第100話 ケイ


 先程の占い師の女が驚愕の表情で近寄ってくる。


「あ、あなた方に与えられた力は『身体強化』です……そ、それも普通じゃないぐらいに強力な……」


 それを聞いて俺は即座に逃亡を試みる。


「よし、オッケー。カブ、逃げるぞ!」

「了解です!」


 俺はアクセルを軽ーく捻った……。



 ――ドゴゥルルルル!!


 それはまるで超大排気量のバイクのような音だった。


 周りの兵士達は皆、カブとそれに乗った俺に槍を向けている!

 しかし、俺は全く動揺していなかった。


 なぜならあの王様や女の言っていた通り、とんでもない力が身についている実感があったからだ!


「やべぇ……今の俺達、多分めちゃくちゃ強くなってるぞ!?」


 カブも言った。


「はい、僕も見た目こそ変わりませんが、排気量、剛性、重量、車体密度……恐らく全てにおいてパワーアップしています!」


「あいつら蹴散らせるか?」


 カブはそれまで見たこともないような凛々しい顔を見せる。


「ふっ、カイトさん。ターニャちゃんを守ってて下さい!」



 ――ドゴアァァァアアアン!!ガクン!


 簡単に前輪が浮き上がった!


 カブは普通の110ccでは難しいウイリーを簡単にやってのけ、そのまま槍を構えた兵士達に向かって突っ込んでいく!


 俺はベトナムキャリアに座ったターニャをしっかりで守る!


「うおおおおおおお!!」


「ぎゃああああああああ!?」


 ――ドゥルウウウンンン。ドガガガガガガッ!!



 カブはウイリーの状態でエンジンやら駆動系の金属部分といった車体下部を盾のようにして使い、兵士たちの包囲網の突破を図る!

 そして兵士達の武器を破壊したり吹っ飛ばしたりして、あっという間に警備を突破していった!


「ヒャッホーーウ!逃げ出せたぜー!!」

「凄いですよ僕ら!本当にめちゃくちゃ頑丈になってます!」

「エンジンとか無事か!?」

「はい!あれだけの槍の中を突っ切ったのにエンジンはもちろん、プラスチックのレッグシールドでさえまるで無傷です!」


 ふと足元のターニャを見ると、ターニャは俺の方を向いて目を輝かせていた。


「おじ、カブ、すごーい!」

「ふははははっ!そうだろターニャ!?」



 ……という訳で、一旦俺達はこのお城のような所からまあまあ離れた所まで逃げ出した。

 そしてこの妙な世界の事はひとまず置いておいて、自分がどんな力を得たのか確認することにした。

 ぶっちゃけ異世界に飛ばされて困惑するのは今回2度目だ。ちょっと慣れたってのもある。



 さて、ここで俺は辺りを見回し、この世界と今までいたスズッキーニやゼファールを比べてみた。……文明は前いた世界よりも発展していないようだな。

 そしてここがたまたまなのか、城の外はずいぶんと田舎の町……というより村のように見える。


 ここはなんというか、独特の文明を築いているようだ。


 俺はそんな田舎の村に、一つのデカい岩が鎮座しているのを見つけた。


「よし、……ベタだが自分の力を見るにはちょうどいい」



 ――ドゥルルン、キキッ。


 俺はカブを止め、岩に向かってチョップを繰り出した!


 バゴッ!……おおっ。か、簡単に割れてしまった。真っ二つだ!!



「うわー……凄い!」



「はっはっは、どうだターニャ……ん?」


 今の声……ターニャとちょっと違ったような?


 ターニャを見ると、とある方向を向いている。俺もその視線を辿ると、そこにはターニャよりちょっと背の高い女の子が立っていた!

 うおお、びっくりしたー……。


 その子はまるで魔法使いのような服を着て、ステッキのような木の棒を持っていた。

 歳はターニャよりやや上ぐらいか。


 ターニャとその子はじっとお互いをしばらく見合って、やがてターニャが口を開く。


「まほー……つかい……??」


 すると、女の子はニッコリ笑顔になってこっちに走ってきた。


「そうだよ。あなた達は誰?どっから来たの?」


 俺は思った、ここは俺が出しゃばらずターニャと会話させとこう、と……。


「わたし、ターニャ。これがカイトおじ!……で、これがカブだよー」


 女の子は俺とターニャを交互に見比べ、俺にこう言ってきた。


「……おじさん達?」


 転移者という言葉に俺は反応した。


「おう、お嬢ちゃん。俺達はまさにその転移者ってやつよ。元の世界に帰れなくて困ってんだよなー。嬢ちゃん、元の世界に戻る方法知らないか?」


 俺はわざとらしく困ったように頭を掻く仕草をしながら少女に現状を伝えた。

 何か知ってるかもしれないしな。


 すると少女はちょっと上を向いて考える素振りをして、怪しげな含み笑いを浮かべた。


「んふふ、おしえてあげよっか?でもタダじゃダメー」


 俺はイラついた。コイツぁクソガキの予感がするぜ!


「なまえはー?」


 ターニャが少女に問いかける。そうだそうだ、名を名乗れ!


 少女はちょっとイタズラっぽい笑顔を浮かべて変なポーズを決めて言った。


「わたし、ケイ。魔法使いだよーん!」


 それを聞いたターニャがなんか大喜びした。


「おお!まほーつかい!?ケイ、まほーつかえる?ターニャにもおしえて!!」


 ターニャはケイに近寄り手を握って懇願している。


「えー、むりだよー。だって私天才だもーん!」

 ケイはガキの分際で腰に手を当て偉そうに仁王立ちしている。なんか腹立つぜ!


 俺はケイに近寄り、顔が同じ高さになるまで膝を畳んだ後、ケイの顔を横から両手で掴み正面からケイの目を見てなんとか無理やり笑顔を作った。


「……ケイよ。困ってる人を助けてあげるとな、良い事があると思うぞ?お前も困ったときは誰かに助けてもらうだろ?」


「カイトさん、僕らもお城の困ってる人から逃げてきたのでブーメランです!」


「うるせえカブ!お前も家に戻りてーだろ?」


 

その時、ケイが叫んだ。


「ええ!?な、なにこの……?なに?」


 カブが言葉を喋った事にケイは驚きを隠せない様子だ。軽く説明してやるか。


「コイツはスーパーカブってバイ……車だ。車のくせになんで言葉を喋るのかは俺にも分からん」


 ケイは首を傾げる。


「くるま……?なに、それ?」


 ターニャが横から入ってきた。


「がそりんで走るきかいだよー!」


「きかい?がそりん?……わ、分かんない……」


 ケイは不思議そうにカブを見ている。


「僕はHONDAの生み出したスーパービジネスバイク。スーパーカブです!燃費の良さが自慢です。よろしくねケイさん!」


 ますます訳がわからないという顔つきになるケイ。そりゃそうだろうな。


 ここで俺はケイに一つ提案してみた。


「なあケイ。コイツに乗せてやるから転移者が元の世界に帰る方法知ってたら教えてくれねーか?」


「え……」


 その時のケイの顔は好奇心に満ちていた。

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