第14話 ガソリンを作るぞ(DIY)


 俺は昨日ターニャを寝かせたその和室で目が覚めた。

 布団も敷かずに寝落ちしたので体があちこち痛かった。


 ……というか布団とか関係なく、昨日のハードな仕事内容は俺の身体を筋肉痛にするに十分な運動量だったようだ。


 家の外が暗い。まだ外は夜か……。スマホを見てみると時刻は午前11時を示していた。


 ……は!?


「……あー、そうか。よく考えたら日本の夕方頃この世界に来たとき、まだ昼前だったから――多分こっちは日本より6時間ほど遅れてるんだ。ってことは今朝の5時ぐらいか」


 俺はぼんやりした気分のまま、ターニャがちゃんと寝ているかどうか確認した。


「スー……スー……」


 フッ……、ぐっすり寝てらァ。俺は自分の顔がほころぶのを感じていた。


 そういやカブはどうしてるかな?アイツはターニャと違って人間ではない……、かといってただのバイクでもなく自分の意志を持っている……一体何なんだろうな!?スーパーカブの精とか言ってたが、精霊の割には近代的過ぎないか?……。


 俺は自分の周りで一番不思議な生き物?であるカブの様子を見に玄関へと歩いていった。


 玄関の電気を点け、カブのメインスイッチをON(キーON)にしようと手を伸ばしたその時――。


「おはようございます!」


「うおおおっっ!?」


 めっちゃビックリした!


「お前、起きてたのか!?てっきり寝てるもんだと思ってたが」


 それを聞いたカブはタブレットにギャグ漫画みたいな笑顔を貼り付けて笑い出した。


「あっはっはっ。僕はカブですよ!?寝たりするわけないじゃないですかっ、面白い冗談ですねー!あっはっはっはっは!!」


 くっそ、なんかムカつくな……。まあいい。


「お前ガソリン残量ほぼ0だろ?」

「はい、昨日でほとんど使い切りました。僕はインジェクション車ですしリザーブタンクもありません。頑張ってガソリンを作りましょう!」

「やっぱそうなるかー。まあそのつもりで買ってきたんだけよ……」


 そもそもそんな簡単に出来るんだろうか?

 店員アイツ、鍋に入れて蒸留するとか言ってたけど、蒸気を逃さずまとめて冷やすのは難し――。



 あっ!!



 その時、俺は閃いた……。


「ヤカンだ!あと溶接だ!!」


 俺は思いついたら行動は早い。台所へダッシュし大きめのヤカンを手に取ると、庭に出て倉庫として使っている小屋へと駆け込む。

 ちなみにもう夜明けが近いようで、空の一部が白んでいた。


「カ、カイトさん!?どうしました??」

 カブも俺のこの一連の動きに驚いているようだ。


「えーっと……だ。あんなもんこの先使う事ねーだろうと思ってたが、今まさにその好機だ、この――鉄パイプのな!!」


 俺は倉庫の端っこに立て掛けてあったその鉄パイプを掴んで、天高く掲げた!


 ふはははははは。エクスカリバーでも手に入れた気分だぜ。


 こうなるともう楽しくて仕方がない。早速俺はその鉄パイプの曲がった先をヤカンの注ぎ口の先端へ当てがった。


 ズポッ!!


 やった!!……ちょうど俺の理想とするハマり方をしてくれた!


「あとはこの接合部部をアーク溶接したら出来上がりだ!」


 ――バチバチバチッ。


 十数分後、素人仕事ながらヤカンと鉄パイプが溶接され、注ぎ口が「へ」の字に曲がった不思議なヤカンが完成した!

 よしっ。コイツをカブに見せつけてやるぞ!!


 俺は年甲斐もなく子供みたいにワクワクして、そのヤカンを持って玄関へと走った。


「おい!見ろよカブ。これでガソリンの蒸留が出来るぞ!」


 するとカブは俺にヘッドライトをパッシングし、称賛の言葉を送ってきた。


「あ!なるほどー!このヤカンに蒸留前の軽油を入れて加熱。そして出てきた気化ガソリンを冷却してガソリンを抽出するって訳ですね!素晴らしい!!」


 ふはははは。その通りだ!!


「でも冷却はどうするんです?」

「ふっ、それも考えてある!いつか使うかもしれないと取っておいたこの発泡スチロール!魚を入れる用の縦長のもんだが、これにヤカンのパイプを通して中に氷水を張れば冷却装置として機能するはずだ」


「おおーっ。なんだか本格的じゃないですかカイトさん!僕もどんな風にガソリンが出来るのか見てみたいですが……」


「ほほー。お前もそういうのに興味あるのか?」


「まあ、だって僕の体に入る液体ですからねー」


「はっはっ。確かに!まあちょっと待ってな」


 俺は発泡スチロールに穴を開け、そこに鉄パイプを通す。

 よし、こんなもんでいいか。

 次に台所からカセットコンロを持ってきてヤカンをコンロに乗せる。


 次に冷凍庫の氷を全部持ってきた。

 日本じゃまだまだ暑い日が続いてたから氷は大量に作ってあったのだ!


 そしてガソリンを溜める10リットルの携帯缶の口に、鉄パイプの排出口を突っ込む。


 最後に発泡スチロールに氷をガラガラと投入していき、携帯缶の方にもソフトタイプの保冷剤を敷く。

 せっかく蒸留したガソリンがすぐ蒸発しちまったら勿体無い……っていうか危険だしな。


 ……よし、これで完成だ!


「よっしゃ、出来たぞ!」

「おおっ。凄い、なんか本格的ですねー」

「ふっ、じゃあヤカンに軽油入れていくぞ……」


 ――ジャババババ……。ジョロロロロ……。


 俺は給油所でもらってきた未蒸留の軽油を慎重にヤカンに注いでいった。


 ヤカンもさぞかし驚いてることだろう。まさか軽油を注がれるとは思ってなかっただろうよ……。

 八分目くらいまで注いだ所でヤカンに蓋をし、コンロに火を点ける。


「あの店員の兄ちゃん、加熱するとしか言ってなかったな。普通に100℃ぐらいか?あれ?ガソリンの沸点って何℃だったっけ……」


 ――と、カブにも少し聞こえるぐらいの声でボソボソつぶやいていると、カブの方から助言してきてくれた。


「カイトさん。僕が今調べた所によりますと、170℃ぐらいで蒸留すればいいらしいです。かなり低いですね!」


「分かった。ナイスだカブ」


 俺は素直にカブに感謝して赤外線温度計をヤカンの側面に照射した。

 20℃か……。まあまだ外気温と大して変わらんな。

 とりあえずジワジワ100℃ぐらいまで上げてみっか。


 それから俺は少し火を強めジワジワと煮詰めていった。

 俺とカブは鉄パイプの先端を凝視している。が、まだ液体らしきものは垂れてこない

 ……。


 しかし温度が80℃ぐらいになった時、その先端にうっすらと透明な滴が溜まってきているのが見えてきた……!!


「おおっ!!??」

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