第10話 スープキッチン
「そのスープキッチンの場所ってのはここから近いのか?」
俺はイングリッドに軽く聞いてみたところ俺の予想に反した答えが返ってきた。
「歩いて1時間ぐらいですかね……」
「……遠いじゃねえかー!もう日も暮れるぞ!」
――ドルルルン。
ん?なんか聞き覚えのある音が近づいてくるぞ?
トゥルルルルルルン――。
「はっはっは。カイトさん、それなら僕が皆さんを送って行きましょうか?」
なんとカブは勝手に自分でエンジンをかけて俺達三人の前に走ってきた!オイオイ目立つじゃねーかよ!
そのカブの姿にまずイングリッドが驚きの声を上げる。
「ええっ!?車が喋ってる!?……カイトさん?今この車カイトさんって言いましたよ!?……ってことはコレ、あなたの車?……ですよね??」
「くっ、……ま、まあな。本当はあんまり他人にコイツの事知られたくなかったんだが……。走るだけなら良いけど会話も出来るとか目立ちすぎるだろ?」
「へー……」
イングリッドはカブの車体をぐるっと一通り見回すと、タブレット上でカブのドヤ顔と目があったらしく軽く声を上げる。
「わっ!か、顔がある!?」
「ふふっ、そうです。私はスーパーカブの精!カイトさんの守護神でもあります!!」
なんか言い出したぞ。お前、結構自己顕示欲旺盛だな。……まあいい。
「と、とにかくまずスープキッチン行くぞ。ターニャ!」
俺はターニャをまたリアボックスに載せ、次にイングリッドをシートに座らせた。
「わっ!すっごく柔らかい椅子……」
イングリッドは初めて乗るカブのシートに驚きを隠せないようだ。この世界にスポンジ的なもんはまだ無いのかもな。
で、俺の方はというと――サイドペダルに足を乗せて。立つ!
「俺のケツしか見えねーけど我慢してくれイングリッド。カブ案内頼む!」
「分かりました!」
「よっしゃ。GO!」
パルルルン――。
ステップに立っていて、足が使えない状態の俺はハンドル操作と前ブレーキを、カブにはシフトチェンジとリアブレーキを、イングリッドには道案内を担当してもらい目的地へと急ぐ。
――トゥルルルルルー。
「わっ、速い!しかもめちゃくちゃ音が静かですね!?この車……」
「ああ、そうだろ?コイツが『スーパーカブ』だ。あ!ついでに俺の事業所名も後でそれにしといてくれ」
「は、はーい」
――それから10分程でその炊き出し場みたいな場所に到着した。
ザワザワ……。
「結構人が多いな、お粥まだ残ってるだろうな?」
「とりあえず行ってみましょう。はい、ターニャちゃん!」
と言ってリアボックスの中のターニャに手を伸ばすイングリッド。
「よい……っしょ!」
イングリッドは重たそうにしながらも何とか抱え上げて地面に下ろし、俺に耳打ちした。
「カイトさん、ターニャちゃん……、後で体洗ってあげた方がいいかもです。ちょっとニオイが……」
「お、おう。分かった……」
俺は反射的にそう答えたが、どこで洗うんだ?……まあいいや、とりあえず飯だ。
辺りには2つの巨大な釜があり、それをおたまのようなものでかき回しているおばちゃんがいた。
早速貰いに行くぜ!
「おう、3人分くれよ」
おばちゃんは俺達を見回すと、
「あいよ。でも一人一杯までだからね」
と釘をさし、お椀にお粥をよそった。ちなみに箸もスプーンもない。
俺はそれを受け取るとまずターニャにあげた。ターニャはちょっとだけ器を見つめてから、盃で酒を飲むように一気にグイッと口に流し込んだ!
「お、おいお前、……良い食いっぷりだが大丈夫か?」
「ごくっ……ごくっ……ぷはーっ」
「はあっ……はあっ……ふーはー……」
笑顔と真顔の中間ぐらいの顔で満足そうに上を向いている。
息を切らして一気に飲み干すその食いっぷりを見て、俺はちょっと笑ってしまった。
「おまっ。いくらお粥だからってちょっとは噛んで食えやー。はははっ」
その姿を見たイングリッドは自分の分のお粥もターニャに渡した。
「よっぽどお腹空いてたんでしょうねー。これも食べてね」
「お前、自分の飯はいいのか?」
「私は家で食べられますから。元々ここに寄る予定もなかったですしー」
「ああ、そうか。ありがとうよ」
俺はイングリッドに軽く礼をし、自分の空腹を満たすためにお粥をすする。
ズズッ……。ん?
ズズズッ……。んお!?これは!!
俺はターニャと同じように一気にお粥を飲み干した。ぷっはー……。うまっ!
「やべえ、これ、ただのお粥じゃねえ、ダシがすげえ美味い!なんだこのダシの魚みたいなのは!?」
「多分カツウオでしょうね。スズッキーニ王国の海で一番多く取れる魚です。大衆魚ですけど美味しくてこんな風にダシとしても使えて人気があるんですよ!」
「マジか!?これで大衆魚かよ……」
俺はこのときカブの言ってた『この世界は食べ物が美味しい』という言葉を思い出した。
「よし、お粥食い終わったら食材買いに行こう。家でも何か作れるかも知れんしな」
ここでイングリッドに嬉しい助言を貰う。
「この近くに食材屋がありますよカイトさん。そこなら大抵の食材が買えます」
「おお!よっしゃ、早速行くか。あ、それと車の燃料ってどこで買えるんだ?スタンド……いやなんでもない」
「燃料もその側にあります!カブちゃんと一緒に行きましょう」
カ、カブちゃん……!なんか不思議な響きだ。
まあガソリンもあるらしくて安心したぜ。
俺達はおばちゃんに器を返すと再びカブに乗り込んだ。
プルルルルルン……。
――そこからはものの数分で目的の食材屋へ到着した。
それは、食材屋として一つの建物がどーんと構えているのではなく、食材ごとの露店が通路にびっしりと立ち並んでいる――、といったものだった。
その各露店は野菜屋、魚屋、肉屋、……そして調味料や米やパン等ほぼなんでも揃っている!俺はちょっと感動した。
「すげえなあ!ホントに何でもあるじゃねーか!?」
「ね、言った通りでしょう?」
ここであんまり自分から喋らなかったターニャが何か話しだした。
「あれ……、あれ……」
ん?なんて?俺は目でターニャの指さした先を追っていくと……、そこには鶏の手羽元を油で揚げたもの、――いわゆる唐揚げなのだが――が20本ほど皿に盛られていた。めちゃくちゃ美味そうだ!
「わ~美味しそう……」
そう呟いたのはイングリッドだった。俺も完全に同感だ。そう思っていると手羽元を揚げている店員が話しかけてきた。
「今揚げたてなんですよ。ここで食べて行きますか?」
俺達は顔を見合わせ、即答した。
「おう!」
「はい!」
「ういー!」
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