第13話 風呂入って寝るぞ


 っとその前に――、野菜やら肉やら冷蔵庫にぶち込んどこ。


 勝手知ったる我が家の冷蔵庫を開けると中はヒンヤリしていて、しっかり冷気が充満しているのが分かった。冷蔵庫もちゃんと機能してる。よし!


「……なに?これ」


 俺の後について来てたらしいターニャに不意に話しかけられ、ちょっとドキッとしてしまった。


「これはな、れーぞーこってやつだ。れーぞーこ、な」


「れーぞーこ……冷たい!」


 ターニャは一瞬肩をすくめた後、冷蔵庫から出てくる冷気をその身に受けて不思議そうな顔をしている。その姿が新鮮で微笑ましい。


「ははっ。そうだろ?冷たいだろ?だからここに野菜とか肉とか魚とか、腐りやすいモンを突っ込んどくんだよ。こうやってな」


 俺は露店の食材屋で買ってきたモノを冷蔵庫へ詰め込んでいった。

 ここでは肉や魚は、「クマ笹」のような巨大な笹の葉のようなものに包まれて売られていた。

 ここじゃこれがトレーの代わりなんだな。むしろ高級感あっていいかも知れん。


「よっしゃ。風呂入るぞターニャ!」

「……ふろ?……って何?」

「体をきれいにするんだ。行くぞ」


 俺はターニャを引き連れて風呂場に直行し、まずシャワーが出るか確かめた。


 シャー……。オッケー!しっかりお湯が出るぜ!


 お湯が出るのを確認した俺は勢いよく服を脱いで、洗面台の横にあるドラム式洗濯機に突っ込んだ。そして大きいバケツを用意する。


「よし、ターニャ。お前も服を脱げ。んで、ここに入れろ」


 俺はターニャにバケツを差し出すと、ターニャは全裸の俺を手本に服を脱ぎ出した。


「お前の服はこの一着しかねえからな。お前がシャワー浴びてる間に洗濯してやる」


 ターニャは俺を真似して一瞬でポンポンと服を脱ぐと、俺の持っていたバケツに放り込んで「これでいいか?」みたいな顔をした。


「よーし、よし。じゃあ……!?」


 俺は全裸になったターニャを見て驚いた。


 痩せすぎている!!……。


 さっき食ったお粥や唐揚げなどで、腹はちょっとぽっこりしている。が、胸にはアバラが浮いているし足も腕も恐らく同年代の子供達に比べても細すぎる気がした。

 俺は思わず眉をしかめる。


「お前……、苦労したんだろうな。でも大丈夫だ。今日から毎日美味いもん食わしてやるぞ!……」


 シャアアアアー……。


 まず俺が手本を見せる。

「こうやって体にお湯を浴びたらコレだ。石けん!」

「石けん??」

「おう、ヌルヌルだろ?」

「うん!ヌルヌルしてるー。ひゃっ、あははははっ!」


 なんか石けんを気に入ったようだ。子供らしいな。


「んでな、この石けんを手で包んで撫で回してー、その手で体を隅々まで擦るんだ。しっこやうんちの出る穴は特にしっかり洗うんやぞ!」


 そう伝えて俺は自分のボディーを手で洗い出した。ターニャに手本を見せる意味も含めて全身をくまなく洗う。

 頭も石けんでいいか――と思っていたが、さすがに子供とはいえ女の子だけあって髪が長い。俺の5倍はある。そして本数は恐らく倍以上ある!?……ちょっと悲しい。



 そうしているとすぐに俺達二人は全身を泡に包まれた。

 俺はさっとシャワーで泡を流し、ターニャの着ていた服に石けんをつけてゴシゴシと洗う。


 ターニャはシャワーが気持ち良いらしく、しばらくずっと温かいお湯を浴び続けていた。



「―――よし、こんなもんでいいか。ターニャ、体あったまったか?」

「うん!」

「よし、出るぞ」

 笑顔で答えるターニャ、ふう、風呂が気に入ってくれて良かったぜ。


 俺はターニャの服を絞ってお湯を切り、後でアイロンをかけるべく洗面台の横の未使用のタオルの上に置いた。


 風呂から出ると、普段俺が使っているバスタオルをターニャにかけてやる。


「アイロンかけるからちょっと待ってろ」


 この世界は今んとこ日本の10月初旬ぐらいの気温なので風邪をひく事はないだろう。



 ――そして俺は普段ほとんど使わないアイロンを取り出す。久しぶり過ぎて多分アイロンの方が驚いてる事だろう。


 その横でバスタオルにくるまったターニャがまた不思議そうにその姿を見つめていた。

 おっと、ここは全力で注意しておく。


「お前、こいつのこの金属みたいな所には絶対触れるなよ!めっちゃ熱いから火傷するぞ。ほら!!」


 俺はアイロン台の上でホカホカになったターニャの衣服を触らせて注意喚起した。


「あっ!あつーい!」


「だろ?こっちの本体はもっと熱いから気ぃつけろ」


 服を触った事でアイロンの怖さが分かったのか少しだけ後ずさるターニャ。それでいい。


 そしてホカホカになってシワも無くなってパリッとした服をターニャに渡す。


「わー」


 なんか感動しているように見える。正直さっきまでと違い随分良いところの娘のように見える。


「ホカホカしとるだろ?」

「うん!ホカホカー!あははっ」

 笑顔のターニャを見て思わずこっちも笑顔になって安心する。それと共に、コイツにゃーもう2着ほど服を買ってといてやらねーとな……、という考えが湧き出てくるのだった。


 そのためには俺がしっかり稼がねーと!


 ……それは今までほぼ自分のためだけに生きてきた俺にとって、新鮮で前向きで充実した強い決意だった。


「悪くない……」


 そんな事をつぶやく。


 俺は今日あった色んな事を思い出しつつ、心地よい疲れを感じていた。


 いや、今日だけで200キロ以上走ったんだ、しかもアスファルトで舗装された道路ではなく完全なオフロードの荒れた道も走った。普通なら家に帰った瞬間疲労困憊でぶっ倒れてもおかしくない。

 他にも色々ありすぎて頭がパンクしそうだ。


 チラッと横を見ると、ターニャが再びウトウトし始めていた。

「おう、子供はもう寝たほうがいい。布団ひいてやる」


 立ち上がった俺は普段使わない布団一式を出すとターニャは俺が何か言う前から自分でそこに入っていき、ものの数秒で目を閉じて眠りの世界へと旅立つのだった。


「ぐっすり寝ろよ」


 そう言って次にやる事に考えを巡らせ始めたとき、俺の眠気も一気にピークに達した。

 ちょっとだけ横になろうと寝室に行こうとするも、その前に力尽きターニャと同じ部屋で横になってしまう。

 そして徐々に薄れていく意識の中で、


「明日はガソリン精製頑張りましょう!」


 ――というカブのマイペースな声だけが玄関から聞こえてくるのだった。

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