第98話 セシルの温もり


 俺はひとまずセシルを安心させた後、カターナという町について聞いてみた。


「ああ、カターナね。私も持ってるけどあそこのナイフは凄く切れる。いい剣もいっぱいあると思うよ」


「そうか、護身用に一つ良いのが欲しいんだよな、買いに行くってのもアリだな」


「うん、でも多分高いよ」


「やっぱり……?まあ、今回の貿易輸送の報酬が入ってからでいいか」

「そうだね、ちなみにカイトがこのヤマッハに着くのは明日だ。そして王室がニンジャーからの貿易品を王都ハヤブサールに運ぶのは明後日。報酬は明後日以降……という具合だね」


 俺は報酬という言葉を聞いて思わずニヤリとした。このために頑張ったんだ!


「金額はやっぱまだ分かんねーか?」

「うん。運んだ貿易品の状態を加味して報酬額も変わってくる……と思うし」


「なるほど。ま、カターナは報酬もらってから行ってみるかな」


「それが良いと思うよ。あ、ちなみにこの貿易輸送はあるんだ」


 セシルは笑顔で嬉しい事を話してくれた。


「え!?マ、マジか……って事は毎月貿易品を輸送するだけで食っていけるんじゃね!?……まあ、まだいくら貰えるのかも分からんけど」



 この時、俺は少し先のことを考えてみた。

 このまま貿易輸送の高額報酬が入るとすると、出来ることがかなり広がるのだ。


 まず社員を雇える。そうすれば定期便を社員に頼んで俺が別の作業をする……という事も可能になる。

 後半月ぐらいすればカブに一時的に日本に戻して貰えるからバイク2台で別々に配送ってのも出来るしな。

 もちろん社員候補はミルコが最有力だ。


 次にやってみたかったのが、の建設だ。

 会社がデカくなってくると誰かをうちの家に招待したりする事もあるかも知れない。

 そんな時、今のあの現代文明バリバリの家を見せるのは色々と都合が悪いから、ここの文明に合わせた家を建てて、そこを会社の事務所にする。

 コレは是非ともやっておきたい!


 他にも今言ってた護身用の剣やらも買えるし、警護の人間も雇える。

 ……ふふ、夢が広がるじゃねーか!!


「カイト、嬉しそうだね」

「そりゃあな。今金の使い道を考えてたんだ。あ、そうだ!」

「?」

 セシルは首を傾げた。


「お前、ウチの家に来ねーか?そんで一緒に住んでくれてもいい。同棲だよ同棲」


 俺がそこまで言うと、セシルは顔を手で抑えて、少し上を向いた。


「ごめん、嬉しすぎて……泣きそう」


 俺は笑った。


「はははっ。そんなんで泣くなや。ま、俺も嬉しいけどな!」


 俺はその時チラッとターニャを見ると、話が退屈だったのか、また目を閉じて寝てしまっていた。

 ふふ。よし……。


 ――ガタッ。


 俺は椅子から立ち上がりセシルの目を見て近づいていく。

 俺の欲求を感じ取ったのか、それに応じるようにセシルも立ってお互いに顔を近づけていく。自然とお互いの口先が繋がる……。

 そのままセシルの柔らかい唇の感触を感じ取っているうちに、口内から少しだけ伸びた舌の先端同士が触れ合う……。

 一瞬セシルの体がビクンと動く!


 俺の鼓動は早まっていく。


「……んっ……」


 やがて口内で触れ合っている部分は舌先から舌全体に広がり、小さな音を漏らして絡み合ってゆく。


「……はっ、あっ……ん……」

「ふっ……はぁっ……」


 気持ち良すぎておかしくなりそうだ。そして体は熱を帯び始める。


 ああ、愛おしい……。


 セシルの背中に腕を回すと、セシルも同様にしてお互い体を求め合うように密着した。


 今ここですぐにでも、やりてえ……!セシルも同じ気持ちだろう。

 俺が服の上からセシルの程よい大きさの胸に触れて軽ーくさすってやると、


「ぁっ……!」


 という甘い喘ぎと共にセシルは体をピクンとさせた。

 

 そのとき――!!


「あのー、セシルさん――!?あ、あわっひゃーー!!あ、後でいいですぅーー!」


 バタバタッ!


 それはセシルを呼びに来たイングリッドだった……。あー、いやまあ、俺達が悪いか……。


「はぁー……」


 ヘナヘナとその場にへたり込むセシル。俺も椅子に座り込んだ。


「つ、続きは今度ウチでやるか……セシル」

「ん……そう、だね……」


 ここでセシルは思い出したように切り出した。


「あ、カイト。同棲の件だけどね」

「ん?」

「仕事用の資料も持って行っていいかい?」

「おう!今のカブなら一回で運べるんじゃねーかな」



 ――という訳で俺はセシルと別れ、気まずいながらイングリッドに挨拶してギルドを後にした。


イングリッドあいつめっちゃ笑ってやがったな……くあー、変なとこ見られちゃったぜ……。ま、いっか」



「よし、ターニャ。今日はもう帰るぞ!」

「……んぉ!?……おじー、かえる?」


 俺は背中におぶったターニャに話しかけた。それにしてもよく寝るなコイツ。


「おじ!今日はもうしごとおわりー?」

「おうターニャ。そうだ、仕事は終わった。でもこれからやる事があるぞ」

「なにー?」

「家を建てるんだ!!すげーだろ??」

「いえ!?すごいすごいターニャもいえつくるー!!」

「ふふ、すげーだろ?今からその家を建てる場所を探しにいくぞ!」

「ういーー!!」



 俺は外にいたカブにもその事を伝えた。


「……って訳でカブよ。土地を探しに行くぜ!」


 カブは驚いていた。


「カ、カイトさん。そんな、家とか本当に建てられるんですか!?」


 俺は得意げな顔付きでカブに説明した。


「この世界、レンガがいっぱい売られてるみたいなんだよ……という事は皆それを使って家を建ててるって事だ。だったら俺も作ろうって話だ!」


 カブはしばらくあっけに取られたような表情をしていたが、やがてニカッと笑い、


「カイトさん!さては今、ちょっと燃えてますね!?」


「ははっ、分かるか?その通りだ」


 実際俺の頭の中は家造りの事でいっぱいだった。

 まずは家に帰って家の建て方を調べてみよう。ネットが繋がってて良かったー。



 ――ドゥルルルン!キキッ……。


「ふうっ。帰って来たぞー、我が家に!」


「わがやーわがやー!」


 カブから降りたターニャがちょっと舞い上がっていた。


「もうじきセカンド我が家が出来るぞーターニャ!」

「せかんどー?なにー?」


「2番目のって意味だ。会社の事務所でもあるけどな」

「ふーん。早くつくろーおじ!」

「おう、まずは情報を……ん?」


 俺は例の巨木に目をやった。

 なんか根元の大きな裂け目のような穴が光っているように見える……。


「カブ、ターニャ。あの木、光ってねーか?」


「ホントだー!」

「た、確かに光ってますね!?何でしょう?」


 俺達はちょっと様子を見に行ってみた。

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