第16話 朝食を作るぞ!
「おじ、ご飯ほしい!」
真っ直ぐ俺を見つめてそう言うターニャ。昨日よりも格段に元気な声だ。
昨晩風呂に入って服も洗ったからか、その姿はかなり女の子らしく可愛い感じになっていた。
「はっ、昨日もそうだがお前よう飯食うな」
「うん!」
ニコッと笑った顔が可愛い。
そうかー、そういや朝飯の事考えてなかったな。昨日買ってきた食材を味見してみるか!
そう、昨日イングリッドに買い物ついでに色々教えてもらったんだが、俺は今ほぼ忘れたてしまっていた……。
唯一覚えてるのはチキンと野菜のスープ。これを作ってパン焼いて食うか。よし!
あ、一応コイツが今まで家で何食ってたか聞いとくか。
「おいターニャ。お前今まで家で何食ってた?」
ターニャはちょっと考えて俯き答える。
「……草、なんか草」
「え?草!?そ、それは野菜って事か?」
「分かんない、でもまずい。たまにほんのちょっとだけプギャ芋……あれは美味しい!」
「プ……プギャ芋!?聞いた事ねえな、この世界独自の芋か?もしかしたら昨日買った野菜の中にもあったかも知れん……てかそんなんしか食ってねえんならそりゃ痩せ細るわな!」
俺は昨日の骨の浮いたターニャの体を思い出し眉をひそめた。
「今日はな、昨日のチキンを煮込んだスープを作ってやる。多めに作って夜にも食えるようにしとくからな!」
俺がそう言うとターニャは目を輝かせた。
「チキン!?唐揚げ!?」
「唐揚げじゃねーけど肉は一緒だ。台所行くぞ!」
「ういー!!」
というわけで俺は早速調理にとりかかった。
まず堅い人参や玉ねぎ、セロリなどを茹でておき、別の鍋にオリーブオイルをひき、チキンの手羽元を入れて炒める。
焦げ色がついたらみじん切りの白ネギを入れ、塩を加え少し炒め最初に作った鍋の中身を水ごと投入し、元々家にあった鶏ガラスープの元とコショウを加えて煮込む。
しばらくアクを取りながら野菜が柔らかくなるまで加熱する。うん、チキンスープはこんなもんか。
「ターニャ、お前はパンを切れ。これが包丁な」
興味津々という感じで俺の調理している様子を見ていたターニャに、パンを切るという仕事を任せてみよう。
「ほうちょう……?」
「おう、包丁な。この刃の部分は触るなよ!?指とか簡単に切れちまうからな」
「んー、分かったー!」
「よし、じゃあ昨日買ってきたこの……バケットっていうのか?フランスパンみたいにクソ長いこいつを……コレぐらいの厚さに切ってみろ」
俺はターニャに2〜3センチぐらいの厚さを指で教え、切ってもらってトースターで焼こうと考えていた。
まあターニャにとって恐らく初めて使う包丁だろうし手こずるだろうな――、と思っていたが、意外とすぐにコツを掴んでくれた。
「おう!上手いぞターニャ。使い方知ってんのか?」
ターニャは、俺が包丁は押したり引いたりして切るんだ、などと教える必要もなく自分からそのように包丁を動かしてバケットを切っていた。やるなコイツ!
「前の家でやってた。だから使い方分かる」
「マジかー!」
俺はこんな4~5歳ぐらいの子供の時から料理の手伝いをするのか……と感心したが、この世界じゃむしろコレが普通なのかも知れん……とも思った。
ターニャがバケットを切ってくれて、それが5つぐらい出来たのでトースターに突っ込みダイヤルを3〜4分に合わせる。
よし、コレでしばらくスープのアク取りと共に待つだけだ。
――そしてその間に考える。
今日もまたヤマッハに行くわけだがターニャをどうしよう?
家に置いていくのは怖いな。小さいから何するか分からねーし、火事を起こしたりするかも知れんし。あと盗賊や野犬やらに襲われないとも限らん、何かあったらと思うと気が気でない……。
かといって昨日みたいにターニャをリアボックスに積んで一緒に配達に回るのは荷物も積みにくいし転倒も怖いから難しい……。
となれば誰かに預けるか?だが、この世界に託児場などあるわけねえだろうし、悩ましい所だぜ。うーん、……!あ、そうだ。
イングリッドに預かっててもらおう!ギルドの受付カウンターの裏に広い部屋があったはずだ。
あそこなら変なヤツに目をつけられて拐われるなんて事もないだろう。よし、ちょっと頼んでみよるか!
チーン!
トースターから焼き上がりの音が響く。
早速焼き加減を見て取り出す、おおっ、丁度よく薄く焦げ色がついてる。オッケーオッケー。
皿を二つ用意しターニャと分ける。
「パンだー!」
ターニャは喜びの声を上げてはしゃいでいる。
「おう、ちょっと待て、せっかくだからスープと一緒に食うぞ。ターニャ、ちょっと味見してみろ。あと人参が柔らかいかチェックだ」
俺はスープと一緒に人参をすくい、ターニャの口元に差し出した。
「っっ!!あついー!!」
あ、すまん。熱かったな!?うっかりしてた。
俺はちょっと狼狽し、ターニャの頭を手で包むようにしてあやした。
まだ顔をしかめているターニャだったが、やがて、
「だいじょぶ……」
と言ってくれた、ホッ……良かったぜ。
今度はちゃんとフーフーしてからだな、まあ次は俺が確かめよう。
……!オッケー。人参もちゃんと煮えてて良い感じに柔らかい。
俺はスープ皿に自分の分と大きめのコーヒーカップにターニャの分をよそぎ、テーブルの上に置いた。
ターニャは早く食べたいのか椅子の上で足をバタバタさせている。
スプーンを持ってきて「いただきます」の合図をした。
――正直言って、……めちゃくちゃ美味い!
チキンの出汁が温かいスープに行き渡りスープだけでも十分すぎるぐらいの味わいなのに加え、骨付きの手羽元は一噛みしただけで骨から分離しもう一噛みすると細かく千切れて口の中でほぐれ、旨味を放出する。
強すぎる旨味に対してバランスを取るかのように人参や玉ねぎ、そしてセロリが味を整える。
ああー、うめえー……ブラックペッパーも入れたら良かったかもなー。なんて考えた。
スープに夢中になっていた俺はバケットを掴み、スープに漬け込んで一口。
パリパリッ。という音と共に、
――堅い!……という感想が頭に浮かんだ。
日本では滅多にフランスパンなど食わない俺にとっては久々の感覚だった。
しかし、一度パンを噛みちぎってからは口の中でスープがいい具合に溶け込み、硬さも丁度よくなって噛む度においしい。
パンの味自体は普通に地味だがスープと一緒に食うことで食のボリュームを何倍にも増やして満足感を与えてくれる!
こりゃあ朝食にも夕食にも合うな!
飯がこんなに美味いと思ったのはいつ以来だろう?俺はそんな風に考えていた。
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