バダガリとイヴはこちらを振り向き、残念そうな顔を浮かべていた。


「まあ、商売の都合ってやつよ。仕方ねえさ」


「バダガリさん、イヴさん。近いうちにまた来ます!」


 ミルコが最後に別れの挨拶をして、バダガリはイヴを腕に乗せて畑の方へ走って行った。


「いやー、なんか話に聞く以上に豪快な人でしたね、カイトさん」


「ああ、バダガリもそうだが俺はイヴの明るい顔が見れて良かったよ……」


 それは間違いなく俺の本心だった。

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