第19話 スーパーカスタム!?
ちょっと気合い入れてセシルを説得しようと試みた。
「なあ、コイツはハイビム村で捨てられててよ、誰からも拾って貰えなくてずーっと村の真ん中で突っ立ってたんだよ。あまりにも可哀想だったから俺が拾って世話しようって決めたんだ」
セシルの表情は変わらない。
「最初は何も喋らなかったけど今は結構色々話してくれるようになってよ。結構俺としても嬉しくてよ。こいつには幸せになってもらいてえんだ!家に置いとこうかとも思ったけど野犬は出るし、盗賊だって入ってくるかも知れねえ。俺は遠い国から昨日初めてこの国に来てここのギルドしか信用できるとこは知らねーんだ!だから頼む!!コイツを預かっててくれ!!」
俺は頭を下げて必死にセシルに訴えた。
最後に言ったこのギルドが信用できるというのは、ぶっちゃけイングリッドがいたのが大きい。
彼女が一緒にいる中でターニャに何か悪いことが起こるところがあまり想像出来なかったのだ。
しかし返ってきたセシルの答えはこうだった。
「我々はギルドの利益を上げるために仕事をしている。この子を預かるとそれに割く無駄な時間が発生するし、それはギルドにとって不利益でしかない。それどころかこの奥には膨大な顧客の資料が置いてある。子供のことだ、なにかの拍子に破いたり破損させたりといった事も十分ありえる。そうなった時にあなたにその責任がとれるとは思えない。なので悪いがお子さんを預かることは出来ない」
しっかりした理由と共にズバッと断られてしまった、……が、ここで食い下がったらこの先ずっとターニャを危険な配達に連れ出さないといけなくなる。なんとしても――ん!?
ちらっとターニャの方を見ると、今にも泣きそうな顔をしている。
ど、どうした、ターニャ!?
「あ、あ、ああーっ。わあああああーーっ」
そう思っていたらそのままターニャは泣き出した。え?な、なんだ?どうしたんだ!?
……そう思っていたらイングリッドが片膝をついて、ターニャを抱きしめるようにしてあやし始めた。
「よしよし大丈夫よターニャちゃん。もう一人になったりしないよー」
え?一人!?……俺は混乱した。
「な、なあイングリッド。なんでコイツ急に泣き出したんだ?」
イングリッドはターニャをあやしながら答えた。
「ターニャちゃん、捨て子だったんですよね?……多分、カイトさんがギルドマスターに言った預かってくれっていう言葉を聞いて、また自分が捨てられると思ったんじゃないでしょうか?」
それを聞いて俺はハッとした。
「ターニャ、違うんだ!俺はお前を捨てたりしねえぞ」
「わあああああああああん」
泣き続けるターニャに俺はどうしらいいんだ!?と頭を悩ます。取り敢えず抱っこしてみる。
「ああああーー!」
コイツ全然泣き止まねえーー!
うおおお、どうすりゃええねん!?
――その時、俺の頭になぜかカブが思い浮かんだ。
「ちょっと待っててくれ!」
そう言い残しターニャを抱いたままギルドの外に出て、カブのリアボックスにターニャを突っ込んだ!すると――。
「ああああああ、あああ……あ、あ」
お!ちょっと持ち直したぞ!!
「……かぶ、カブ……はいたつ、はいたつ行く?」
おおっ!なんか泣き止んだ。良かったー。
俺はホッとして胸を撫で下ろす。
後からセシルとイングリッドも外に出てきて、セシルはちょっと驚いてこう言った。
「……コレがあなたの車か。思ってたより大分小さいな、車輪が二つしかない……!凄い……」
セシルは俺のカブを不思議そうに眺めている。
「そうだろ?見ての通り俺のスーパーカブは小せえからよ、ターニャを乗せたままだと仕事がやりにくいんだよ」
俺はセシルの気が変わってターニャを預かってくれるんじゃないかと期待した。
「まあ、そう言われても預かるのは無理だが――」
「……フン。そうかよ」
結局無理らしい。頭の硬いヤツめ……。俺はセシルを軽く睨み口を「へ」の字にした。
しかしセシルは俺にとある事を提案してきた。
「カイトさん、一つ思いついたんだが――荷車をつけるのはダメかい?」
「荷車!?……いや、出来ん事はない、と思う、が……」
俺は頭に手を当ててしばらく考えた。
荷車という荷物を運ぶための基本的なアイテムに何故今まで思い至らなかったのだろうか?
……確か家の倉庫に平らな木材が結構残ってた気がする。もし上手く作れてそれをカブに連結出来れば――、軽油を一回で大量に輸送できることになる。しかもターニャもボックスに入れたままで!!
こ、これは、……作るしかねえ!
ここで俺は気がついた。――俺の最大の趣味であり離婚の直接的な原因となったDIY熱が再び燃え上がってきている事に!!
「?カイトさん?」
しばらく無言で固まっていた俺にイングリッドが声を掛けてきた。
「うおっしゃあ!!」
俺は大声で気合を入れた。
イングリッドはビクッとし、セシルは首を傾げる。
「今日の予定が決まった!ターニャ、お前はこれからずっと俺の仕事に付き合えー!今日は営業しに行くぞ!!」
ターニャは恐らく半分ぐらいしか意味分かってないと思うが、俺の高まったテンションに釣られたのか物凄く嬉しそうに俺の言葉を真似していた。
「ういーーーーっ、しごと、えいぎょう、おじと一緒ー!!ういーーーーっ!!」
「おう、そうだ。一緒だ!はははっ」
イングリッドは安心したように微笑んでいる。
「やっぱりターニャちゃん、カイトさんと一緒がいいみたいですね!」
俺もなんかその方がいい気がしてきた。
自分のためを思えば仕事の効率とかを考えるよりも、子供の面倒ををちゃんとみた方が恐らく良いとも思う。
「よし、じゃあ俺達は軽油販売の営業行ってくる!……の前に一つ聞きてえんだが、大手の会社は軽油やら灯油は配送してねえのか?」
それにすぐセシルが答えた。
「燃料や可燃物は配達できない事になっている。以前軽油が漏れ出して引火し、大型車に積んでいた荷物が全て燃えてしまうという事故があって、そういう取り決めが交わされたんだ」
「なーるほどな。ま、俺はそんな大量の荷物抱える事はねえし余裕で運ぶぜぇー!」
「……お気を付けて」
セシルは送り出す言葉を述べながらも、俺とカブを興味深く観察しているようだった。
「よっしゃ、カブ!行くぞ、エンジン始動だ!」
俺はカブにそう呼びかけた。いつもなら元気な返事が返ってくるもんだが……あれ?反応がない。
……おい!?
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