第99話 何だよもおおぉ、またかよぉおお!


 ……。


 …………。


 ――それは単純な好奇心だったんだ。


 木の根元が光ってたから近づいたら……、気付いたら俺達はお城みてえな所に飛ばされていた。


「あ、多分これ夢だわ。そうに違いない!」


「カイトさん、残念ながら夢じゃないっぽいですよ……」


 隣を見るとカブがいた。タブレット内で眉を吊り上げ目をキョロキョロさせている。


 ――ハッ!アイツ……、ターニャは!?


 焦って周りを見渡すがターニャはいない……と思ったら、足元で俺の作業ズボンをしっかり掴んでいた。あーよかった。


「……おじ、ここどこ?」


「わ、分からん。ただ、この状況はやべえな。逃げられねーぞ……」



 そう、俺達は王城の、それも謁見の間みたいな所にいて、俺達の10メートル程前には玉座に座った王様みたいなのがいる。

 そして俺達の両サイドは武装した兵士が十数人程立っている……。

 これは下手に動けねえぞ、ってゆーか……。


 意味がわからん。


「ちょ、ちょっとすまねーが、ここはどこなんだ?俺達は今まで別の場所にいたんだが……」


 俺は雰囲気的に発言が許されるのかどうかも分からなかったが、とにかく聞かないと何も分かんねー……。


 するとここで占い師のような女が、玉座に座った王様みたいなおっさんに何やら耳打ちした。


 そして俺達に向かってこう告げた。


「おお、異国からの転移者達よ、ようこそ我が王国へ。そなたらに大いなる力を授けよう。その力であの憎き魔族共を打ち倒すのだ!」


 は?


 俺はやっぱり夢じゃねーか?と再び思った。そしてとりあえず元の家に帰りたい気持ちでいっぱいだった。


「ちょ、ちょっと待ってくれ!俺達はアレだ、ただの迷子なんだ。その、……力が欲しいとか、……魔物退治?がしたいとか、そういうのは一切ない!ただ家に帰りてえだけなんだ!頼む、帰り方を教えてくれ!!」


 俺が必死に頼むと、王は少し眉をひそめてこう言った。


「残念な話をしよう。そなたらに拒否権はない!」


 俺は苦渋に満ちた顔でカブを見た、コイツも似たような顔をして俺を見ていた。

 だだターニャだけは辺りをキョロキョロと見回していた。


「カイトさん、これ多分もう従うしかないですよ!だって逃げられませんもん……」


 気付くと周りの兵士達は皆、槍を構えてこちらに向けている。


「くっそ……!仕方ねえ、殺されちゃあ終わりだ!くっ……」

「おじ、おなかへった!」

「……おまえホント食うの好きだな」


 俺はターニャにちょっと呆れつつも、これがここへ来て初めての笑顔だった事に気が付いた。


 俺は再びカブと小声で会話した。


「なんか、今の奴らの話ぶりだとなにかしらをくれるらしい。何のことかサッパリだが貰えるもんは貰っとこう。んで隙を見て逃げるぞ!」


「そ、それがいいと思います!」



 俺は一旦両手を上げた。


「わ、分かった。あんたらに従うぜ。ってかそれしかねえんだろ?」


 王様らしき人物はニヤリとした。


「物分かりが良いな。では、始めよう」



 ――ポワン……!


 その時、俺達の立っている地面に大きな光の円陣みたいなものが現れた!?


「え!?何だコレ!!?」

「ぼ、僕も初めて見ます!!こ、これ……もしかして噂に聞いた『魔法』ってやつじゃ?……」

「ま、魔法!?……そういや最初お前にあった時チラッと言ってたな」

「おおー!まほーすごいすごーい!!」


 ターニャは両手を上げ飛び跳ねて大興奮し、俺とカブは大混乱した。

 俺はもう意味分からなすぎて考える気も失せていた。



 しばらくその状態が続いたかと思ったら、占い師の女が、


「え、な、……なにこの数値……!?ありえない……」


 などとほざいている。あ、コレお前の魔法なのか?

 てゆーか何の魔法だ?魔法の種類も一切知らんけど……。



 するとここで王様らしき人物が語りかけてきた。


「ふふ……。今、何をしているか教えてやろう。これはそなたらの軌跡を見通す魔法。そなたら転移者の過去の行いが、この世界で通じる『力』となるのだ!」


「え!?何て?ちょっと意味がわからない」

「あ、あの、カイトさん!?タメ口はマズくないですか?多分あの人王様ですよ!?」

「あ、お、おう……王様!もう一度説明お願いします!」

「へえ!カイトさんて敬語使えたんですね!?」

「いやお前が言ったんだろ!」

「あはっあははっ!」


 俺達のやり取りを見ていたターニャが楽しそうな顔で笑っている。呑気な奴め!


 親切にも王は言い直してくれた。


「お前達の過去の行いが、手に入る力の大きさを左右するという事だ!」


 俺はカブに囁いた。


「……それってつまりゲームでいうところの経験値が多いほどよりレベルアップする――みたいな話か?」

「そ、そうじゃないですか?知らないですけど……」


 もう何でもいいや。とにかく力とやらを貰えるだけ貰って隙を見てトンズラしてやる!



「ええーー!?あ、……ありえないぃぃ……」


 女が何か驚いている。さっきから何だよ!?


「陛下。この転移者達……子供は除いてですが、がとんでもなく長いです!」


 え!?総移動距離……??そんなのまで俺の過去の行いなのか!?

 ……ってゆーかそれ、もしかして俺がカブに乗ってたからじゃ……!?



 王様はニヤつきながら何か言い始めた。


「ふふ、やはり私の予感に間違いはなかった……。そなたらは魔王を討ち滅ぼすためにこの世界に降臨されたのだ!」


 全然違う!そんな役はブラック企業とかで疲弊して人生嫌になった奴がやるもんだ!俺は心から帰りたいんだ!!

 ……と心の中で叫ぶ。



 コオオオオ――!


 円陣がさらに光を増し、俺達3人の体も光始めた!あ、これがその「力」か?

 なんかちょっと気持ちいいかも……。


「あ、あれ?……なんかパワーがみなぎってきたような気がしませんか、カイトさん?」


「お、おう。お前もか?なんつーか気持ち良くて頭がスッキリしてる!若返ったみたいだ!」


「ターニャもわかがえったー!」


 お前は元からだ。



 やがて白い光は消えていき、魔法陣のような地面の模様も消えた。


 俺はその瞬間確信する。


 ――これ、多分逃げられる――と。



 俺はターニャをベトナムキャリアに乗せて俺自身もカブに跨る。


 そしてカブのタブレットを覗くと、自信満々な表情のカブがそこにいる。

 俺は笑い、静かな動作で俺はスタータースイッチを押した。



 ――ドゥギャギャギャギャッ!ゴゥンゴゥンゴゥンゴゥン!!


 その排気音はもはやカブではなかった。

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