第15話 新たな商材とターニャの子守


「あっ!今ポタッて一滴垂れましたよカイトさん!!」

「マジか!?見逃したわ」


 俺はちょっと残念な気持ちになったが、再び排出口を見ると、また滴が口から垂れていた。しかもさっきより早いペースで!!


 俺はポケットの中からメモ帳を取り出し一枚ちぎって、その滴の後ろにかざした。


「色は…………!?……無色だ、やった!ガソリンだーーーー!!」


「おおおおっ!素晴らしい。記念すべき第一歩ですね!」


 正直めっちゃ嬉しいぜ。


 ……いや、喜ぶのはまだ早い。まだたった数滴分しか取れていないのだ。ちゃんとカブが満タンになる4.3リットル分抽出できるまで安心はできんな。

 すぐに気を引き締めて再び鉄パイプの排出口を見やると――、


 チョロ、……チョロチョロ……。


 なんとさっきまで一滴一滴ずつ出ていたガソリンが、今では細い糸のようにハッキリと見える!


「おおっ!きたっ、きたぞっ!!」


「うわあーーーー、僕の食料が出て来るー!!」


「よーし、これで多分1リットルぐらいは出来るんじゃねーか?そんでガソリンが打ち止めになったら残った軽油をポンプで吸い出して、また新しく軽油を入れて――、それを繰り返せばいける!!」


「頑張りましょう!」



 ――といった感じでそれから1時間以上が経過した今、ガソリン携帯缶を揺すってみると……。


 チャポン……トポン……。


 しっかりガソリンが入っている音が聞こえてくる。2リットルぐらいは入っていそうだ。

 ……しかしこれだけのガソリンを作るのに軽油4リットルは使っている、つまりガソリンは蒸留前の軽油の半分しか取れず、もう半分はただの軽油――!!


 ……そこまで言って俺はハッとした……!


「あれ?カイトさんどうしました?急に黙り込んで??」


 俺は顎に手を当ててもうちょっと考えて、こう答えた。



『……なあカブ。このガソリン抜いた後の軽油、売れねーかな?』



「えっ!?売る……んですか。この軽油を?」


 俺には一つの考えがあった。


 まだこちらのスズッキーニ王国とかいう異世界に来て一日しか経ってないが、お金を稼ごうとするなら「このカブによる配達」っていう考えは変わらない。

 だがギルドに行っても仕事がない場合……つまり大手の業者に仕事を取られ配達先がない場合はその日の収入が0になるってことだ。


 ――だから。


「昨日はたまたま大手の配送業者が嫌がる配送先が残ってたから仕事にありつけた。でも普段は全部大手にかっさらわれて俺の出来る仕事がないってこともありうる。そうだろ?」


 カブは困った顔をタブレットに貼り付け、


「うーん、なるほど……、確かにそれはありますね。っていうか昨日でギルドに残ってた配達先全部回っちゃいましたもんね!うん」


 と、カブはなんか楽しげに話している。もう慣れたけど呑気なやつだぜ……。


「だからコイツだ」


 俺はガソリン抽出後の軽油を入れていた灯油用ポリタンクをポンッと叩いた。


「これは軽油の他に灯油もちょっと混じってる混合液なハズだが、ぶっちゃけ灯油も軽油も主成分はほぼ一緒だ、ケロシンだったっけ?まあ、これがこの世界のディーゼルエンジンに使えるのかはまだ分かんねーけどよ……」


 ここで俺は一呼吸入れてカブのタブレットを見た。カブは真剣な表情で俺の話に聞き入っている。俺は話を続けた。



「もしこの軽油がどこかで使えるようなら、俺は軽油の巡回販売屋を始めるつもりだ!!」



 キリッとした顔を作ってそう言い切った俺。

 カブは一瞬ポカンとした後、ちょっとずつ笑顔になっていった。


「……い、いいんじゃないですか。僕は応援しますよカイトさん!」


「サンキューカブ。お前ならそう言うと思ってたよ」


「早速今日から営業しますか?」


「おう、でもギルドで仕事があったらとりあえずそれをこなす。今は何より貯金を増やさなきゃならねえ。お前のガソリンだって原料の未蒸留の軽油を買う金がまず必要だしな。……だから軽油巡回販売の営業はギルドでの仕事が無かったらやる事にする!」


「なるほどー。分かりました!僕が手伝えることがあったら何でも言ってください!」


 俺はカブに笑顔で、

「おう、頼むぜカブよ」

 と返して引き続きガソリンの蒸留作業を続けた。



 ――そしてとうとうガソリンが4リッターほど精製され、カブのタンクに給油し終わったその時、突如として俺は後ろからの声にビクリとするのだった。


「あ……、う……うっ」


 後ろを振り向くまでもなくターニャの声だった。


「おお、おはよう!ターニャ」

「おはようございます!」


 俺はカブと声を揃えて挨拶した。が、……ターニャは顔がこわばっていて、体を小刻みにモジモジと動かしている――あっ……。


「しっこ……」


「おう、ターニャ!トイレだな。行くぞこっちだ!」


 俺はいそいそと玄関からトイレへとターニャを誘導する。


「便所も流せるんだよな?カブ!?」

「はははー、大丈夫です!ちゃんと繋げてますからー」


 呑気な声とは裏腹に俺のカブに対する信頼は厚く、アイツがそう言うなら大丈夫なんだろうと安心できた。っていうかアイツ実はめっちゃ有能じゃね?

 ……なんて思ったが今はターニャの生理現象が先だ。


「よし、ここのレバーを下げて扉を開けるんだ、そう。そんでこの便器に座る!そしてパンツ脱げ……あ、違う。先にパンツ脱いでからここに座る!そうだっ!」


 俺はターニャが小便を漏らさないか気にしながら慌てて説明をする。だがまあこうやって座ってくれたら一安心だ。


 シャー……。


 ターニャの小便の音が聞こえて俺は胸を撫で下ろした。なんか変態みたいだが俺は特にそういう性癖はない。


「ふーっ」


 ターニャから用を足し終えた合図のようなため息が漏れ、次に俺はまた頭を抱える事になった。


 ――女ってどうやって下拭いてんだよおおおお!?


 思い返せば俺は自分にも娘がいたくせに下の世話など全部嫁にやらせていたのだ。そういうのは同姓であるお前に任せるとか言って……。

 はあ、……今になってツケが回ってきやがったか、……すまんな透子。


 とりあえずトイレットペーパーをカラカラと多めに巻き取り、コレを当てておしっこを吸い取れ。と言っておいた、それで合ってるかどうかは知らん!

 ターニャも取り敢えず俺の言う事に従って股にトイレットペーパーをあてがい、それからパンツを履くのだった。


「おじ、おじ……」


 パンツを履いたターニャは何か言いたげだった。


「お、おう?ちょっと待て。小便が済んだらこのレバーを回すんだぞ」


 ――ジャー。


 便器に水が流れていくのを不思議そうに眺めるターニャだった。

 ってか何か言おうとしてたなコイツ……あ、もしかして「おじさん」か!?そういやコイツにどう呼べば良いかも言ってなかったな。よし。


「ターニャ。俺のことはカイトと呼べ!……別におじさんでもいいけどよ」


 するとターニャは元気に笑顔でこう言った。



「おじ!」

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