第103話 使えるぞ、異世界の力!


 ……そういうこと事か。


 俺はカブに目をやった。


「俺達のもらった力ってのは多分向こうの世界でしか発揮できねえんだ。カブよ、ちょっとエンジンかけてみ」


「はい!」


 ――キュルキュル、ドゥルルン!!


 トゥルルルル……。


「ふんっ!……ふんっ!!……」


 なんかカブが踏ん張っているが、やっぱりあの世界のアイドリング音とは似ても似つかない。

 いつものカブらしい静かな音だ。


「いやー、あのときのとんでもないパワーは出せませんね。やっぱり……」


 カブはちょっと残念そうにつぶやいた。


「まあ別にモンスターもいないこっちの世界であんな強さは――ん?」


 俺はそう言いながらその木を眺めていたら、ちょっと高いところに「実」のようなものが成っていた。

 ちょっと見に行ってみようと思った俺は、木に登ってその実を間近で見た。

 すると、それはライチぐらいの大きさの実で、なんか光を放っていた。おおっ。


 よっ、ザザッ。俺はその実を採って木から降りた。


「これ、見てみろ。この木の実だ」


 俺は実を掌の上にのせ、ターニャとカブにみせた。


「おおっ!なんか光ってるー!?」

「何でしょうこれ?光る果実なんてあるんですねー!」


 ターニャもカブも不思議そうにその実を眺めている。

 ここで俺はふと思った。


「これ食えるかな?」


 その言葉にまずカブが驚いていた。


「ど、どうしたんですかカイトさん!?いつもならこういうの、絶対警戒しますよね?性格的に……」


 そうなんだ、石橋を叩くハズの俺なんだが……この実に関しては自分の方から興味というか、関心というか、食ってみたい衝動に駆られるのだった。


 匂いを嗅いでみると、ちょっとだけ甘い!ここで俺の木の実を食したい衝動は一気にヒートアップする!


 パクリ……。


 !?口に入れて一噛みする……。お!これは……。


「カイトさん……あの……言いにくいんですが青白く光ってるそれ、放射性物質とかじゃないですよね!?」

 カブがボソッと怖いことを口走っていたが食う前に言え。



 味は正直よくわからなかった、噛んだ瞬間、その実は細かく砕け散りそのまま消滅してしまったように感じる。


 そして俺の体に変化が現れた!


 体全体にほとばしるようなオーラが出て、全身に力がみなぎる!こ、これはあのときの……。


 カブもターニャも口をポッカリと開けて俺を眺めている。


「おじが光ってるー!!すごいー!」


 エネルギーが有り余った状態の俺は、その場でジャンプしてみた。


 ――ダンッ!すると――。



「うおおおおおお!!」



 俺は50メートルほど真上に跳ね上がり、今まで横からしか見えていなかった自宅の屋根や、山の辺りの地形を見回すことが出来た!

 うおおお、これは凄い!!

 同時にあの実の正体も分かった気がした。


 俺は地面にスタッと着地すると、さっき割れなかった岩に適当に正拳突きをかました。


 ――バコッ!!


 予想通り岩は砕け散った。……やっぱりだ。俺はニヤリとしてカブ達を振り返った。


「分かったぜ。この実、食ったら多分あっちの力を再現できるんだ!」


「おおおおーー!おじ、すごいー。ターニャも食べたい!」

「凄いですね。僕も食べてみたいですけど口がありません!」


 カブとターニャは思い思いの感想を口にしている。


 ちょっと木の実を取ってこようと、俺は巨木を登った。

 登ったと言ってもジャンプして枝に飛び乗ったと言ったほうが正確だな。


「あった。これだ!……他には……お、ここにもあった!」


 俺は一通り目についた実を採っていき、高さ20メートルはある木の枝から飛び降りた。


 ザンッ!


「ほら、これだけ採れた。全部で6個だな」


 ターニャは大喜びで俺に駆け寄ってきた。


「すごいすごい。一つちょうだい!」

「おう、……でも俺さっき食ったけど、なんていうか食いもんじゃねー気がするぞターニャ?」

「ほんとー?とりあえず食べるー!」


 俺が実を渡すとターニャは1秒で口に入れた。早ええな。


 口をモゴモゴと動かしながら斜め上を見上げて微妙な表情を浮かべるターニャ。やはり食い物としては評価されにくいようだ。


「むっ……!」


 突如目を見開いたターニャは、何かを感じたような顔をしてしばらく固まった。そしてターニャの体は、さっきの俺と同じようなオーラのような光に包まれた!

 そして何を考えているのか不明だが、ターニャは手を前にかかげるポーズを取った。そして叫ぶ!



「やーーーーっ!」



 きん◯くんか!?


 するとターニャの両手から焚き火のような炎がゆらっと出てきた!!うおっ、す、凄え!!


 あ、これ……これがもしかして魔法なのか!?

 そうか、俺やカブと同じようにターニャもをもらったんだな。でも今までの人生経験値が少ないから結構地味な魔法になってるわけだ。なるほどなぁ。


 炎を出したターニャが喜びに震えるような顔でこっちを見ている。


「あはっ!……」


 なんかすっげー嬉しそうだな。


「おじ、火がでた!!まほー使えた!!」

「……お、おお。ターニャ凄いな!立派な魔法使いじゃねーか!?」

「えへへー」


 ターニャが集中力を切らせたのか、手から出ていた炎が消えてしまった。

 もう1回ターニャは手を前に出して叫んだ。


「ういやーーーーっ!」


 相変わらず不思議な掛け声だ。もっとこう、呪文みたいな……まあいいや。

 今度もまた炎が出たのだがさっきよりちょっと大きめの炎だった。へえ、これはガチで凄い……。


「いいなあ、カイトさんやターニャちゃんが羨ましいです……」


 カブがちょっとしょぼくれているようだ。


「まああんまり気にすんな。お前はあっちの世界に行った時に活躍してくれればいい」



 ――と、俺はここで自分の身体の状態を確認したら、先ほどから出ていたオーラのような光が消えていた。ジャンプすると、3~40センチぐらいしか飛べなかった。


「あー、なるほど。この実を食ってあっちの世界の力を使えるのは3~4分だけってことだ……なるほど!分かったぜ」


 ターニャは火の魔法を一旦消して、

「あー、ケイにこれ見せたかったー!くやしー」

 と残念がっていた。


 そういえば俺に会ってから初めて同年代ぐらいの子供と出会ったもんな。そら一緒に遊びたくなるわな。


 俺はターニャに優しく話した。


「ターニャ、次にまた木が光ったら芋もってケイに会いに行くか!」


「……うん」



 ターニャはちょっと残念そうにしながらも笑顔を覗かせていた。

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