第102話 転移は難しい?


 世界樹の前で俺達の帰還を阻むゴーレムを一撃で破壊できた俺達は充実感で満たされていた。


「せっかく死亡フラグみてーなセリフまで言ってやったのに弱いモンスターだったな。王城の奴らも色々と甘いぜ」


「僕らが強すぎるのかも知れませんね!ちなみに私の総走行距離は5万3000キロです。もちろん本気で戦うつもりはありません!」


「おい!桁が一つ違うだろ。……またネットで漫画の知識を得たようだな」


「僕は好奇心旺盛ですからねー!はっはっはっ」


 などと語り合っていると、そこへターニャが笑顔で突撃してきた。


「おじ、カブ!やったー!これで帰れる?」


「おうっ。この光る穴に入れば行けるはずだ」


 その世界樹の縦長の穴を見ると、やはり家にあった木の穴と同じような形の裂け目、そしてそのなかで輝く青白い光を確認できた。


「行こう行こう!」


 ターニャがその光の穴を指さす。


「よし、いったんこのよく分からん世界におさらばだ!」


 俺は手本を示すかのように穴に飛び込んだ。



 ……。


 …………。


「……ん、?」


 再び俺の意識が回復すると、そこはいつもの見慣れた我が家だった。


「よっしゃー!戻ってきたぞ、ふぅーっ!」


 俺は文字通り実家のような安心感に包まれていた。


 周りを見渡すとカブがいて、ターニャも横に寝転んでいた。

 どうやら穴をくぐると少しの間意識を失うようだな。


「おい、カブ?」


 カブに関しては意識というものがあるのかどうかもよく分からんが……一応聞いてみよう。


 すると、俺の呼びかけに応えるように真っ黒なタブレットはゆっくりと白い光を発して、いつもの顔が出てきた。


「あ、カ、カイトさん……!?」


「おう、起きたか。……いや、起きたってのも変な話だな。お前、世界樹に飛び込んでから今までの記憶あるか?」


 カブは悩ましげな表情をしていた。


「いやー実は僕、眠る事もないので意識がなくなる事ってほぼ無いハズなんですけど……今回に限っては一瞬電源が切れたようになってました!」


 カブでもそうなのか。まあ異世界だしな。


「おーいターニャ。大丈夫かー?」


 次に俺は横で寝ている(というか意識を失っている)ターニャを揺り動かした。


「んぉ!?……あ!」


 ターニャは周りを見回して笑顔が弾けた。


「家があるー!かえってきたー!」


「そうだぞ!」


 するとターニャは家の玄関目掛けて猛ダッシュしていった。はやい……。


 しばらくその行方を追っていたが、アイツが何をしたいかはすぐに分かった。芋だ。


 しばらくすると、ターニャは焼き芋の時に使った芋を2〜3個手に持って張り切って走ってきた。


「おじ、カブ!ケイと一緒にこれたべよー!」


 正直俺はあまり気乗りしなかった、こっちでゆっくりしてぇーなー……。と思ってたけど、ま、ターニャが嬉しそうだからいいか。


 ターニャが待ちきれないといった様子で木の穴に向かって走っていく、俺達も行くか、とカブと顔を合わせたところ、意外な事が起きた。


「ういーーっ!」


 ――ガンッ!!


 なんと穴に飛び込んだターニャは異世界には行かず、そのまま木にぶつかった。


「!?……」


 持っていた芋は散らばり、何が起きたのか分からないといった様子でターニャは強打した頭を抱えている。


「だ、大丈夫かターニャ!?」

 俺はターニャの頭を撫でてやった。


「う、うぎぎぃ……いたいー……」


 ターニャはちょっと涙目になっていたが、なんとか泣かずにこらえていた。


「あー……もしかして……」


 カブが何やら言いにくそうな表情をしていた。なんだ?


「僕も精霊だから分かるんですけど、異世界に転移させるのってすごくエネルギーを使うんですよ。だから僕もカイトさん達をなかなか日本へ転送させられないんです!丸々一月ぐらい充電期間が必要なので!」


 確かにカブの言う通り最初に俺達が転移した時は木の穴が光っていたが、今はその光はなくただの巨木でしかない。


 俺は残念そうな顔を作ってターニャに説明した。


「ターニャ、どうやらこの木が光ってる時でないとあっちに行けないみたいだな。残念だが……」


 それを聞いたターニャは口をポッカリとあけ、しばらく固まった後独り言のようにつぶやいた。


「……いけない、むこういけない。芋、……ケイと芋……たべる……」


 徐々にあっちの世界に行くことが出来ないと理解してきたターニャは、その顔を徐々に歪ませていった。


 あ、やべっ……。


「ケイ、……ケイにあえない……あっ、あえなっ、ああっ……ぅぅうあああああああーーん」


 予想通り泣き出した。


 俺は芋を拾い、一旦ターニャを抱きかかえて家まで歩いていく。


「おー、よしよし寂しいなー。うん。でも心配すんな。またすぐ会えるようになるって!」


 ターニャは俺の適当な言い方に怒ったように聞いてきた。もちろん泣きながらだ。


「いつーーーー!?」


「ん、んーとな。い、1ヶ月ぐらいしたら……」


「やだぁーーーー!今あいたいー、うわあああん」


 や、やべえ制御不能だ!


 ターニャは俺に抱えられたまま手足をバタつかせた!うおおっ、なんだ、降りたいのか?


 しゃーねえなぁ……。という感じで俺がターニャを降ろしてやると、ターニャは俺から芋を奪い取り一目散に木の根元まで駆け出して行った。


 そして芋を持ったまま木の前に立ち、穴を凝視している。なんというか……いじらしいな。


 俺はカブと一緒に木の根本に戻り、ターニャの後から一緒になって木を眺めた。

 まあそのうち飽きるだろ……。



 数分後……。


 ターニャは何か失望したような顔をしていた。


「おじー。この木はダメな木!やる気がない!!」

「お、おおう。昔の体育教師みたいな事をいう奴だ……まあ俺達だって、頑張るぞ!って時とそうじゃねえ時があるだろ?」

「……うん」

「だから……、しばらく時間を開けたらまた光り出すんじゃねーかな?」

「……うーん。でもいつー?」


 それは分かんねーな。もうちょっと木、見とくか?


「そうするー」


 ターニャはいつの間にか泣き止んで、いつもの笑顔を覗かせた。ふー、やれやれ。


 その時、カブが気になる事を言った。


「カイトさん、今も僕らって強いままなんですかね?」

「お、そういえば……」


 俺は近くにあった岩に、さっきと同じノリでチョップをかました。


 ドガッ!!


「ぎゃああああ!!痛ってええ!!」

「カ、カイトさん大丈夫ですか!?」


 も、元に戻ってるじゃねーか!


 俺はその時、あの王様の言っていた事を思いだした。



 ――『転移者の過去の行いが、『力』となるのだ!』

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