第101話 またな


「の、のらせて……!」


 ケイは好奇心に溢れた目を俺に向けてくる。


「ケイ、ここ!ここのる!」


 ターニャがカブのベトナムキャリアをパンパン叩いてケイを呼んでいる。


「ふー……。ケイ、乗るか?」


 俺はターニャが楽しそうにしていたので、とりあえずケイを乗せてやる事にした。


「こ、ここに座るの?」

 恐る恐るケイは右足を上げてキャリアを跨ぎ、そのままちょこんと座った。

 ケイは緊張しているのか、口を開けっぱなしにして周りをキョロキョロと見回している。



 ――ズギャギャギャッ、ドゥガルルルルルウゥゥゥン!!


 スタータースイッチを押すと、馬鹿でかいエンジン音が響き渡った。


「ひぃっ!……」

 肩をビクッとさせ真っ青な表情のケイ。


「やっぱでけえ音だな!カブ、パワー落とせねぇか!?」

「や、やってみます!」


 ガルルウゥゥゥゥ……。


 ……ドゥルン、ドゥルルルル……。お!


「おお、いつもの音に戻ったんじゃねーか?」

「カイトさん、この世界、自分でパワーを調節出来るみたいです!いやー凄いですよ!」

「マ、マジか!?もはや排気量関係ねえな……」


「わ、わわわ、なになにこれ何!?魔法?こ……、ここ、小刻みに、揺れてるんだけどー!?」


 ベトナムキャリアの上で慌てるケイに、ターニャが横から口を挟んだ。


「まほうじゃないよー。カブだよー」


 ふふ、ケイの奴いい感じにビビってやがるな。いくぜ!

 俺はアクセルを捻った。



 ――ドゥルルルルーン!


 俺とケイを乗せたカブが、この田舎の細い道を走ってゆく。しかし――。



「ぎゃあああああーー!」


 カブが走り出すとケイは手足をバタバタさせ、後ろの俺に助けを求めるように上半身をひねったりして、とにかく暴れまくった!うげっ、予想外だ。


「こ、こらっ!暴れるな」


 ケイは必死の形相で目を見開き歯を食いしばって怖がっている。そ、そんなに怖がるか?


「ぎゃああああ死ぬー!怖い怖いおろしてーー!!ひぎゃああああ!!」


 ……とりあえず俺はカブを止めた。



「はあ……はあっ……はあっ……」


 ケイはカブから降りて四つん這いになって肩を震わせている。いやいや、大げさだな。


「そんなに怖えか?お前さんより小さいターニャでも余裕で乗ってるぞ?」


 俺がちょっと発破をかけるような事を言うと、ケイは歯を食いしばり悔しそうな顔をした。


「ぐぎぎ……ターニャ……?あ、あんた、これ普通に乗れるのっ!?」


「うん!楽しいよー」


 屈託のない笑顔で答えるターニャに対してやはり悔しそうな表情を浮かべるケイ。

 ……ってかコイツ何者だ?いや、それよりも。


「ようし、ケイよ。約束通りについて知ってることを聞かせてくれ」


 俺がそう言うと、ケイは頬をプクーっと膨らませた後、ため息を吐いて煽りのような発言を繰り出した。


「ハァー……、しょーがないなぁ。教えてあげるよー」


 うぐぐぐっ。悪気はないんだろうがこのガキ腹立つぜー!!



「転移者はあそこの世界樹から出てきたんだって。だからあそこから戻れるんじゃないの?」



 そのケイの小さな指が示す方向には、何やら1本の巨大な木が立っていた。興奮してて今まで気づかなかった!


「うおお、本当だ!ありがとうよケイ。これで帰れるかもしれん」

「カイトさん、とりあえずすぐ行ってみましょう!」

「えー、もう帰るのー!?」


 ターニャだけが帰るのをためらっていた。なんでだ??


「タ、ターニャ。お前、帰りたくないのか!?」

「うん!もっとケイと遊びたいー!」


 困ったな……、俺はスズッキーニの事で頭がいっぱいだった。


 明日はバダガリ農園に行ってイヴ達に会いに行く予定だし、カターナには行ってみたいし、セシルも家に呼びたいし、家も建てたいし、何より貿易輸送の報酬を貰いたい……、このまま帰れなかったら困る事が多すぎる!


 とにかく一旦あっちに戻れるって事を確認して安心してえな。


 俺はターニャを説得しようとしたが、その顔があまりにも残念そうだったのでどうしたもんかと悩むのだった。


「ちなみに世界樹の根元には国王の飼ってる強いモンスターが見張ってて転移者が帰れないようにしてるんだって。頑張ってねー」


 ケイはニヤニヤとまるで楽しむかのように俺達に超重要な事を告げた。オイオイなんだそりゃ!?モンスター??


「ケイ、まほーおしえてー!まほー!!」

「ターニャ。あんた天才のこの私に魔法教えて貰えると思ってる?」

「えー、だめなのー?」

「お菓子くれたらいいよ」


 俺はちょっと吹き出した。子供かよ……子供だったわ。


 ここで俺はちょっと考えてケイとターニャにこう言った。


「なあ、ケイ。実は俺達のいた世界にはスッゲー美味いお菓子があるんだ」


「ほうほう……!」

 ケイはそれを聞くと興味津々といった感じで食いついてきた。

 お前もターニャみたいだな……。


「だからターニャ、一旦家に帰って持ってこよう。んでケイと一緒に食ってそんで魔法も教えてもらおう。それから家に帰る。それでいいか?」


 ターニャはもちろん大喜びした。


「うん!芋、芋たべよー。ケイも一緒に!」


 すると、ケイは不満そうな顔をする。


「えー。芋!?芋ってお菓子じゃないでしょー?私が欲しいのはもっとこう……甘〜い食べ物なの!」


 一通りケイは自身の希望を伝えると、何やら腰に巻いたポーチらしきものをあさり、中から黒っぽい何かを取り出した。


「芋ってコレでしょー?非常食として仕方なーく持ってるけど全然甘くも美味しくもないしー」


 ターニャは今にも食いつきそうな顔でその芋をマジマジと見ている。


 ここで俺はちょっと気になったので聞いてみた。


「……てかお前ここで何してたんだ?家は?親は?」


 するとケイは腰に手を当て得意げな顔で答えた。


「ふふーん、今日はここで魔法の修行してたの。努力する天才、それが私ー。ふふーん」


 そして今度は俺の割った岩の破片を見てつぶやく。


「この岩、本当は私が魔法で割ろうとしてたのに……おじさん力強いね」


 ……ほう。


「ケイよ。相手の強さを素直に認める……そこはお前の素晴らしい所だと思うぞ!うん」


 するとケイはちょっとデレっとしながら「そ、そう?……うふふっ」と笑った。

 

 単純な奴だ、と思うと同時にその顔はターニャの笑顔とそっくりで、その時俺は初めてコイツに子供らしさを感じた。



「カイトさん、じゃあ早いとこ世界樹の根元まで行きましょう!」


「おう、俺達の強さならどんなモンスターだろうと一発だせ!」


「ケイ、じゃあな。また来るわ!」


「おいしい芋持ってくるねー!」

 とターニャ。


「ま、まあ気が向いたらいつでも来れば?私、近くの村に住んでるから……」


 腕を組みながら少しもの寂しそうな表情でケイは答える。




 ――数分後、俺とカブはどでかい世界樹の下にいるゴーレムみたいな奴を見つけた!

 行くぜー!!



 ドグォォオオン!バゴォッ!!



 俺達は王城の時のようにカブのウイリーアタック一撃でこれを粉砕する!


「ヒャッハー。やったぜーー!」

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