第11話 これ、ガソリンじゃなくて軽油です!!


 俺は持っていたこの世界のお金6700ゲイルのうち500ゲイルを支払って唐揚げを20本ほど購入した。

 そしてターニャとイングリッドにも分けてやろうとしたのだが、イングリッドは――。


「あ、私はさっきも言いましたが家にご飯があるので……」


 とか言ってやがる……。でもその割に唐揚げめっちゃ見てるじゃねーかお前?


「遠慮すんな。一つか二つだけ食えや」

「あ、はあ。じゃ、そうします……」


 遠慮がちなセリフを言いつつその顔はものすごい笑顔だった。

 ふっ、結構素直な奴だな。などと保護者気取りでいる俺だったが――。



 ガツガツ……。



 俺は手羽元の唐揚げなんて今まで何度も食ってきたし味も大体の想像は付いていた。

 しかし今、隣のターニャと我を忘れるほど夢中になってこの唐揚げにむしゃぶりついている……。

 バ、バカな!この俺がただの唐揚げにここまで夢中になるだと!?自分でもビックリだ。


 良い感じに味付けされたサクサクの衣に、中のチキンは柔らかく一噛みすると肉汁があふれ出てきて口の中で衣とチキンの旨みを引き立ててくれる!


 ああ……うめえ……。


 俺は空腹だった事もあり、ターニャと同じように貪るように唐揚げを頬張った。


 チラッとイングリッドの顔が目に入る。

 何やらニヤニヤしながら俺とターニャを見つめているようだ。何嬉しそうにしてんだよ。



 ――ものの十分程度で俺とターニャは唐揚げを完食し、満足そうな笑みを浮かべる。


「二人共よっぽどお腹減ってたんですねー……」


 ちょっと呆れ気味にそう言うイングリッドに俺は笑って返した。


「ああ、間違いねえ。俺はまだまだいけるぜ?ターニャはどうだ?」


 イングリッドもターニャに問いかける。


「ターニャちゃん。どう?お腹一杯??」


 ターニャは満足そうな笑顔のままこう答えた。

「……もっとー、もっと食べるー!」


 俺は思わず笑った。


「ははっ、子供はそうでなきゃな!とにかく今日は腹一杯になるまで食わしてやるぞ!!」


 ……という訳で俺達は他にもその場で食える屋台があったので、腹一杯になるまで色んなモノを食って回った。どれもめちゃくちゃ美味い!ターニャはもちろん俺も久々に満腹になるまで食いまくった。

 やべぇなこの世界……、気に入っちまいそうだ。



 それから俺は家で食うための肉、野菜、魚、米、パン……等、食材を一通り買い漁り、イングリッドに協力してもらいカブを停めていた場所まで運んでリアボックスに詰め込んだ。

 俺は財布の中を確認すると6700ゲイルから3500ゲイルになっていた。結構使っちまったなー。



 あ、そうそう、燃料も忘れちゃダメだ。


「よし、次はガソリンだ」


 俺がそう言うとイングリッドはちょっと焦ったように「カイトさん、あっちです急ぎましょう!」と燃料屋の方を指さした。


 その態度に俺はハッとした。そういえばコイツは遅くなっても大丈夫なのか?


「おうイングリッド。おめえーまだ家帰らねーで大丈夫か?親にうるさく言われねえか?……ってかもう結婚してるんか?」


「……いえ、私はとある方と同棲中です」

 それを聞いて俺は思い切って聞いてみた。



「……なあお前、ターニャを預かってくれねえか?」



「ええーっ!?私がですか!?」

「余裕があればでいいんだ。無理強いはしないが、どうだ?」

 イングリッドは悩ましげな顔をしながら答える。

「……私はてっきりカイトさんがお家に連れて帰るものだとばかり思ってましたけど……」

「俺はこの国に来たのも初めてで貯金も今持ってる分ぐらいしかねえし、小せえガキなんてどう扱えばいいか――」


 ここで俺はハッとした。


「いや、俺にも……、娘がいたんだ,もう20年は昔のことになるがな」

 イングリッドの表情が少しほころんだ。

「え!そうなんですか。なーんだ、子育て経験者だったんだー。じゃあやっぱりカイトさんが適任じゃないですか?」


 俺の頭の中には「反省」の文字が浮かぶ。


「でも、その娘の世話をほとんど嫁に任せっきりで俺は趣味に没頭してた。おかげで嫁さんにゃ愛想つかされて娘と一緒に逃げられちまったよ。完全に俺が悪いな」


 イングリッドは真顔で答える。


「……そうですか。それはカイトさんが悪いですね」


 耳が痛い……。


 俺は複雑な心境でターニャを見つめる。

 その俺の表情に何かを感じ取ったのか、ターニャは俺に近寄り、もたれかかるように体を寄せて俺の足にしがみついてきた。


「ほら、この子もカイトさんと一緒が良いみたいですよ!」


 俺はちょっと間を空けたのち返事をした。



「分かった。ターニャは俺が育てる。今度こそちゃんとするぞ!」



 イングリッドは微笑み、

「お願いしますね」

 とだけ言った。



 まいったな、今日だけで色々な事が起こりすぎだぜ……、まあ頑張るしかねえか。



 さてと、じゃあ後残るは燃料屋だ。


 イングリッドに案内されたそこは石造りの大きな柱が数本立っていて、中央にタンクと思われる四角い金属製の桶のようなものが2つあった。


 さて、早速給油だ!レギュラーガソリンはどれだ?

 俺は現代のガソリンスタンドと同じように店員に声を掛けた。


「おう、レギュラー満タンでたのむ!」


 するとえらい返事が返ってきた。


「え、ウチ軽油しか売ってないっすよ?」

「な、何だとぉーーーー!?」


 ええ……、それマジで言ってる!?


「レ、レギュラーガソリンないのか!?」

「はい、っていうかほとんどの燃料屋は軽油か石炭しか売って無いっすよ。そういうエンジンがほとんどなんで」


 イングリッドが首を傾げて聞いてきた。

「え、カイトさん。もしかしてカブちゃんに入れられる燃料、ない感じですか?」

「そ、そうらしいぜ……。うあーマジか、いくらカブでも軽油は――い、いや一応聞いてみるか」


 すると、尋ねる前からカブは激しく拒否してきた。


 パーーッパパパパパパパパパー!!


「軽油はダメですよー!そもそもガソリンと違って燃焼温度が高温だし始動するかどうかも分かりませんし、仮に上手くエンジンかかってちょっと走れたとしても煙吹いて壊れます!!絶対ダメーーッ。無理ーーっ!!入れるならハイオク入れて下さいー!!」


 パーーッパパパパパパパパパー!!


 カブはリズミカルな高速クラクションと共に早口で注意喚起する!


 うるせえっ!……ちょっ、分かった分かった!!カブお前落ち着け。


 くっそ、どうする!?

 ……とにかくここにないもんはどうしようもねえ、他に売ってるとこ探すしかない!

 俺は店員に、ガソリンはどこに売ってるんだ?と質問すると。


「王都ハヤブサールに行けばあったはずです、もしくは自分で分留前の軽油を蒸留して作るか――ですね」


「え?蒸留!?ガソリン作れるのか!」

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