第97話 剣が欲しいぞ!


 バダガリは慣れた手つきで猪の足を括り、木に吊り下げ剣を刺して血を抜いてくれた。


「後は近くの川でコイツを洗って内蔵抜いてバラしていくだけだ。貴重な肉だぜ!」

「あの、私料理できないので、教えて欲しいです。駄目ですか?」


 遠慮がちにお願いするイヴにバダガリは大きくガッツポーズをしてみせる。


「お、……おお!とんでもない全然いい!むしろありがたいぜ」



 ははっ。なんだ、バダガリももう普通にイヴと話せてんな。

 ここで俺はちょっと気を利かせて2人きりにさせてみようと考えた。



「なあバダガリ。肉の解体はありがてえんだけど、それ結構時間かかるんじゃねーか?」


「ん!……あーそうだな。夕方ぐらいまでには出来ると思うんだが……」


「それだとヤマッハに帰る頃には夜になっちまうな。ちょっとギルドや給油所にも寄りたいし……んー。イヴ、どうする?俺とターニャはもうそろそろキルケーに行こうと思うんだが……」


 それを聞いたイヴは、凄く迷ったような顔をした。

「あ……」

 ギルドというのがちょっと気にかかったように見えた。まああんな事があったからな。


「バダガリ、今日お前イヴをどっかに泊めてやってくれよ?どうせ家なんていっぱい持ってんだろ?」


「ええええ!?そ、そそそそ、それは。ア、アレか!?お、おおっ、お泊りって事か!!??」


 思いっきり挙動不審に戻ってしまったバダガリの事はもうほっといて俺は続けた。


「明日の朝また迎えに来るからよ、そん時肉ももらって帰るわ。イヴはそれでいいか?」


 イヴは初めちょっと戸惑っていたが、やがて笑顔になって答えた。


「はい!今日はバダガリさんの所にお世話になります。カイトさん、本当にありがとうございました」


 よっしゃ!後は若い2人に任せる。あ、あとイヴの持ってた剣は返しとこう……。コレもどっかで買わねーとな。



「おう、じゃあな。行くぞターニャ」


「ういーー。イヴ、バダガリ。ばいばーい!!」




 ――というわけで俺とターニャはカブに乗り、キルケーへと向かった。もちろん後ろの荷車に野菜を積んでいる。


「バダガリさん、大丈夫ですかね?」


 カブが聞いてきた。


「まあ大丈夫だろ?アイツも男だ。やる時はやるだろう。イヴも嫌そうじゃなかったし……円満解決って事だ!……多分」


「僕から見てもあの2人、いいと思いますね!」


 バイクのお前から良い評価を貰うのも何だが……、まあいいや。


「おじ。イヴにはまた明日あうのー?」

「ああ、多分あの2人は今夜セッ……も、もっと仲良くなってるんじゃねーかな?」

「ふーん、ターニャ。バダガリもイヴも大好き!」

「おう!知ってるぞ」

「いやー、微笑ましいですねぇー」


 ……などと、何とも平和な会話をしているうちにキルケーに到着した。

 正直ゼファールのニンジャーまで行った事を思えばバダガリ農園とヤマッハまでの60キロぐらいは近場の距離だとすら感じる。

 しかも信号のない一本道で、これが意外な程に快適で気持ちがいい。


 あー、やっぱカブはイイな〜。



「おーっす、フランク。野菜と小麦粉持ってきたぞぅ!」


 俺はフランクの家の前で奴を呼んだ。


「あ、どうもカイトさん。いやー、しかし速いですねー」


 フランクは報酬の1500ゲイルを手に持って家から出てきてくれた。

 ついでにの事、ちょっと聞いてみよう。

 俺は報酬を受け取り財布にしまうと、早速切り出した。


「毎度!……なあフランク、ちょっと聞きてえんだけど、『剣』ってどうやって手に入れるんだ?やっぱ刀剣屋とかで買うのか?」


 フランクは意外そうな顔をした。


「え、剣ですか……。どうしたんですか、急ですね?」


「実はゼファー……じゃなくて。ほら、今の俺達ってよく考えたら盗賊とかに襲われたら抵抗出来ねえなーと思ってよ。武器ぐらい持っといた方が良いと思ったんだ」


 あ、あぶねー。迂闊に喋っちまう所だった……。今の俺は公式にはニンジャーからヤマッハに向かってる途中なんだよな……。


「あ、あー……。なるほど!剣といえば隣国のゼファール製の剣が良質なんですよ。スズッキーニにもゼファールの職人が技術を伝えていい剣を作っている町があるんです。『カターナ』って町なんですけどね」


 なんか新型モデルチェンジしそうな町だな。


「ヤマッハには置いてないのか?」


「うーん、基本的に剣や槍のような武器類は普通の町にはないですねー。料理用のナイフとかは別ですが」


「なるほどな、分かった。ありがとうな」

「いえいえ」



 剣に関する新たな情報が得られ、満足した俺は次にヤマッハのギルドに向かった。

 あいつらには色々気ィ使わせちまったからな。



 ――キキッ。


 俺はギルドの裏にまたカブを止めて、正面から建物に入っていく。


「おっす」


「あ、カイトさん。こんにちはー!」


 受付のイングリッドがいつもの笑顔を向けてくる。


「よう、昨日は色々すまんな」

「いえいえー。お気になさらず」


 昨晩あんな事があったがコイツは普段と全く変わらない余裕の雰囲気を纏っていた。

 まあコイツはイヴの事に直接関係ねーってのもあるが……。


「私は何ともないんですが、セシルさんはちょっと落ち込んでるみたいですね……」


「……ちょっと会ってきていいか?」

「はい。是非そうしてあげて下さい!セシルさんも安心するでしょうし」



 という訳で俺はターニャと一緒にセシルに会いにいった。

 裏口から中に入ってセシルがいつもいる資料室のような場所の前に立った。


 ――コンコン。


「おう、セシル。俺だ」


 すぐにドアは開かれ、ちょっと憂鬱そうなセシルが立っていた。


「どうだ、気分は?」


 セシルは苦笑しつつ答えた。


「あまり良くないね……」

「やっぱ、イヴの事で悩んでるか?」

「うん」


「お前は悪くない。それと、その件はもう解決するかも知れん」


「え?」


 ポカンとした表情を浮かべるセシルだった。


 俺はバダガリ農園での出来事を全て話した。

 するとセシルは心底ホッとしたような顔で、深い息を吐いた。


「はぁーーーーっ……良かった……」


 俺は自然と笑顔になった。


「ははっ。多分お前の優しい性格からして悩んでると思ったんだ。ホッとしただろ?」


「……うん」


「セシル、イヴと仲わるいのー?」


 唐突にターニャが入ってきた!


「ま、まあ。大人には色々あるんだよターニャ」


 俺がちょっとはぐらかすと、ターニャはバンザイしながら子供らしい事を言った。


「ターニャ、どっちもすきー!うふふー」


 俺達は屈託のない呑気な笑顔のターニャに癒されるのだった。

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