第28話 あ!そうか……


 夜になった。スマホを見てみると深夜の1時。約6時間遅れのこっちでは午後7時ぐらいになる。


 ここまでで出来た軽油とガソリンは30リットル。タンク1.5缶分だ。


「やっぱり時間がかかるな……」


 給油所から持って帰って来た未蒸留軽油を全て分留するとガソリンも軽油も3缶60リットル出来る計算になる。


 それは良いが、一つ困った事がある。



「このまま蒸留してるとよ、ガソリンが余りまくっちまうんだよな……」



「あ、本当ですね!バダガリさん軽油いっぱい欲しがってましたけど、対して僕は燃費が良いのでガソリンはあまり減りません……確かにこのままだと配送する度にガソリンが余ってきますね……」


 カブは俺の言いたいことを代弁した。

 そうなんだ、軽油を蒸留してそれをバダガリ農園に納めるという流れだとどうしても――!



 あっ!!



「……そっか……別に蒸留とかしなくて良いんだよ……」


「えっ!?」


 カブはタブレット上で驚きの顔を見せる。説明しよう簡単な話だ。


「最初、お前のガソリンが必要だったから俺は未蒸留の軽油を一缶400ゲイルで買って今みたいに蒸留分離してるわけだ」


「はい」


「しかし今は軽油だけが欲しいのにガソリンも同じ分量出来てしまうから余ってくるってワケだ。じゃあよ、これからは給油所でだけ買えばいいんじゃねえか?」


「あっ!……そうか!!あそこは普通の軽油も売ってました!……っていうかそれが本来の売り物ですもんね!!」


「そう。確か一缶600ゲイルだったっけ?それをそのままバダガリ農園に持ち込めば1600ゲイルで売れる!荷車にはタンクが最高8缶乗せられるから単純に一往復で8000ゲイルの利益が出せる!」

「ほ、本当ですね……カイトさん。これ続ければお金持ちになれますよ!うっひょー!!」


 俺は自分の顔がニヤついてくるのを感じていた。

 そうなんだ、これは別に不正でもなんでもない。買い込みまくって価格を釣り上げたりした訳ではなく、給油所の提示した価格で買って配送先のバダガリ農園の合意した価格で卸すというだけだ。


「おう、そうだろ?はっはー!!コレで面倒なこの蒸留作業ともしばらくはオサラバ出来るぜ!」


「どうします!?早速明日にでも給油所で一缶600ゲイルの軽油買いに行ってそのままバダガリ農園に直送しますか?」


「そうだなー……あっ!!」


「どうしました?」

「金がねえな……。今手元に1500ゲイルしかないから2缶しか買えん」

「あー、そっか!くーっ勿体ない。あの荷車、軽油タンク8缶まで搭載出来るのに、今のままじゃ4〜5缶分ぐらいしか埋まりませんね……」


 くそっ、ホント勿体ねえ。まあ無いもんは仕方ないか……。


「とりあえず明日までに蒸留し終わった軽油と明日給油所で買う軽油とで多分4〜5缶ぐらいにはなるだろうからそれをバダガリ農園に持って行く」

「了解しました!」


 俺とカブは晩の11時ぐらいまで軽油とガソリンを分留し終え、なんとかタンク3つ分(約60リットル)の軽油とガソリンを作る事に成功した。


 よし、オッケー。もうガソリンは当分必要ない。


 ちなみにターニャは夕食を食べた後しばらく俺の後ろについて来ていたが、徐々に眠たくなったらしく今は布団の中でグッスリと眠っている。


 俺はガソリン缶と軽油缶を間違えないようガソリン缶だけを倉庫に入れて、明日配送する分の軽油缶3つを荷車の横に置いておいた。

 さて、後は寝るだけだ……。


「あー眠た……。じゃあ俺はもう寝るぞ、また明日な」


「お疲れ様でしたカイトさん。明日も頑張りましょう!!」


 眠気など全く感じさせないカブの元気な声を背に、俺はターニャの寝ている和室に向かい布団を敷いて深い眠りについたのだった。




 ――翌朝、俺はターニャに催促されるように目を覚ました。


「ん、お、……おう、おはよう」

「おじ!犬が来た!犬」

「え!?い、犬……昨日のか!?」

「うん、外にいるよー」


 ……俺は嫌な予感がした。あいつ、また俺に食い物ねだりに来たんじゃねーだろうな?……。

 そう思っていた俺の予想は良い方に外れた。


 俺は外に出てみると、やはり昨日の犬がいた。しかし――。


「おお。カイト殿!昨日は貴重な食料を恵んでいただき大変感謝しております!」

「え……お、お前本当に昨日の犬か!?雰囲気が全然違うじゃねーか!」


 そこにいたのは空腹に耐えきれず食い物を嘆願する情けない姿ではなく、威厳さえ感じさせるほどの堂々とした大きな犬だった。


「昨日はお見苦しい姿をお見せしてしまいました。今の私が本来の姿です今後ともよろしくお願い申し上げます」


「いや、今後ともって何だ!?餌をやるのはあれで最後だって言ったろ!?」


 俺は険しい顔つきで犬に釘をさしたが、犬の言った「よろしく」というのは全く違う意味だった。


「はい、カイト殿から頂いた食料で私は生きる活力が戻りました。その後、死ぬ気で狩りをして兎や鹿を見事捕らえることが出来、忘れていた野生の勘を取り戻せました!全てカイト殿からの賜り物のおかげ!私は猛烈に感謝しております!!」


 なんかすごい仰々しい敬い方だ。いや、感謝されるのはいいんだが……。

 ハキハキとまるで立派な人間のように感謝を表明する犬に、ターニャがゆっくり擦り寄って行く。お、おい?


「ふかふかー。あはっあはっ!」


 ターニャは座っている犬のモフモフした感触が気に入ったのか、顔をうずめたり抱きついてナデナデしたり、まるで飼い犬を可愛がるかのようなムーブをかましている。


 犬の方はそんなターニャに嫌な顔一つ見せず、あやすような落ち着いた振る舞いを見せる。

 ターニャが子供で、遊び心で自分に接してるってちゃんと理解してる感じだな。


 俺は改めて犬に感心した。


「カイト殿、昨日頂いた食べ物のお礼として、この家の周りの害獣や危険な外敵の排除は私にお任せ頂ければと思っております。今日はそれを伝えに来たのです!」


 犬は凄く大変そうな役を買って出ると言ってくれている。でも確かにそうしてくれたらかなり安心感が増すな。ここは素直に頼んでおこう、しかし本当に大丈夫なのか?


「良いのか犬よ?この辺は俺もまだ住み始めたばっかりでどんな生き物が出るか知らんが、熊とかもいるかも知れんぞ?……てかお前、そんなのと戦ったり出来るのか?」


 という俺の言葉を聞き、ここで初めて犬から笑顔が消えた。



「なるほど、まず私の力を信用して頂かねばならない……という事ですな。承知致しました」

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